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その悲劇は、何故止められなかったのか?『ニトラム/NITRAM』が見つめる、孤独な襲撃犯の肖像

キネマ旬報WEB

1996年、オーストラリアで発生した無差別銃乱射事件を元に、一人の青年が凄惨な犯行に至るまでの孤独な日々を、静謐なタッチで見つめた衝撃作『ニトラム/NITRAM』が、9月2日(金)よりBlu-rayとDVDでリリースされる。

オーストラリア犯罪史上でも類を見ない、凄惨な銃撃事件

本作で描かれる「ポート・アーサー事件」は、多くの観光客が訪れるタスマニア島の世界遺産・ポート・アーサー流刑場跡で発生した銃撃事件。地元に住む27歳の青年がライフルを無差別に発砲し、その場に居合わせた観光客ら35人が殺害されるという、オーストラリア犯罪史上でも類を見ない惨事となった。

当時を知る地元民の間では未だに事件の記憶が生々しく、遺族を含む関係者への憂慮も重なったこともあり、本作の映画化に際しては多くの反対意見が寄せられた。そのため劇中では犯人の実名などは明示せず(題名になっている主人公の呼び名「NITRAM」=間抜け野郎とは、犯人が幼少時に付けられた蔑称だそうだ)、乱射事件の直接的な描写も極力避けるなど、スキャンダラスに事件を扱わない配慮が成された中で、製作が進められたと言う。

監督を務めたのは 異色西部劇『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』などを手掛け、“現代オーストラリア最高の映画作家”とも称される、ジャスティン・カーゼル。2017年には人気ゲームを元にしたアクション大作『アサシン クリード』でハリウッド進出も果たすなど、その演出手腕が高い評価を受けている俊英だ。

最終的に本作は、2021年オーストラリア・アカデミー賞で作品賞・監督賞ほか主要8部門の賞を獲得し、更に主人公を演じたケイレブ・ランドリー・ジョーンズがカンヌ国際映画祭の主演男優賞を受賞するなど、国内外で多くの称賛を獲得した。事件を引き起こした犯人がなぜ銃を求め、これほど恐ろしい凶行に至ったのか、その心の深淵に迫る姿勢が高く評価された結果と言えるだろう。

犯人が唯一心を許した女性、そして彼を救えなかった家族

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Blu-rayに特典映像として収められた出演者とスタッフのインタビューの中で、主演を務めたケイレブ・ランドリー・ジョーンズは、本作の出演を依頼された際の心境を「もし脚本に“虫眼鏡”があったとしたら、その焦点はどこに当てているのだろう?」と考えたと語っている。その意味で本作が焦点を当てているのは、犯人と暮らしてきた両親、そして彼を最後まで「理解」しようと努めた女性の存在だ。

幼少の頃から情緒面で問題を抱え、大人になっても奇異な行動を繰り返してきたことで、周囲から白い目で見られてきた青年・通称ニトラム。そんな息子を半ば「放置」することしか出来なかった両親を尻目に、彼は近所で暮らす資産家の女性と偶然知り合い、初めて他人と心を通わせる喜びを味わう。演じるエッシー・デイヴィスの、どこか浮世離れした「貴婦人」のような存在感も相まって、二人が過ごす屋敷での光景を綴った前半は、不安定でありながらもどこか儚い「白日夢」のような多幸感に満ちている。

誰もが「このまま二人が平穏に過ごすことができれば…」と思わずにはいられなくなる日々は、しかしある不運によって突然崩壊してしまう。そこから以前にも増して暴走していく息子に成す術もなく翻弄される両親の苦悩を、オーストラリア映画界を代表するベテラン俳優、ジュディ・デイヴィスとアンソニー・ラパーリアが陰影に満ちた表情で演じているのも、大きな見どころだ。

詩情豊かな映像が炙り出す、襲撃犯の寂しく哀れな後ろ姿
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