シングルファーザーでもある鏑木・T・虎徹の頑張りを応援したくなる『TIGER&BUNNY 公式ガイドブック HERO gossips』(KADOKAWA/角川書店)

【画像】まだまだいる?頑張りすぎなパパ主人公たち(6枚)

ヒーローでありパパでもある 「正体」を隠して戦わなくてはいけないパパたち

『クレヨンしんちゃん』(原作:臼井儀人)の野原ひろしは、今や国民の理想の父親像を一挙に引き受けるキャラクターになっています。足が臭い、給料が安いなどと罵られようが愛する家族の笑顔のため毎日必死で働く……たしかに「理想的」ではあります。

 さてマンガやアニメでは野原ひろしのように、たとえ自分のことをおろそかにしてでも家族のために必死で闘う、ときには「もう休めば!?」と声をかけたくなるようなお父さんキャラクターが数多く登場します。今回は、そのなかでもとりわけ「休んだ方が良い」主人公・パパたちをご紹介しましょう。

娘にために半グレ男の死体を風呂で溶かすパパ……『マイホームヒーロー』

「週刊ヤングマガジン」で連載中(第3部連載予定)の『マイホームヒーロー』(原作:山川直輝 作画:朝基まさし)は、令和を代表する「パパ頑張りマンガ」となりそうです。主人公・鳥栖哲雄はミステリオタクの平凡なサラリーマン。大学生の娘・零花が半グレの男と付き合っていることを知り、娘を守るべく行動した結果、その男を殺害してしまいます。さらに哲雄はその男の死体を、持ち前のミステリー知識で風呂場で徹底的に「処理」しました。

 以降、半グレ集団に目をつけられた哲雄は愛する娘を魔の手から守るため、いつ殺されるかわからない状況下でプロの犯罪者たち相手に命を賭けた交渉に打って出ます。決して許される行為ではありませんが、動機は純然たる娘を想う気持ちなのです。それだけに殺人犯であるはずの哲雄、そして途中から協力者となってくれる妻に対し感情移入してしまうのです。話が進むにつれて最強の暗殺者・窪や、カルト教団まで絡み、どんどん目が離せなくなるマンガです。

パパは正真正銘のヒーロー「TIGER&BUNNY」シリーズ

 サンライズ制作のアニメ『TIGER&BUNNY』シリーズの主人公・鏑木・T・虎徹は、比喩ではなく市民の安全を守る「ヒーロー」職に就く中年男性です。妻に先立たれており、溺愛して止まないひとり娘の楓を泣く泣く実家に預け、自身はいつ呼び出されるかわからない過酷なヒーロー稼業を全うします。それでいて娘の楓に危害が及ぶことを防ぐため、自分の正体は長らく秘密のままでした。

 娘を愛するがゆえに自分の正体を隠し、それがゆえに娘の不信感を募らせることになるジレンマ……胸に刺さります。どんな世界でも、いつだって中年男性は板挟みであるようです。さらに『タイバニ』の世界ではヒーローは人気商売。どうにも派手さが欠けるらしい、虎徹扮する「ワイルドタイガー」は何かと他のヒーローたちの引き立て役に回ることが多く、これがまた人間臭い悲哀を感じさせてくれるのです。第2期のエンディングでバーナビー・ブルックスJr.とゆったりキャンプをしているところを見ると、なぜかこちらもホッとします。



80年代からずっと頼れるパパだった荒岩一味が主人公の『クッキングパパ』1巻(講談社)

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時代を先取りしていた荒岩一味

家でも会社でも頼れる最強パパ 『クッキングパパ』

 上記2作と違い一切、血生くさくない戦い方もあります。現在も「週刊モーニング」で連載中の超長寿マンガ『クッキングパパ』(著:うえやまとち)もまた、「正体を隠して闘うパパ」作品でした。主人公・荒岩一味(あらいわ・かずみ)は会社では部下をフォローする上司、家では家族を支える大黒柱としていつだって頼りになる男であり、何よりタイトルの通り料理が大好き。ところが連載初期において、このことは家族以外には秘密という設定でした。どうにも連載が始まった1980年代では社会通念上、男性が料理をすることに対し、まだ抵抗感があったようです。

 この設定は連載開始から10年が経過するまで残っていました。会社ではテキパキ仕事をこなし、家でも料理や育児をバリバリこなす。一体、いつ心が休まるのか、休まなくても良いのか、など余計な心配をしてしまいますが、彼にとって料理こそが最大の趣味であり息抜きでもあります。だからこその『クッキングパパ』なのです。

 ということで側から見ればちょっと休んだ方がいいのでは?と思わず心配してしまう、そんなパパ奮闘作品を紹介してきました。どれも共通しているのは「正体を隠している」こと。それすなわち、ヒーローの条件でもあります。「パパ=家計を支える大黒柱」という図式こそやや古いものとなりましたが、「パパ=ヒーロー」という図式は子供からすれば、いつの時代も嬉しいものなのかもしれません。