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竜骨をも削れる切れ味の良い僕のナイフを持ったまま彼は彼女を追いかけた

ゴールドライフオンライン

イギリス・モダニズム文学の代表作家“ヴァージニア・ウルフ”による長編小説「波」。※本記事は、内木宏延氏の小説『波』(幻冬舎ルネッサンス)より、一部抜粋・編集したものです。

「片足をこのレンガにかけて塀の向こうを見てごらん。あれがエルヴドンだ。ご婦人がひとり、長窓と長窓の間に腰掛けて書き物をしているよ。庭師たちが大きな箒(ほうき)で庭を掃いているぞ。ここに来たのは僕たちが初めてさ。僕たちは未知の国の発見者なんだ。

動いちゃだめ。庭師に見つかったら打たれちゃうよ。イタチみたいに馬小屋の扉に釘付けにされちゃうぞ。ほら! 動いちゃだめ。塀のてっぺんのシダをしっかりとつかむんだ」

「ご婦人が書き物をしているわ。庭師が掃いている」

スーザンは言った「もし私たちがここで死んだら、誰も埋葬してくれないでしょうね」

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「逃げろ!」バーナードは言った「逃げろ! 黒いあごひげの庭師が僕たちを見つけたぞ。打たれちゃう。カケスのように打たれて壁に留められちゃうぞ。僕たちは敵国にいるんだ。

ブナの森まで逃げ、木々の下に隠れなきゃいけない。来る時に小枝を折り曲げておいたんだ。そこが秘密の小道さ。できるだけ身をかがめて、後ろを見ずについておいで。彼ら僕たちのこと狐だと思うよ。逃げろ!

「もう安全だ。ふたたび背筋を伸ばして立てるよ。やっと両腕を伸ばせるんだ、こんなに枝葉が高く差し交わす下、この広い森の中で。何も聞こえないな。かすかな波の音が空のむこうに聞こえるだけさ。あれはモリバトが、ブナの梢に掛けた巣を飛び立つ音だ。モリバトの羽ばたきが空気を打つ。木でできた翼で空気を打つ」

「あなたがだんだん小さくなっていくわ」スーザンは言った「言葉を連ねながら。まるで風船玉のひものように、高く高く昇っていくの、葉叢を幾重も超えて、手の届かないところに。

今度はのろのろ歩いているわ。私のスカートを引っぱったり、後ろを見たりしながら、言葉を連ねているの。ああ行っちゃった。庭に着いたわ。生け垣ね。ローダが小道で、茶色の水盤に浮かべた花びらを前に後ろに揺すっているわ」

「私の船はみな白いの」ローダは言った「タチアオイやゼラニウムの赤い花びらはいらないわ。水盤を傾けると静かに動く白い花びらが欲しいの。これは私の船隊、陸から陸へと滑らかに航行するわ。小枝を投げ入れるの、それは溺れている水夫を助けるいかだ。

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