桃野美桜選手(左)と川畑梨瑚(りこ)選手(右)の攻防。桃野選手は帰路の車内で参加者一人ひとりにあいさつしていました

鉄道のコラボイベントで最近目にする機会が増えたプロレス。大手旅行会社のJTBが2023年9月に東海道新幹線1両貸し切りで実施した、史上初「最高速度285キロの戦い 新幹線プロレス」は30分で完売。マスコミでも報じられ、鉄道の歴史にも、そして格闘技の歴史にも新しい一章を書き加えました。

勢いに乗って、茨城県の関東鉄道(関鉄)が2024年4月14日に開催した「関鉄プロレス」。約80人のファンを乗せた、取手発水海道車両基地行き特別臨時列車をリングに、千葉県船橋市に本部を置く女子プロレス団体「マーベラス」の所属選手が迫力満点、さらには抱腹絶倒の〝場外乱闘〟を繰り広げました。鉄道プロレスの見どころは? 観客はどんな人? 列車に同乗してレポートします。

〝長与愛〟語る40年来のファン

業界用語を使えば、今回の影のプロモーター(興行主)は京成グループ。京成本線沿線の船橋で活動するマーベラスを、グループの関鉄がツアー化しました。1913年に開業した関鉄常総線は2023年が110周年。記念事業の一つとして企画しました。

今や日本に存在するプロレス団体は120以上とも。戦国時代並みの群雄割拠の時代にあって、マーベラスの支柱は長与千種選手です。女子プロレス界レジェンドで、1980年代にライオネス飛鳥選手との「クラッシュギャルズ」で一時代を築きました。2度の引退を経て、2014年にマーベラスを設立しました。

「40年間、ずっと応援し続けています」。出発の取手駅で長与愛を語ってくれたのは1980年8月、東京都大田区の田園コロシアム(1989年に閉鎖された多目的屋外スタジアム)でのデビュー戦を見たというコアなファン。LINEグループのネットワークで、お知らせが回ってきました。

参加者の8割は女性。北海道から九州までマーベラスを追いかけます。でも。全員がプロレスファンというわけじゃない。若干のアウェーながら、鉄道ファン・関鉄ファンの姿も見掛けたことをご報告します。


車両基地では選手を最前列に参加者全員で記念ショット

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大技連発、場外乱闘も

リングは、2両編成のキハ2300形気動車。マーベラスMCは「電車プロレス」とアナウンスしていましたが、本サイトをご覧の皆さまがブーイングしそうな「関鉄は気動車」のツッコミは言いっこなし。参加者の多くは、「関鉄に乗るのは初めて。日常利用するのは電車だけ」という、東京や神奈川からの来訪者なのですから。


特別臨時列車には「マーベラス」のヘッドマークが付けられました=取手駅で=

車内はロングシートが観客席、中央通路がリング。車両の壁やドア、観客に触れたらフォール負けの特別ルールが採用されました。

プロレスのリングと鉄道車両の違い。車両の床は一応ゴム系素材も使われますが、もちろんマットほどの弾力はありません。

それでも選手は手抜きなし。床に相手を叩き付けたり、ドロップキックなどの大技を連発、お決まりの場外乱闘もあって、乗客は歓声を上げながら逃げまどいました。


列車内とは思えないこんな大技も。パイルドライバー(脳天くい打ち)を仕掛けられる井坂選手はマーベラス唯一の男性レスラーです