巨匠ジウジアーロのデザインと、DOHCフラット6エンジン

巨匠ジウジアーロが望んだドーム型のラウンドキャノピーは斬新で美しく、全体のデザインも調和が取れていた

コンセプトとしては、「安いスペシャリティ・クーペの高級版」が限度だったアルシオーネでは及ばなかった真の高級ラグジュアリークーペ。

日本では「大人の豊かなパーソナルライフを演出する、本格グランドツアラー」、「500 miles a day(1日500マイル…約800kmを楽に走れるクルマ)」をテーマに宣伝されましたが、もちろん主要市場は北米であり、国際感覚で通用する高級GTを目指しました。

そのために必要な内外装や先進装備は、東京モーターショー1985に出展されたF-9X、同1987のF624エストレモといったコンセプトカーで先行したものをまとめ、デザインはイタルデザインの巨匠であるジョルジェット・ジウジアーロに依頼しています。

エンジンは新世代の水平対向4気筒EJ系をベースに6気筒化、DOHC自然吸気ながら3.3リッターの大排気量で、当時のEJ20ターボを上回った240馬力を発揮するEG33を搭載。

税制改正後で3ナンバー車の自動車税は安くなっていましたし、5ナンバー枠にこだわる必要もないと最初から全幅の広いワイドボディが与えられ、後席も含め車内スペースはゆったりしたもの。

それを包むボディは、ジウジアーロが望んだガラスルーフこそ実現しなかったとはいえ、ガラスで包み込む「ヒドゥンピラー」や、ルーフに回り込むサイドガラスのため開口部が小さい「ミッドフレームサイドウィンドウ」を採用したラウンドキャノピーを採用。

水平対向エンジンゆえの低いボンネットや、Cd値0.29の空気抵抗が小さいエアロデザインは先代にあたるアルシオーネ譲りで、4WDシステムは通常フロント36:リア64と後輪を優先し、状況により50:50まで変化する電子制御4WD「VTD-AWD」でした。

上級グレードのバージョンLには高速安定性に優れた同位相4WSも採用し、長距離高速巡航に最適な高級ラグジュアリーGTクーペとしての素質はバツグンだったのです。

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バブル崩壊とブランドイメージに泣かされる

斬新、高級、シャープな印象、重厚感とよくまとめ上げたデザインだが、それだけに1990年代には早すぎ、特にスバル車としては受け入れられなかったのが残念…燃費以外は現在でも通用しそうだ

しかし発売された1991年は日本でバブル景気が崩壊した年…レガシィセダンGT(約267万円)や同ワゴンGT(約276万円)より数十万円高価で、廉価版バージョンEでも約333万円、上級のバージョンLでは約400万円もするアルシオーネSVXは売れませんでした。

単に高価なだけではなく、まだ小型車のレガシィ、レオーネ、ジャスティ、軽自動車のレックスやサンバーといった安価なラインナップだった時代のスバル販売店に、こつ然と現れた高級ラグジュアリー・クーペはユーザーを戸惑わせるばかりだったのです。

これが日本だけの現象ならともかく、北米でも年間販売台数1万台を大幅に下回る実績しか残せなかったことからも、当時の富士重工がいかに空回りしていたかがわかります。

2020年代の今なら、「スバルが大排気量で高性能な4WDの高級クーペを出して何がおかしいの?」と思うかもしれませんが、どれだけ性能やデザインが優れていても、スバルのクルマとわかった瞬間に一歩引いてしまう時代では、仕方ないのです。

レガシィのツーリングワゴンでワゴンブームの最先端にはいましたから、東京モーターショー1991へ出展したシューティングブレーク版「アマデウス」を市販していれば多少はウケたかもしれませんが、クーペそのものが売れない時代になったのも災いでした。

戸惑ったのはユーザーだけでなく販売店も同様だったようで、某自動車評論家がディーラーで購入しようとしたところ、「ホントに買うんですか?」と驚かれたと言いますし、当時のスバルにとってはあまりにも時期尚早だったのでしょう。

スバルがプレミアムブランドとして認知されると、「早すぎた悲劇の名車」として再評価されたアルシオーネSVXですが、1997年に販売終了後は高級感あるSUVやクロスオーバーモデルは作っても、高級クーペを作ることはありませんでした。

電動化と厳しい燃費規制の時代に、いかにも燃費が悪い(街乗りだと5km/Lいかない)大排気量フラット6を積んで復活させるのも厳しそうですから、アルシオーネSVXはスバル最初で最後の高級ラグジュアリークーペ…ということになりそうです。

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