復帰初のF1マシン、スピリット201Cと難題だったエンジン

どうしようもないダメエンジンだったRA163Eだが、スピリットからウィリアムズへ早々に乗り換えた事で、あまり引っ張らずに済んだ

1982年シーズン中からテストした、第2期初のホンダF1エンジン「RA163E」ですが、当時のF1はルノーが1977年から始めた1.5リッターターボエンジンの性能が安定し、他のエンジンサプライヤーも3リッター自然吸気から乗り換えようとしていた時期です。

ホンダも3リッター自然吸気か、ターボエンジンか、はたまたV6かV10かとアレコレ検討しますが、結局はF2で実績を残している2リッターV6自然吸気エンジン、RA260Eの1.5リッター化で決まったものの、これがストロークダウンによる超ショートストローク型。

燃焼室の形状や容量も不足しており、ブースト(過給)が立ち上がる高回転域では気持ちよく吹け上がるも低速ではマフラーから黒煙を吹き出してグズり、ボボボ…ブァッ、カーン!と、トルク変動の激しい典型的な「超どっかんターボ」です。

なんでも、テスト走行中にはピットから見えない位置でも「そこらで黒煙が上がるから、マシンがどこにいるかはすぐわかった」というレベルでした。

搭載するスピリット201Cも、名前の通りF2用マシンをF1規定に合わせたキャリーオーバーで、シャシーもエンジンもF2用を無理やりF1向けに仕上げた急造マシンは、どうも洗練されておらずお世辞にも速そうな見た目ではありません。

それでも、1983年4月にブランズハッチ(イギリス)で開催されたノンタイトル戦、「1983レース・オブ・チャンピオンズ」でF1マシンスピリット201Cはデビューし、フリー走行では出走13台中3番手だったと言われますが、予選はまたエンジンがグズり12番手スタート。

決勝でもエンジントラブルによりたった4周でレースを終えるというほろ苦いデビューでした…RA163Eはどっかんターボなだけでなく、パワーを上げると熱に絶えきれずピストンが溶けるという、厄介な欠陥まであったのです。

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公式戦はわずか6戦で終わった「スピリット ホンダ」

ブーストさえかかれば無敵のパワーを絞り出すように思えた超どっかんターボに苦労させられたスピリットだが、1984年型マシンの101ではハートエンジンを積み、資金不足に苦しみながら健闘した

その後もパワーと信頼性の両立に努め、1983年半ばにはどうにか600馬力出るのがわかったので、とにもかくにもF1公式戦へ参戦。

ステファン・ヨハンソンのドライブで第9戦イギリスGPへ参戦しますが5周でリタイヤ、結局第14戦ヨーロッパGPまでの6戦で完走扱い3回、最上位は第12戦オランダGPの7位でしかなく、最終戦南アフリカGPはなんと走れませんでした。

というのも、ホンダが本腰入れて参戦すべく見つけてきた強豪チーム、ウィリアムズが「独占供給」を望んで南アフリカGPからRA163Eを積み参戦、「F1続けたいから、2番目でいいから供給して」とすがるスピリットは、無情にもホンダから袖にされてしまったのです。

そのため、F1マシンとしてのスピリット201Cはたった6戦でオシマイ。

ホンダも引き抜いてチーム作らせておき、都合が悪くなればアッサリとハシゴを外すのもあんまりだと思ったのかハートエンジンを買い与え、それを積んだスピリット101で翌年もスピリットはF1に参戦できた…と言われています(ただし資金不足で1985年途中に撤退)。

もっとも、スピリットレーシングとしても新興チームとしてF1へ参戦するため、ホンダをアテにしたという「持ちつ持たれつ」のドライな関係と割り切っていましたから、特にそれで「痴情のもつれによる慰謝料だなんだの争い」には発展せず、円満解消だったそうで。

実際、信頼性が低いRA163E、というよりバッサリ言い捨てれば「どうしようもないダメエンジンっぷり」を厳しく指摘してもらい、全面新設計のRA165Eへ至るにはウィリアムズのような「新興でも上昇志向の強いプロフェッショナル」の力を必要としていました。

ヘタに人情を絡ませ、スピリットと心中していたら第2期ホンダF1の成功はなかったかもしれない…と思えば、「スピリットよ、キミの犠牲はムダにならなかったぞ!」という事になるのでしょうか。

冷酷なビジネスライクと思うか、そういう決断ができるチームじゃなきゃ、F1なんて勝てないと思うかは読者の皆さん次第という事で…。

※この記事内で使用している画像の著作者情報は、公開日時点のものです。

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