「阪急マルーン」が生まれる瞬間を見た! 100年の秘密が詰まった「正雀工場」大公開

阪急電車といえば、マルーン色の車体にふかふかのシートーーそれらが“生まれる瞬間”を正雀工場で実見。100年の阪急クオリティは、並々ならぬ努力で支えられていました。

4年に1回!下地づくりから始まる塗装作業

 2022年度グッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞した「阪急電車のデザイン」。マルーンカラーの車体塗装やゴールデンオリーブ色の座席、マホガニーの木目調の内装の3つを基本とするデザインは、前身である箕面有馬電気軌道時代から脈々と受け継がれてきました。

 そんな阪急電車の車両メンテナンスを行っているのが、大阪府摂津市の正雀車庫内にある正雀工場です。今回の受賞を受け、工場内で行われているメンテナンスの様子や貴重な保存車両が、10月19日に報道公開されました。

 つやのあるマルーンカラーの維持に欠かせないのが、約7日に1回の車両洗浄と約4年に1回の再塗装です。

 再塗装の時期を迎えると、車両は全般重要部検査を行うため正雀車庫に入場。塗装をいったん手作業で全て落としたあと、パテを使い細かな凹みや傷を補修し、なめらかな下地を作ります。それから車両を塗装機に入れ、阪急マルーンとも呼ばれるマルーンカラーで塗装しなおされ、出場します。

 使用する塗料は、かつてはラッカー系のものを使用していましたが、現在はウレタン系になっています。塗料が変わると色味も変わるのではと思いきや、阪急電鉄では「 基準板」という板を使って厳格に色味を管理しているそうです。

 基準板にはマルーンカラーの塗料が塗られていて、これを車体と見比べることで色味が同じかどうかを確認できるというもの。この基準板自体も経年変化するため、2年に1回作り直すという念の入れようです。阪急電車の伝統のマルーンカラーは、このような絶え間ない工夫のもと受け継がれていています。

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シートにも伝統 張り替えは体力勝負

 ゴールデンオリーブ色の座席もまた、阪急電車の特徴のひとつ。バネやウレタンクッションなどを使った弾力ある座席にアンゴラのモケットをかぶせたシートは、座り心地と触り心地の良さで知られています。

 座席の張り替えはすべて手作業で、座席よりやや小さめに縫製した生地を、体全体を使ってセットしていきます。その後、座席をひっくり返し、生地の端をピンで留めていきます。

 ピンをリズミカルに留めていく様子は簡単そうに見えますが、実際にやってみるとかなりの力作業。モケットは手の水分を吸うため、手を水で濡らしながら作業します。ロングシート1本分の張り替えには、慣れた人で約30分間かかるそうです。

 正雀車庫では、箕面有馬電気軌道時代に活躍した1形をはじめ古い保存車両も公開されました。1形の車両はすでにマルーンカラーの塗装が採用されており、阪急電車のルーツであることが一目瞭然です。

 動態保存されている100形の内装は、ゴールデンオリーブのシート、木目調の内装、鋲を極力見せない工夫など、今の阪急電車にもつながるデザイン。現役当時は国鉄特急「燕」より早いとも呼ばれた車両ですが、引退後はドラマや映画のロケに使われたり、イベントで構内を走行したりしています。

 正雀工場におけるメンテナンスの様子や保存車両については、阪急電車の公式サイトや公式YouTubeなどでも紹介されています。