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“GTの原点”に立ち返る新たな挑戦。市販車モノコック製Z GT300をデビューさせたゲイナーが奮闘の先に見据えるものとは

motorsport.com 日本版

“GTの原点”に立ち返る新たな挑戦。市販車モノコック製Z GT300をデビューさせたゲイナーが奮闘の先に見据えるものとは(C)motorsport.com 日本版
 そのマシンは儚くも、確かなポテンシャルで見る者を胸躍らせた。

 富士スピードウェイで開催されたスーパーGT第2戦は、GAINERが手掛けた自社製作のフェアレディZ GT300にとってのデビュー戦となった。車両製作が遅れていた関係で、3月の公式テスト、そして4月の開幕戦岡山で走ることは叶わなかったが、その後岡山でのシェイクダウンを経て富士で実戦デビュー。予選ではシフトトラブル、決勝ではオーバーヒートに悩まされ満足にレースを戦うことはできなかったものの、予選Q1で見せたアタック、そして決勝でのレースペースは、トラブルフリーであれば上位を争う力があることを予感させた。

■非主流の市販車モノコックベースGT300で「人を育てる」

 ゲイナーにとって、オリジナルの車両を製作するのは2009年のフェラーリF430以来。しかしその後も“モノづくり”自体は継続しており、スーパーフォーミュラの部品やWTCC(世界ツーリングカー選手権)のシャシー、そして給油タワーといったピット機材など、多岐に渡る製品を作ってきたとのこと。そのためカーボン部品などを除けば、「大抵の物は内製できる」という。

 そんなゲイナーも、再びオリジナル車両を作りたいという思いは長らくあったようだが、スーパーGTは市販車をベースとした車両が戦うという特性上、製作には自動車メーカーによる意匠の許可が必要。その中でひとつの好機となったのが、日産陣営のGT500クラスにおける新型Z投入であった。

 これに伴ってゲイナーもGT300クラス仕様のZを製作する方向で動き出した。GT-R GT3での参戦を通して長年の関係があるNISMOとコミュニケーションをとりながら様々な協議を行なったが、その結果、車体は現在のGTA-GT300規定車両では主流となっているパイプフレームをメインにしたものではなく、市販車の量産モノコックをベースにして製作することになった。

 ゲイナーのチーム代表兼チーフエンジニアで、Zの開発も率いてきた福田洋介氏も、量産モノコックを使った車両製作には手間も時間もかかるということは、長年のモノづくりの経験から理解していた。しかしながら、それによって「人を育てる」ことができるという大きなメリットがあることから、量産モノコックでの製作を決断した。

 量産モノコックベースの車両製作ならではの難しさについて、福田代表はこう説明する。

「GTA-GT300車両を作るにあたって、量産モノコックではパイプフレームと比べて高いスキルが必要です」

「量産モノコックを使うとなると、やはりある程度できている部分の中に色々と入れ込んでいくことになります。フロアも普通にありますし、センタートンネルも基本的には残っています。溶接の歪みとか、手が入る入らないだとか、視界の確保ができるできないだとか、もしくは置きたいものを置けなかったり……そういった制約が結構多いので、知恵を絞りながら配置や順番を考えていかないといけません」

「ただ溶接するだけのスキルではなく、考えるというスキルが必要になります」

「量産モノコックは手間はかかる、時間はかかる、工数は増える、そして重心は下げづらいということで、何のメリットがあるんだと思われるかもしれません。確かにメリットよりもデメリットの方が多いと思っていますが、その分スキルが必要になることで人が育つと思っています」 

「せっかく車両を作るわけですから、それを通して何をすべきかというと、やはり人を育てるということだと思います」

■GTの“原点”に立ち返る挑戦

 近年のモータースポーツ界においても“市販車ベース”の車両で争われるカテゴリーは数多くあるが、特にレベルの高いカテゴリーになればなるほど、市販車の面影を残しているのは外面だけで、その中身はピュアなレーシングカーであることが多い。共通のカーボンモノコックを使うGT500はその最たる例とも言える。

 そしてGTA-GT300規定車両においても前述の通り、専用に設計されたパイプフレームに、規定で使用しなければならないAピラー、Bピラー、ルーフといった一部の量産車部品をかけ合わせた形が主流になっている。その一方でゲイナーのZは、正真正銘の“市販車改造マシン”と言っても差し支えないだろう。

 ある意味“古き良きGT”を地で行くのがゲイナーZだが、量産モノコックベースのオールドスタイルとなるとパフォーマンス面が気になるところ。しかし福田代表は、そういった量産モノコックベースのオリジナル車両のポテンシャルを確かめられるのは自分たちしかいないと語り、その点でもやりがいを感じているようだった。

 量産モノコックでは重心を下げづらいという点について話題を向けると、福田代表は次のように話した。

「GTの歴史の中で、何が一番性能が上がっているかと言うと、やはりタイヤなんですね。イベントで古いGT500車両が走ったりしていますが、それに今のタイヤを履かせたらどのくらいのタイムが出るかなんて、誰もやったことがないですよね」

「シャシー性能は寸法や空力レギュレーション次第という部分もありますが、作りとして量産モノコックを改造していた時代と、パイプフレームの時代を比較して、重心が下がることが全てプラスに働くのかと言われると……」

「昨年まで我々が使っていたGT-Rも重心が高く、ロールもすごくしていましたが、コンディションが悪いときにGT-Rだけタイヤが発動して、JAF系(GTA-GT300)のタイムが上がってこないというケースがちょこちょこあったと思います。(重心が低い車両も)ゴムがグリップして長距離持てば速いんでしょうけど、スーパーGTはセミ耐久レースなので、予選一発のタイムが出たとしてしても、(決勝で)天候不順でコンディションが変わった時にどうなのかというのもあります。僕の中では、重心が低いことが全てじゃないということの実証をしたいというのもひとつあるんです」

「やはり本来はレーシングカーではなく“グランドツーリングカー”のレースなので、原点に立ち返ると、市販車のモノコックありきでやるのがスーパーGTなのかなとも思います。これ(Z GT300)は市販車改造の、“ザ・GT”というマシンです」

「作りとしては1990年代や2000年初頭くらいの作りなんですけど、それでどこまで勝負できるのかを試せるのは、今ウチしかないと思います。そんなチャレンジができる機会なんてそうそうないと思うので、『やるしかないでしょう』という気持ちです」

■“完成”の先に見据えるもの

 富士でついに実戦デビューを果たしたZだが、まだ暫定の部品がついている箇所もあり、福田代表は「まず“完成”を目指さないといけない」と語る。そして来季に向けて予定されているレギュレーション変更などを見越しつつ、車両を仕上げていくという流れだ。

 そしてゲイナーは、車両製作コストのコントロールや車内快適性の向上に取り組んでいきながら、将来的にはZ GT300をカスタマーチームにも販売することを目指しているという。

 今季、そして来季以降の展望について、福田代表はこう語った。

「まず今年はトラブルが出ないように耐久性のあるクルマを作ることを目指します。それでとりあえず1台目を作って、色々と仕上げていった中で、ミニマムコストはいくらになるのかを算出して、これを販売できるのかを確認していきます」

「せっかく作るからには売りたいと思っているのですが、これで『2億円かかりました』と言われて買うチームはいないでしょうからね。コストを削減した作りに変えていく開発をしていきながら『これ、その値段でできたの?』というところに持っていきたいです」

 日本のレース界で、また新たなモノづくりの挑戦が始まった。
 
   

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