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F1分析|マイアミGP序盤、”目立たない存在”だったことが、ノリスの初優勝を後押し……フェルスタッペンの警戒はルクレールに向いていた

motorsport.com 日本版

F1分析|マイアミGP序盤、”目立たない存在”だったことが、ノリスの初優勝を後押し……フェルスタッペンの警戒はルクレールに向いていた(C)motorsport.com 日本版
 F1マイアミGPの決勝レースを制したのは、マクラーレンのランド・ノリスだった。ノリスはF1参戦110戦目で、歓喜の初勝利。一方でレッドブルのマックス・フェルスタッペンにとっては、今季2回目の敗戦となった。

 しかしレース序盤をリードしていたフェルスタッペンが、当時5番手を走っていたノリスに敗れることになったのはなぜなのか? 確かにセーフティカーのタイミングが重要な要因となったのは間違いないが、ノリスがそれを活かせたのには、フェラーリのシャルル・ルクレールの存在が大きく影響していたようだ。

 今回のフェルスタッペンは、初日からマシンのバランスに不満を訴え続けていた。しかしそれでも、予選でポールポジションを獲得し、決勝でも序盤はリード。そのまま今季5勝目を果たすのだろうと、多くの人が考えたはずだ。22周目にボラードを吹っ飛ばし、フロアにダメージを負ってもだ。

決勝レースペースのトップ3比較:フェルスタッペンはノリスを見ていなかった

 今季はトップ5チームが入賞を争う展開が続いてきたが、ここマイアミではメルセデスとアストンマーティンが不発。結果レッドブル、フェラーリ、マクラーレンがトップ6を争った。ただその中でも、マクラーレンは他の2チームに引き離されているように見え、表彰台は厳しいというのが目下の見方だった。レース序盤も同様で、マクラーレンはオスカー・ピアストリこそ2番手を走るシーンもあったが、ノリスにいたっては6番手を走るシーンが多かった。

 フェルスタッペンは、23周を走ったところでピットストップを行なった。これでノリスは、カルロス・サインツJr.(フェラーリ)と同時にフェルスタッペンの前に出ることになる。

 通常先頭を走っているドライバーは、後続のマシンのピットストップが終わり、ポジションを落とす危険性がない状況になった時に自身もピットインするというのがセオリーだ。他車に先行されることもままあるが、それは直接的なライバルとしては見ていない相手の場合のみ。今回もそれに当たると言える。

ルクレールを見ていたフェルスタッペン、その難しい立ち位置

 時を戻そう。上のグラフは、フェルスタッペンを基準とした、レース中のポジションを折れ線で示したものだ。縦軸「0」紺色の実線がフェルスタッペンの位置を示しており、上に行けばフェルスタッペンの前、下に行けばフェルスタッペンの後ろにいることを示している。

 レースが動いたのは17周目だった。まずレッドブルのセルジオ・ペレスが上位勢では真っ先にピットインし、その2周後にはこれに反応するように3番手を走っていたルクレールがピットに入った。

 このルクレールのペースが、フェルスタッペンに早々にピットインすることを強いることになる。

 ルクレールがコースに戻った時、フェルスタッペンからは23.4秒遅れたところを走っていた。しかしルクレールのペースは良く、翌周には22.4秒、その翌周には22.1秒と、フェルスタッペンとの差を縮めていた(グラフ赤丸の部分)。

 マイアミGPでのピットストップ時のロスタイムは18.5〜20秒程度。つまりこのままステイアウトしていたら、フェルスタッペンがピットストップをした時に、ルクレールに先行されてしまう……それを避けるためにフェルスタッペンは、23周目にピットインすることを選択した。

 これでサインツJr.やピアストリ、そしてノリスに先行を許したわけだが、フェルスタッペンはルクレールを相手に戦略を組み立てていたため、ノリスの存在はこの時点では眼中になかったわけだ。

 このことは、レース後にレッドブルのクリスチャン・ホーナー代表も認める発言をしている。

「ルクレールが少しずつ近付きつつあるのが見てとれたんだ。しかも、ピットストップの戦略としては、適切なタイミングだった」

「もちろん、他の人がピットストップをしたことで、ランドはその後に(セーフティカーラン中にピットストップを行なって)フリーストップを得ることになった。履歴の若いタイヤを履いたというメリットもあった。でも、我々はレースに勝ちにいかなければいけないんだ」

 さらにその後、コース上で激しく争っていたピアストリとサインツJr.が同時にピットインし、ノリスだけがまだタイヤを交換していない状態で首位に。そしてホーナー代表のコメントの通り、セーフティカーが出動してフリーストップ……つまり順位を落とすことなく、首位のまま新しいタイヤに履き替えることができたのだ。

 とはいえ、レース再開後ほどなくして、フェルスタッペンがノリスを抜き返すことになるだろうと、多くの人が思っていたはずだ。しかしノリスは好調なペースで飛ばし、フェルスタッペンを引き離していき、チェッカーまで駆け抜けたわけだ。

 これには、はやりフロアのダメージが相当に大きかったのではないかということが想像できる。フェルスタッペン本人は「僕としては、特に変わった感じはしなかった」と、ダメージの影響があったことを否定しているが、タイヤ交換を終えた後にもルクレールに差を詰められている(グラフ青丸の部分)。

 ルクレールのように後方にいるマシンなら、なんとか抑えることができた。しかしノリスのように前に出られてしまったら追いつく術はなく……結局ノリスに勝利を献上する形となってしまったわけだ。

 もちろん、ノリスの素晴らしいドライビング、F1初勝利は、賞賛されるべきものであろう。しかしそれを後押ししたのは、フェルスタッペン陣営の”注目を集めない場所”を走っていたことであり、さらにまさに絶妙なタイミングでセーフティカーが出動したことで、それを活かすことができたということだろう。

 逆に、後続のマシン全てがピットストップするのを待っていれば、フェルスタッペンはルクレールにアンダーカットされ、そのルクレールに勝利を献上することになっていた可能性もある。もちろん、ピットストップを先送りすることで、彼もセーフティカーの恩恵を受けられた可能性もあるが……レッドブルとしては、実に難しい、絶妙なポジションに立たされていたと言うことができよう。
 
   

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