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西武・青木智史育成コーチに聞く 「獅考トレーニング」の狙いとは【西武ルーキー成長記】

週刊ベースボールONLINE

現在、埼玉西武ライオンズではコーチを含めた日本一の育成環境を整え、そこで成長した選手が活躍し、優勝していく伝統を継承しつつ、科学的で多面的な要素も加えながら、より良いライオンズとしての新たな育成環境に取り組んでいる。その試みの中の一つに「人財開発」がある。週刊ベースボールONLINEで今季の新人の姿を追っていく連載「西武ルーキー成長記」。まずは、「人財開発」とは何なのか。青木智史育成コーチ兼人財開発チーフに2回に分けて語ってもらう。

大きな目的は「ギャップ」を理解すること



選手を指導する青木コーチ

 人材開発担当として定期面談のほかに、外部講師の坂田賢二さんにお願いする「獅考トレーニング」を2カ月に1回のペースで行っています。入団2年目までの選手が受講の対象ですが、今年から新人選手と2年目以降の選手でプログラムを分け、内容を変えました。新人選手は目標設定の大切さ、自己理解を深め、2年目の一部の選手はその目標設定に向け、思考の幅を広げてブラッシュアップしていく応用の部分に重点置きます。

 具体的な内容としては、講師がワークシートを用意して個々の選手がそれに書き込みます。自分自身が持っているスキルを理解し、目標に対して現状足りないものは何なのかという「ギャップ」を理解することが大きな目的です。足りないことが分かるからこそ、アクションプランが立てられます。明確な目標に向かって逆算することは重要な作業です。目標を書くことや言語化することが「恥ずかしい」、「表立って言いたくない」と感じる気持ちは理解できる部分がありますが、自分の目標を明確にして書くことで形に残ります。また、言語化することで責任感が生まれます。指標となる計画表は「手元に置いておきなさい」と伝えています。

 人財開発担当は選手のワークシート作成をサポートします。選手たちの性格を考えて「こう書くんだろうな」と思ったら全然違うことを書くケースがありますし、選手によって考え方、見え方が全然違うことを改めて感じます。勉強になることが非常に多いですね。1つのテーマで話し合うにしても、さまざまな答えが出てくる。そのときに自分の発想で浮かばない意見をどれだけ尊重できるか。自分の考えはもちろん大事ですが、それが正解とは限らないし、しっかりと周りの意見も聞いた上で判断できる思考を身に付けてほしいです。

 選手たちは今までの考え方や行動が正しかったから、NPBの世界に入団できたことは間違いありません。ただ、これからの目標は「プロの中で活躍して一流選手になる」ことに切り替わります。アマチュア時代にやってきた方法、思考がそのままプロでも通用するとは限りません。例えば高校野球で甲子園優勝したら、その成功体験が「絶対に合っている」という思考になる可能性があります。その考えを否定するつもりはありません。プロでもそのまま通用していくケースがありますから。ただ、その考えが通用せずに壁に当たることが多い。成功体験に固執しているときが「バイアスがかかった状態」ですが、実際にバイアスを解く作業は非常に難しいです。思考の幅が広がることで、「自分が変化しなきゃいけない」と気づく要素があれば、壁を乗り越える時間が短くて済むことにつながる。自分の成功体験を信じ切ってしまうと、壁にはね返されることを繰り返して現実と思い描く目標のギャップを埋められない。一軍で長く活躍する選手の育成を考えた時、挫折を味わった時のリスク対応として、バイアスをどう解くかが重要になってきます。

生活の行動パターンや習慣を深掘り


 獅考トレーニングの中で、過去の成功体験・失敗体験を紐解くために1日の行動パターンを書き出すことがあります。この行動は何のためにやっていたか、必要だったのかを見つめ直す。「これ必要あるかな?」と話し合い、「何となくやっていました。必要ないですね」と気づく選手もいます。野球の技術より、生活の行動パターンや習慣を深掘りすることが多いですね。


1日の行動パターンを書き出すことによって「思考が変わった」という是澤

 このトレーニングを受けて、「思考が変わりました」と気持ちが前向きになったのが是澤涼輔です。彼は状態があまり良くなかった時期に過去の行動パターンを見直して、成功したケースと失敗したケースに至る違いを自己分析しました。「この行動をやっていたときは良い結果が出ていた」と自己分析して思考が整理されました。頭の回転が速い選手なのでやるべきことを整理、準備していました。法大では出場機会が少なかったようですが、昨年のアジア・ウインターリーグ・ベースボールで試合経験を積み、成長度合いが大きかった。今までできていなかったことをクリアすることで自信をつけていると思います。

 僕は昨年にライオンズに来たのでまだ経験が浅いですが、獅考トレーニングはどの選手も積極的に取り組んでくれていると感じています。その中でも、ドラフトで下位指名だった選手は「これからやってやろう」という気持ちが強いので貪欲な選手が多いですね。「今までの自分じゃダメだ」という危機感を抱いているなかで、今後どのように成長していくのか楽しみですし、全力でサポートしていきます。

写真=BBM
 
   

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