top_line

あなたの語彙力が試される!
無料ゲーム「ワードパズル」で遊ぼう

芥川賞受賞作「花腐し」が大胆に脚色。ふたりの男と、ひとりの女が織りなす、切なくも純粋な愛の物語

キネマ旬報WEB

第123回芥川賞に輝いた松浦寿輝の同名小説を、荒井晴彦監督が大胆に脚色。綾野剛と柄本佑が、一人の女性をめぐって奇縁で結ばれる男ふたりを演じた、切なくも純粋な愛の物語「花腐し」のBlu-ray&DVDが、4月24日に発売となる。

 

ふたりの男と、一人の女の愛の物語

主人公は、もう5年も映画を撮れていないピンク映画の監督・栩谷。彼は家賃を滞納し、大家から取り壊し予定の古いアパートに住み続ける男を立ち退かせたら、家賃分に色を付けた経費やるという仕事を持ち掛けられる。問題のアパートを訪れた栩谷は、居座り続ける住人・伊関と出会い、彼の部屋で酒を飲みながら、お互いがつきあった女性の話を始める。やがて彼らは、つきあった時期は違うものの、実は同じ女性・祥子の話をしていることに気付く。だが祥子は、半年前に栩谷の知り合いの映画監督と心中して世を去っていた。

映画は綾野剛演じる栩谷と柄本佑扮する伊関が出会う2012年の現在をモノクロで描き、伊関が祥子と同棲を始めた2000年、栩谷が祥子と一緒に住み始めた2006年の回想部分をカラーで描いていく。二人がそれぞれに語る祥子との初めてのセックス、仕事に行き詰りながらも楽しかった日常、伊関のときも栩谷のときも、祥子の妊娠によって関係性が壊れていった経緯を、回想シーンを交えながら映し出していく。

 

映画業界に対する監督の目線に注目!

広告の後にも続きます

作品のポイントは二つあって、ひとつは荒井監督が原作にはない設定として、主要3人を映画業界の人間にしたこと。栩谷は斜陽産業で、もはや作品自体を作ることさえ難しいピンク映画の監督だし、伊関はアダルトビデオ作品を何本か書いたことがある元脚本家。そして祥子は芽が出ない女優である。映画の周辺でもがきながらもうまくはいかず、夢を諦めていく彼らの停滞感が、愛の生活に影を落としていく。荒井監督は自分がよく知った映画業界に引き寄せることで、この映画に独特の雰囲気を持たせているが、彼はこういうアプローチを過去にもやってきた。例えば神代辰巳監督の「噛む女」(1988)の脚本では、アダルトビデオの制作で成功した元映画のシナリオライターを主人公にしている。その主人公は、映画がアダルトビデオに押されていることにジレンマを感じ、商売とは別に自分で映画を作る夢を諦めきれない。「噛む女」自体は女性二人によって主人公が悲劇へと向かう結城昌治原作のサスペンスなのだが、その底流には脚本の荒井晴彦による、映画業界に対する独自の視点が加えられていた。

もう一つは時代設定で、2000年から2012年という経済不況の中の“空白の10年”を背景に語られる彼らの物語には、時代が背負っている社会の停滞感が漂う。その何とも言えない停滞感の中で、祥子との愛を掴みきれずに腐らせてしまった男たちの、やりきれない切なさと純愛が観る者の胸を衝く。バブル経済崩壊前の映画界の状況を描いた「噛む女」と同様、経済不況の真っただ中を背景にした今回の作品には荒井監督による映画業界に対する実感が込められていて、これが通常のラブストーリーとは違った色あいを出している。

 

ヒロインを演じたさとうほなみが印象的
  • 1
  • 2
 
   

ランキング(映画)

ジャンル