北朝鮮のテンパりは最初だけで、必ず攻め上がってくるとは予想していた。実際、ハーフタイムでよほど監督から活を入れられたのだろうか、後半に入ると彼らは一気にギアを上げてきた。球際の激しさはもちろん、ハイプレスやアーリークロス、ロングボールの多用など、僕らがアジア杯で散々苦しめられたポイントを突いてきた。
すごくいい形で先制したにもかかわらず、その後は何本かのチャンスをものにできず、後半、セカンドボールが徐々に相手にこぼれ始め、相手の勢いにのまれていく。まさにイラン戦の悪夢再び。
同じことを繰り返してたまるか、この苦しい時間帯が一番の踏ん張りどころだと自分に言い聞かせた。キャプテンである以上、周りにもハッパをかけた。
後半29分、(谷口)彰悟さんが入って、4バックから3バックにシステム変更。率直に言って、DFとしてはだいぶやりやすくなった。ロングボールへの対応が改善され、後ろを気にする必要がなくなったので、1対1の勝負もこだわってできるようになった。
守備陣の互いの距離も近くになったので、安定感が増した。同時に、相手のボールの出どころへプレスをかけられるようになり、むしろ攻撃的になった。前に、強く行けるようになったのだ。
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結果は1-0で試合終了。辛勝という評価もあるようだが、試合内容や戦術を飛び越えてなりふり構わず勝ちをもぎ取るという目標を達成した点で、ポジティブな勝利だと思っている。
■「これや、これ! このインテンシティ!!」北朝鮮で、勝利への貪欲さを全力で示してくれた立役者は(長友)佑都さんだ。久しぶりの招集、会えば僕も思わず顔がほころんでしまう。とにかくエネルギッシュでオーラがほとばしっている。
「これや、これ! これが欲しかったんや! このインテンシティや~!!」
と、練習の段階から雄たけびのような声を出して体を動かしていた。
さらに圧倒されたのは、佑都さんの体だ。皮と筋肉で、脂肪はほぼ皆無。お尻を触らせてもらったところ、感触はボウリングの球のようだった。
僕も今までたくさんのベテラン選手と一緒にプレーしてきたが、佑都さんは別格だと思う。37歳、W杯には4大会出場。今も体力の数値はトップレベルを維持。メンタルのみならずフィジカルも”モンスター”である。代表期間中はずっとトレーニング法やコンディションの調整について質問攻めにした。勉強になることばかりだった。
北朝鮮との試合中でも、佑都さんはライン際に立って、僕らを叱咤激励してくれた。気がつけば、佑都さんがいた。けっこうな頻度でベンチから前に出てきていたので、監督がもうひとり増えたようだった(笑)。
日本代表に選ばれることの喜びを全力で表して、たとえ出番があろうとなかろうと、練習から一切手を抜かず、チームの皆を鼓舞する。そんな姿を見て、僕自身、もっともっと努力を重ねていかないとダメだと痛感させられた。
何度でも言おう、やはり佑都さんのような”ギラギラ”がなくなったら、サッカー選手はおしまいだと思う。ましてや、代表チームは国を背負って戦う集団。
システムやフォーメーション、戦術も重要ではあるが、勝ちをつかむための闘争心こそが原動力であり、最も大事な要素だ。”満足”という名のリミッターは絶対つくってはいけないのだ。
板倉 滉
構成・文/高橋史門 撮影/山上徳幸 写真/AFLO/JFA