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数々の俳優賞を受賞した、岸井ゆきのが繊細な心を表現した映画「ケイコ 目を澄ませて」

HOMINIS

2009年に女優デビューした岸井ゆきの。2017年の初主演映画「おじいちゃん、死んじゃったって。」で第39回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞、2019年の主演映画「愛がなんだ」で第43回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した。また、今年4月から始まった日曜夜10時の新ドラマ枠第1弾となったドラマ「日曜の夜ぐらいは…」にも出演。脚本家・岡田惠和によるオリジナル作品で、清野菜名を主演に女性3人の友情が描かれ、その中でも一番謎めいた役どころ・翔子を好演した。今秋にスタートするNHKドラマ10「大奥」Season2 幕末編では、和宮役で出演することも決まっている。公武合体政策のため男装して14代将軍・家茂に嫁いでくる帝の妹宮という難役を、岸井がどう演じるのか期待が高まる。

印象的なまなざしの岸井ゆきの

昨年の出演映画でも「犬も食わねどチャーリーは笑う」 での鈍感夫に苛立つ妻や、「神は見返りを求める」での底辺YouTuberと、作品ごとに印象を変え、様々な役柄を演じてきた岸井。そんな彼女の演技が国内外で絶賛された映画「ケイコ 目を澄ませて」(2022年)が、9月3日(日)に日本映画専門チャンネルでTV初放送される。さらに、本編前後には岸井ゆきののインタビューも放送する。

本作は、聴覚障がいと向き合いながら実際にリングに立ったプロボクサー・小笠原恵子さんの生き方に着想を得て、「きみの鳥はうたえる」(2018年)で知られる三宅唱監督が新たに生み出した人間ドラマ。全編フィルムで撮影され、1人の女性の心のざわめきが16mmフィルム特有の生々しく温かな質感で映し出される。生まれつき聴覚障がいのあるケイコは、両耳とも聞こえていない。再開発の進む下町の小さなボクシングジムで日々鍛錬を重ね、プロボクサーとしてリングに上がり続けていた。言葉にできない想いが溜まっていき、葛藤の末に休会の意思を伝えようとするも言い出せずにいる。そんな中でジムの閉鎖を知り、ケイコの心が動き出す。

岸井は主人公のケイコを演じた。両耳の聞こえないボクサーという役どころゆえに、手話とボクシングの厳しいトレーニングを重ねて撮影に臨んだ。真摯な役作りを経たボクシングシーンも真に迫る。嘘をつけず愛想笑いも苦手なケイコは、特別な才能があるわけでもない。ミットを打つ音や叱り飛ばす声、歓声に怒号、周囲の騒がしさに反して、彼女だけが静かだ。しかし、その心の中は不安や迷い、怒りや哀しみなどの雑音で渦巻いている。痛い怖い逃げたい、でも逃げたくない諦めたくない負けたくない。レフリーの声もセコンドの指示も聞こえない中で、ただひたむきに目を澄ませ、感覚を研ぎ澄ます。声の演技がない分、体の動きや表情、瞳がその心を雄弁に語る。行く先を見失い葛藤しながらも、前を向き少しずつ進んでいく。岸井がケイコという等身大の1人の女性として、物語の中に生きていた。

本作で第46回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞した岸井。授賞式で涙ながらに思いを語る姿に、この作品にかけてきた情熱が強く伝わってきた。ケイコの日常を感じさせる繊細な心の動き、そのまなざしから溢れる叫びが、真っ直ぐに胸を打つ。その熱量から目が離せない。

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文=中川 菜都美

 
   

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