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【漫画】“やくそう8Gってぼったくりなんだぜ?” 地に足のついた異世界転生作品『貴族次男の成り上がり』が面白い

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ーー三木先生はとても多作で、ヒット作を多く手がけていますが、そのなかで『貴族次男の成り上がり』はどんな特徴のある作品でしょうか。

三木:「抽選」というシステムは、運良く目当ての物を引き当てるのと、外れた回数が一定に達した場合、望む物と交換させてくれる救済処置、この二パターンで景品を入手する方法があります。自分は昔から運がわるく、一発で何かを引き当てる記憶はほとんどありませんでしたので、いつも回数を重ねるいわゆる「天井」まで抽選を続け、その温情で欲しいものをいただいてました。その経験から本作主人公の特殊能力を構築しました。

ーー葉山先生は、最初に原作を読んだときどんな印象を持ちましたか。また、作画においてどんなことを意識しようと考えたでしょうか。

葉山:頭の中に物語がアニメとして流れ出したのを覚えています。第一印象というより、原作を読んでいる最中からハッキリとしたイメージが映像として浮かんできていました。ひとりの少年が寒さの残る森の中を歩いているーー1話の冒頭、『貴族次男』はそのシーンから始まります。

 意識したのは、読んでくださる読者のことです。三木さんはお話をいただいた時点ですでに累計300万部超を誇る大人気の作家さんでしたので、連載開始時の読者層として“三木さんのファン”の方を念頭に置いていました。まずはこの方々に満足してもらえる作画をしよう、原作の面白さをこぼさず届けよう、というのが目標でした。

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ーー異世界転生作品における「チートスキル」として、最初から異次元の力を持つというより、「魔法のかけら」を軸とした設定は、読者をワクワクさせ、先が楽しみになるものでした。また、「前世」が軽視される作品も多い中で、主人公に「収入・昇給」のようなサラリーマン感覚が残っていることも共感できる要因だと思います。このジャンルには多くの人気作がありますが、物語、作画の両面で、どんなポイントで差をつけようと考えておられますか。

三木:いち外国人の目から見た場合、日本人は世界でもまれに見る「努力好き」なお国柄だと強く感じていて、それは際だった美点だと強く思っています。しかしここ数十年の間、お世辞にも努力が報われる世相とは言えなくなっています。話変わってゲームなどでは「最初は弱いけど最終的には最強」というパターンのキャラクターは結構あります。これは言い換えれば「絶対に報われる努力」といういい方をすることができるため、目立たないが根強い人気のある設定と言えます。

 この作品では以上の二つの要素を組み合わせて、「最初は弱いけど」「努力したぶん必ず報われる」「異世界転生」というコンセプトにしました。

葉山:差をつけるというより、強みを伸ばしていければいいなというのがあります。最終的に作り手側が強みだと思っているポイントと読者の方が好きだな 面白いなと思うポイントが合致してくれたら一番嬉しいです。

 まず強みとして思い浮かぶものとして、まさに魔法のかけらという【アイデア】は主人公にとってではなく、この漫画そのものにとってのチート要素=強みだったんだと思います。三木さんがよく「銀のエンゼル」に例えてらっしゃるようにルールがシンプルでわかりやすく、それでいてギミックとして応用が利くので物語にとても力強い推進力を与えてくれているのを感じます。ネームを切る際にはこの“チート”なアイデアの魅力を演出で損なわないようにしなければと毎回心がけています。

ーー主人公・アラドを描く上ではいかがでしょうか。

葉山:漫画の中心はやはり【主人公】です。最重視しているのは読者の方に好きになってもらえるキャラクターであること。その根っこを持った上で、主人公が日本人として過ごした約30年ーーその元日本人としての様々な蓄積が何気ない仕草や言葉の端々に自然に滲み出るようなキャラクターになって欲しいと願っています。それは一種のリアリティにも繋がりますし主人公という読者の方の感情移入先としての役割にとっても一役買ってくれるのではないでしょうか。読者の皆さんが過ごした人生と主人公の過ごした人生が地続きであると感じていただければ、より物語に没入して楽しんでいただけるのではないかと思っています。主人公がかつてプレイしたゲーム、ハマった漫画やアニメは、きっと読者の皆さんの記憶にあるものと同じはずなので……。

ーーそのリアリティがあると、異世界という舞台の肌触りも変わってきますね。

葉山:【異世界】という舞台は、“漫画”ととても相性のいい題材だと考えています。なぜなら現実を舞台にした漫画と違い、異世界はまるまる想像力の産物だからです。主人公や登場人物たちにリアリティを持たせるとの同じくらい、彼らが暮らすその世界の現実感にも可能な限りこだわりたいと思っています。

 存在しない異世界のリアルさ。それを高めるために異世界で日常モノをやれるくらい、背景にも説得力を持たせたいのです。そのために自分を育ててくれた漫画やアニメから教わった表現方法や漫画的文法、ついでに幼少の頃から鍛えてきた妄想力を総動員して、読んでくれる方を楽しませられる背景ーー「異世界」を描いていきたいです。

ーーここまで伺ってきた通り、派手さやインパクトで読者の興味を惹くというより、主人公の試行錯誤を含めて、とても丁寧な作話・作画を魅力的に感じている読者が多い印象です。反響についてはどう捉えていますか。

三木:反響が大きいことはすごく驚いておりますし、光栄です。これは望まれている物をご提供できたととらえ、今後もしっかりと期待に応えられるような作品作りをしていきたいと考えています。

葉山:『貴族次男』は多くの読者に恵まれ、配信ストアでも高い評価をいただけているのはシンプルにめちゃくちゃ嬉しいです。電子単行本3巻のあとがきでも書かせてもらったことですが、物語の世界を“体験”して欲しいという想いで作画に励んでいます。主人公・アラドの目を通して、この異世界を実際に見て味わって驚いて、面白い、そして楽しいと感じていただけたのならばただただ作画冥利に尽きます。

ーーネタバレにならない範囲で、あらためて本作の見どころと、今後期待してもらいたいポイントを教えてください!

三木:本作に「困難」はなく、代わりに「課題」があると考えております。魔法の習得、分析、活用――というエンドレスワルツが本作のコンセプトで、それに加えて葉山先生の漫画力と、可愛らしく生き生きとしているキャラクターが魅力的です。魅力的なキャラクター達と、様々な課題を克服して成長していく様を是非楽しんでいただければと思っています。

葉山:原作は小説形式でいただいています。作画担当の自分も読者の皆さんと同じように、次の展開がどう転がっていくのか、あーかなぁこーかなぁと妄想しつつワクワクしながら待っています。これまでに出てきた謎や伏線の数々がこの先どう回収されていくのかが楽しみでしょうがありません。

 読んでくださる皆さんには、きっとこの異世界がどこかに本当にあるんだと感じてもらえるようこれからも細部にまで魂を込めて作画に努めていきます。『貴族次男』はとても長い旅になる予感がしておりますのでどうか末永くお付き合いくださいますよう、何卒よろしくお願いいたします。

(取材・文=リアルサウンドブック編集部)

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