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『猟奇的な彼女』の監督が明かす、初の恋愛群像劇に込めた想いと“ラブストーリー職人”としての流儀

MOVIE WALKER PRESS

クァク・ジェヨン監督ほど、長きにわたって恋愛映画を追求し続けてきた映画人もいないのではないだろうか。デビュー作『雨降る日の水彩画』(90)に始まり、監督の名を不動のものにした『猟奇的な彼女』(01)、綾瀬はるかを起用し日本のファンをさらに拡大した『僕の彼女はサイボーグ』(08)、 “アジアの彼女3部作”の最終作として中国で撮影した『更年奇的な彼女』(15)など、バラエティ豊かなラブストーリーを届けてくれている。12月9日(金)に公開される最新作『ハッピーニューイヤー』は、恋愛映画のマエストロたるクァク・ジェヨン監督の本領が発揮された温かなストーリーだ。

クリスマスと新年を控え、祝賀ムードが漂う高級ホテルのエムロス。父から経営を受け継いだエムロスの若きCEOヨンジン(イ・ドンウク)は、宿泊するスイートルームで軽やかに踊っていたハウスキーパーのイヨン(ウォン・ジナ)に惹かれる。フロアを取り仕切る敏腕マネージャーソジン(ハン・ジミン)は、15年来の親友スンヒョ(キム・ヨングァン)に片想いをしていたが、別の女性と結婚することを打ち明けられ、ショックを受ける。ベテランドアマンであるサンギュ(チョン・ジニョン)は、初恋の相手キャサリン(イ・ヘヨン)と偶然再会し、過ぎ去った青春に想いを馳せる。ジェヨン(カン・ハヌル)は5年連続で公務員採用試験に落ち、ついには恋人からも別れを告げられ、自暴自棄になり自殺を決意してエムロスに宿泊…。こうして、まったく違う人生を送っていた人々が偶然エムロスに集まり、運命が交錯していく。

■「様々な俳優さんとの出逢いがなければ出来なかった映画でした」

本作は、クァク・ジェヨン監督が初めて手がけた群像劇であり、いまの韓国映画界を盛り立てる多彩な俳優が勢揃いしている。不動のスター俳優ハン・ジミンとイ・ドンウクがメインを張るほか、若手俳優陣を牽引する1人カン・ハヌル、『君の結婚式』(18)をきっかけにファンを拡大させたキム・ヨングァン、『声/姿なき犯罪者』(公開中)でスクリーンデビューしたばかりの新鋭ウォン・ジナ、近年はホン・サンス監督作品で活躍するベテラン俳優のイ・ヘヨンらの演技のアンサンブルが心地よく、多くの世代の共感を呼ぶ。ここにも、クァク・ジェヨン監督ならではの流儀がある。

「『猟奇的な彼女』もチョン・ジヒョンさんという俳優がいなければ成り立たなかった作品でしたし、本作も様々な俳優さんとの出逢いがなければ出来なかった映画でした。やはりいい俳優に出逢う運が大切です。そのうえで、出演してくださる俳優の方々が決まったら、『この俳優だったら、どんな魅力があるのだろうか?』と長所を1つ1つ探します。観客に愛されるキャラクターに作り上げることを考えながら撮影をしているのです」。

とりわけ、監督は同世代でもあるキャサリンとサンギュのラブラインには思い入れがあったようだ。一度は別の人と結婚し、子どもを持った男女が再びときめき、純粋な愛を分かち合う2人の様子は、恋愛=若者の特権という偏見を吹き飛ばしてくれる。

■「ハン・ジミンさんは、『もしかしたらソジンと同じように恋愛が苦手なんじゃないかな?』と思いました」

俳優の魅力を引き出す名手であるクァク・ジェヨン監督の特徴といえば、愛すべきヒロイン像ではないだろうか。チョン・ジヒョン、綾瀬はるかはもちろん、前作『風の色』(16)では、1万人が参加したオーディションのなかから藤井武美を抜擢した。本作でも、しっかり者だが恋愛については臆病な女性をハン・ジミンがキュートに演じている。ソジンはスヒョンを失いたくないあまり、彼のプロポーズを邪魔しようとしてしまうシーンがあるが、ハン・ジミンの持つ純真さのおかげか、決してネガティブなキャラクターに感じない。彼女とは今回が初仕事だったが、監督はハン・ジミンのチャームポイントを的確に掴んだ。

「ハン・ジミンさんは、普段からセルフマネジメントが完璧にできていて、お仕事もしっかりしている。周囲の人たちに気を配りながら場をリードしていくようなところもあるので、ホテルのマネージャーという役と素の彼女が似ている印象を受けたのです。また、これまで一度も恋愛が報じられたり、スキャンダルを起こしたりということがなかったのではないでしょうか。徹頭徹尾、自己管理をきっちりしているからこそ、『もしかしたらソジンと同じように恋愛が苦手なんじゃないかな?』と勝手に思いました。ハン・ジミンさんは『こんなに自分を綺麗に撮ってもらえたのは初めて』だと話していましたが、恐らく演じたキャラクターと自分が似ていたからかもしれません。ただ、俳優にとっては、自分に似ているキャラクターというのは難しいそうですね。むしろ、自分と違うキャラクターのほうが演じやすいというのがあるようです」。実はハン・ジミン、韓国で行われた『ハッピーニューイヤー』の製作報告会で、「過去に片想いをしたことがある」と明かしている。やはり監督の洞察力は確かなようだ。

■「どうすれば彼らを救い、希望を取り戻してもらえるのか。それはやはり“愛”なんですよね」

ホリデーシーズンの幸福感と、ユーモアにあふれるキャラクターたち、繰り広げられるハートフルな交歓が胸をときめかせる本作だが、一方で監督は韓国社会の現実への眼差しも忘れない。ハウスキーパーのイヨンは、ミュージカル女優という夢と現実の狭間で悩みを抱えており、ジェヨンは公務員採用試験の失敗と失恋で自殺を決意する。若者が社会に希望を持てないという要素は、最初のシナリオの段階からすでにあったそうだが、監督は若い20代の苦悩を真剣に掘り下げようと自身の娘にヒアリングしたところ、「90年生まれが来る」という本を教えられたという。「9級公務員世代(最下位職の公務員)」と定義されることがある90年代生まれたちの苦悩を分析した話題の書籍で、東方神起のチャンミンがInstagramで紹介したこともある。

「本を読んでみると、韓国の若者は安定した生活を送るために公務員になりたいと思っている人が多いことがわかったんです。そこで昨今の事情に合わせて、最初のシナリオにあった(カン・ハヌルさん演じる)ジェヨンが会社員の試験を受けるという設定を、現実に即して公務員採用試験に変えました。彼はずっと公務員になれず、しかも恋人に振られてしまうという現実的な問題を抱えているキャラクターです。そしていま韓国では、以前に比べると自殺をしてしまう人の数が非常に増えているんですね。そうした現実を代弁するようなキャラクターを作ったうえで、どうすれば彼らを救い、希望を取り戻してもらえるのか考えました。それはやはり“愛”なんですよね」。

日常的に“愛”を口にするのは気恥ずかしいが、監督の口から放たれた“愛”という一言は純粋で真っ直ぐで、心に重く響いた。映画終盤に用意されているあるシーンは、そんな監督が考える“愛の表現”についてのこだわりが現れている。

「いろいろなラブストーリーで、愛の告白という行為がありますが、本作で描かれるあの告白シーンは、あまりなかったのではないでしょうか。そもそもメロドラマは氾濫していて、ジャンル的に確立されたものです。いまや多くの人たちにとって見慣れた、もしかすると見飽きてしまったものかもしれません。作り手が“これは観たことがないだろう”という作品を撮っても、観客から“どこかで観たことがある”と言われてしまうのは仕方がないんですが、それでも以前から恋愛映画を手がけてきた1人としては、少しでもなにか違った形、新しいシーンを見せたいという情熱があります」。

ドッペルゲンガーという超常現象でアプローチするラブストーリーや、一見エキセントリックな女性と育む純愛など、観客の驚きと喜びのために創意工夫を尽くし、心にぬくもりを届けようとするクァク・ジェヨン監督。時代が移り変わるにつれて、現実では恋愛の伝え方や形が多様化したが、それでも変わらないのは、誰かを愛おしいと思う真心なのではないだろうか。社会が変遷を遂げても、クァク・ジェヨン監督のようなシネアストがいる限り、ラブストーリーは輝きを失わず、とびきりロマンティックであり続けるだろう。

「いまの映画を観ると、劇中で人が亡くなったり、血がたくさん出たりするような映画がたくさん撮られていますよね。あるいは男性中心の映画も大衆に好まれています。ですが、恋愛映画を守る立場の私としては、ラブストーリーの系譜を絶やさないように、いわば職人になりたいと思っています」。

取材・文/荒井 南
 
   

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