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『ベルセルク』はかくも愛された作品だったーー宮台真司ら、識者9人それぞれの視点

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 興奮と恐怖。三浦建太郎の漫画『ベルセルク』を読むと、いつも相反するかのような、ふたつの感情がせめぎ合う。当然だろう。いつもズタボロになるまで戦う主人公のガッツの姿に、心が昂り血が滾る。興奮せずにはいられないではないか。

参考:人間の実存を描く傑作ーー社会学者・宮台真司が読み解く『ベルセルク』

 しかしガッツの敵である、使徒やゴッド・ハンドは人間を超越した存在であり、グロテスクな怪異の造詣や描写は恐怖を掻き立てる。1989年から連載が始まり、しだいに大きな人気を獲得し、現在でも多数のエンターテインメント作品に影響を与えているダークファンタジーの傑作なのだ。なお『ベルセルク』のストーリーや登場人物について説明していると、それだけで字数が尽きてしまうので、詳しくは書かない。既読の人向けの書評だと思っていただきたい。

 本書は、『ベルセルク』について、9人の識者がさまざまな角度から語った評論本である。冒頭は、宮台真司の「人間の実在を描く傑作『ベルセルク』」だ。社会学者の視点から、ガッツとグリフィスの立ち位置や、託されているものを露わにしていく。実に刺激的な評論だ。また、ガッツの仲間になる魔女シールケについて、「シールケの登場でファンタジー色が強まったと捉える読者が多いが、むしろ実用色が強まったのだ」という一文には驚いた。しかし続けて読んだら納得。目から鱗が落ちまくりだ。

 藤本由香里の「三浦建太郎という溶鉱炉―追悼・三浦建太郎―」は、かつてのインタヴューで三浦建太郎から引き出した話を踏まえながら、『ベルセルク』における少女漫画の影響を指摘している。少女漫画を中心にした漫画研究家である藤本の視点は鋭い。「三浦建太郎と羽海野チカは、人が思うよりずっと近いところにいる」という一文は卓見であろう。その外にも、三浦が影響を受けた作品について指摘しており、作品理解に必須の内容となっているのだ。

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 漫画編集者でライターの島田一志の「マイナーなジャンルで王道のヒーローを描く」は、日本のヒロイックファンタジー漫画の流れを簡単にたどりながら、『ベルセルク』が始まったころの状況と、その後の影響力について明らかにしている。さらに作品の内容を、ヒロイックファンタジーとダークファンタジーに切り分け、それぞれの魅力を語っているのだ。いわれて気がついたが、私も第三巻(「黄金時代篇」が始まる前)までは、ダークな雰囲気のヒロイックファンタジーとして読んでいた。あの頃は、ここまでとんでもないスケールの物語になるとは、想像もしていなかったものである。

 ドラマ評論家でライターの成馬零一は「私漫画としての『ベルセルク』」で、私小説ならぬ私漫画という側面から、作品を捉えている。面白い切り口だ。ただもう少し、三浦建太郎の経歴と照らし合わせる形で〝私漫画〟の部分を掘り下げてほしかった。

 『「AV女優」の社会学』の著者として知られる鈴木涼美は、「穢されないのはなぜか―娼婦と魔女がいる世界―」で、女性キャラクターに注目。『ベルセルク』で描かれる人間の女性が、「処女として登場して穢されて別人となる、という道を必ず辿る」「女性キャラクターたちは穢され、また解放されるために存在するようにさえ見える」という。そして魔女のシールケがそのパターンから外れている理由を、娼婦のルカを引き合いに出して解説する。この部分は読みごたえがあった。

 少し長くなったので、以下は簡単に触れよう。映画史研究家の渡邉大輔は「テレビアニメ『ベルセルク』とポスト・レイヤーの美学」で、アニメの『ベルセルク』で使われた3DCG技術が、いかに発展したかを、現代アニメの状況を含めて説明している。暗黒批評家・後藤護の「黒い脳髄、仮面のエロス、手の魔法」は、「再生の塔」の地下空間・仮面に隠されたグリフィスの顔・「手」のモチーフについて、縦横無尽に語っている。博覧強記とはこのことか。フリーライターのしげるは「フィクションと現実との境界線に突き立つ『ドラゴンころし』」で、『ベルセルク』の「黄金時代篇」は、中世・近世ヨーロッパ史の影が濃いと指摘。そこから当時の実際の傭兵に触れながら、グリフィスの野望が荒唐無稽と言い切れないと書く。

 そして漫画ライターのちゃんめいは「後追い世代も魅了した『黄金世代篇』の輝き」で、遅れてきた読者が、いかに『ベルセルク』に夢中になっていったかを、楽しく語っている。私はリアルタイムで読んできた世代なので、後追い世代の作品の受け止め方などが分かり、とても興味深かった。

 本書にはさらに、成馬零一×しげる×ちゃんめいによる「『ベルセルク』座談会」も収録されている。三人とも『ベルセルク』が大好きだという気持ちが伝わってきて、読んでいるこちらまで嬉しくなった。もちろん他の人たちの文章からも、作品が好きだという気持ちが溢れている。とにかく多くの読者に愛された作品なのだ。

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