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「silent」で描かれるまっすぐな恋心…無意識のうちに共感してしまう理由とは?

MOVIE WALKER PRESS

フジテレビ系列で木曜22時から放送中のテレビドラマ「silent」が第1話から注目を集め続けている。丁寧に描写された伏線、胸に刺さるセリフの数々など、特筆すべき点は多くあると思うが、本稿では登場キャラクターの心情に焦点を当てて、これまでの名場面を振り返ってみたい。

■湧きだす愛情を抑えられない、想の想い

起点となるのは目黒蓮(Snow Man)演じる佐倉想だろう。想は、主人公の青羽紬(川口春奈)が8年前の高校時代に“一生をかけて愛したい”と思えた恋人だったが、卒業後に理由も言わずに別れを告げて去ってしまった。実は想は、徐々に耳が聞こえなくなる若年発症型両側性感音難聴を患っており、現在は聴力のほとんどを失っている。

なにも知らないまま新しい人生を歩んでいた紬。そんなある日、偶然、想を見かけたことをきっかけにその姿を探し始める。かつて唐突に自分を振った元カレ。好きだったからこそ、元気だったのか、元気だったなら、どうしていたのか。ちゃんと話をしたかったという気持ちがずっとあったのだろう。紬に最初声をかけられた時の想は苛烈で、全身で紬を拒んだ…ように思えたけれど、突然のことに感情があふれ出して自分でもコントロールできなかったのかもしれない。

紬が落としたイヤホンを渡すためにもう一度会う。その後、会って話がしたいという紬の誘いを断るが、結局、会いに出向く。病気のことを知られたくなかった、紬の悲しむ顔を見たくなかった。そんな思いから紬を振った。そんな経緯から、頑なに心を閉ざすかと思っていたが、手話を覚え、自分とコミュニケーションを取ろうとする紬に気持ちが揺れる。高校のころから変わっていない紬に、愛情が湧くのは自然なことだろう。だって、嫌いで別れたわけではないのだから。

再会してからの想は、ずっと紬が好きでその気持ちがあふれ出している。彼女の現在の恋人である湊人(鈴鹿央士)に遠慮し、2人で会わないほうがいいと提案する。わざわざ提案せずに、会わないと決めてしまえばいい。それができないのは、紬が好きだから。ずるい方法なのかもしれない。でも、相手にも会いたいと思っていてほしい。静かな想だけれど、その行動の端々に覗く紬への想いが胸を打つ。押さえこもうとしてもなお、好きがあふれる一瞬。想を体現する目黒はその表現がとても巧い。

■相手の気持ちを優先しようとする、湊斗の優しさが心に痛い

こんなに優しい人がいていいのか…と思ってしまうほどの“優しさ”を持っているのが湊斗だ。そして、よく人を見ている。

第2話、想と再会して動揺している紬を電話だけで察した。「【パンダ 落ちる】で検索して動画を見て待っていて」。こんな優しい気の逸らし方、見たことがない。ただ好きすぎて、紬の気持ちを最優先にしてしまう。「紬はどうしたい?」と常に問いかけているようだ。それは投げやりなように見えるけれど、湊斗にとって、紬が笑っていることがすべてだから。

そんな湊斗が唯一、自分の気持ちを優先したのは別れの時だったのかもしれない。このまま紬と一緒にいたら、優しくできなくなるかもしれない、と湊斗は感じていた。それは、ずっと紬を見てきていたから。紬が一番かわいいのは想の隣で、いまは違っても、きっと紬はまた想を好きになる。そして、自分は優しかった恋人のままでいたい、という気持ちもあったんじゃないかな、と思う。好きな人にとって、自分はいい思い出であってほしい。それが湊斗の一つの願いだったんじゃないか。

■物語を動かしていく、紬の「まっすぐ」な行動

想も湊斗も、紬のことを「まっすぐ」だと言う。思い立ったら動いてしまうタイプで、自分の想いに忠実なのかもしれない。想と再会したいという気持ちが、紬を突き動かした。湊斗という恋人がいても、想が2人で会うことをやめようと言っても、紬は自分の思うままに動いた。どんな形であれ、想と一緒にいたい、という気持ちが結局のところ強かったのだ。

湊斗が好きだと言いながらも、想に会うことをやめられなかった。想の隣にいる女性、奈々(夏帆)に対して、もやっとした気持ちを抱えてしまう。紬の心の底にはやっぱり「想が好き」があって、それがすべてだった。紬の“好き”が物語を動かしている。偶然見かけた、想の姿。もう一度、どうにかして会おうとしなければ、なにも変わらないはずだった。

本来なら、紬の言動はもっとヘイトを集めそうだ。そうならないのは、自分だったらどうするだろう、を考えてしまうから。紬の行動はもしかしたら少し危ういところがあるかもしれない。でも、自分の身に置き換えた時にどうするかと想像したら、選択肢にはきっと挙がってくる行動なのだ。

湊斗も、想も、奈々の行動も、その行動原理が「わかる」。人を好きになる気持ちが、こんなにまっすぐ描かれている作品が、最近は少なかったのかもしれない。でも、好きが簡単に言えない。声が出せても、声が聞こえても、なかなか言えない言葉をどのように伝えていくのか。それが伝わった時、また新たな感動を与えてくれるはずだ。

文/ふくだりょうこ
 
   

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