だから、悲惨な事件や腹黒い悪人は出てこない。せいぜい「あなたの絵は時代遅れだ」と悪態をつく画商の息子くらい。エレベーター無しとはいえ、住み心地よく整えられたアパートには家庭菜園を楽しめる屋上もついているし、中古なのに100万ドル近い値段(※2014年当時)で取引できる(ただし、エレベーター付きのアパートを買うには同額かそれ以上のお金が必要なのだが)。マンションが中古になると買った値段の何分の1、いや何十分の1になってしまう日本に比べれば羨ましい話だ。だが、たかが映画なのだから、甘すぎるとか、ありえないなどと無粋なことは言わずに、カーヴァー夫妻の気持ちになって、ブルックリンのうららかな日差しを楽しめばいい。そんな余白の時間の貴重さを描いた映画である。
文:齋藤敦子
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