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連載「lit!」第17回:リナ・サワヤマ、Pale Waves、ステラ・ドネリー、Dry Cleaning……新作携え来日予定のアーティストたち

Real Sound

 続いて紹介するのは、上述したリナ・サワヤマやThe 1975、ビーバドゥービー等を擁する気鋭のレーベル<Dirty Hit>所属のロックバンド、Pale Wavesの3rdアルバム『Unwanted』からの最ヒット曲。今作は2000年代のポップパンクに接近したような作風で、そのあまりの直球さが清々しい。人によっては懐かしく感じるかもしれないが、一つひとつの楽器がくっきり聴こえてくるようなこの時代に合わせたミックスが施されている上、近年盛り上がりを見せるポップパンクの潮流を鑑みれば、単なる懐メロバンドとして片づけられる存在ではないだろう。

 影響元として考えられそうなポップパンクの代表的なバンドは数多くあるが、やはりアルバムタイトルと同名曲を持つアヴリル・ラヴィーンが強く思い起こされる。アヴリル的なサウンドは2ndアルバム『Who Am I?』にもみられたが、今作はそれをとことん突き詰めたようなもので、もはや1stアルバム『My Mind Makes Noises』のシンセポップ路線が物珍しく感じる。

 このように大きな変化がみられるのはサウンドだけではなく、ライブパフォーマンスも同様かそれ以上である。例えば2019年「There’s a Honey」のライブと2022年「Jealousy」を比較してみれば一目瞭然だ。

 The 1975のマシュー・ヒーリーとジョージ・ダニエルがプロデュースした「There’s a Honey」では、ボーカルのヘザー・バロン・グレイシーが終始ギターを抱え、時折エモーショナルに歌う場面さえあるが、今年の「Jealousy」では初めからエネルギー全開で観客をアジテートするかのように叫び、ステージ上で激しく踊っている。多くのアーティストがパンデミックからの解放の象徴としてダンスミュージックに傾倒している2022年だが、堂々としたカリスマ性を放つヘザーや、イントロの時点でギターリフに合わせて合唱する観客を見る限り、彼らがこの路線を選択したのもこの時流と呼応していると言えそうだ。

 すでに3度の来日歴のあるPale Wavesだが、これだけ急速に変化していくバンドであるからには、来日公演のチャンスをできるだけ逃したくない。大阪・名古屋・東京・横浜を4日間でまわるツアーはアヴリル・ラヴィーン来日より約1週間早い、10月31日から11月3日の間に行われる。

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■ステラ・ドネリー「How Was Your Day?」

 オーストラリアのシンガーソングライター、ステラ・ドネリーはデビューアルバム『Beware of the Dogs』から3年半ぶりとなる2ndアルバム『Flood』をリリースした。今作は一聴して分かる前作と異なる点が3つある。1つ目はギターよりもピアノの弾き語り曲が多い点。そしてドラムの音色が温かみや密室感のあるものになっている点。最後にステラのボーカルが(最終曲のシャウトを除いて)掠れることなく安定している点である。

 今回紹介する楽曲「How Was Your Day?」は、今作の中では前作の雰囲気に最も近い爽やかなギターポップだが、上記の3点で前作とは一線を画している。もちろん前作の切羽詰まったような歌唱や軽快なサウンドこそがドネリーの魅力でもある。しかし本作は彼女のシンガー、音楽家としての新たな魅力が提示されている。ドラムとベースによって楽曲のボトムが強化されたことで、それに乗るドネリーのラップにも近い節回しのヴァースから高音のコーラスへの展開、それらが無理なく成立し繰り返されているのである。本作は冒頭の1~3曲目がシームレスに繋がっており、それらが全てリズムも楽器の編成も大きく異なるもので、ドネリーの前作から今作にかけての音楽的チャレンジが垣間見える。

 来日公演は11月29日から12月3日までの間に東京・名古屋・大阪の3都市で行われる。現時点でアルバムは2作品のみだが、充実のライブになるはずだ。

■Dry Cleaning「Gary Ashby」 

 Dry Cleaningは近年尖ったバンドを多数輩出し続けているサウスロンドンを拠点に活動するバンドだ。2017年に元々はインストバンドとして結成され、後にボーカルのフローレンス・ショウが加入し、現在の編成に落ち着いた(※2)。元来インストバンドというのも納得の極上の演奏で、特にギターが同世代のロンドンやダブリン出身のバンドの中でも抜群に良い。歌というよりもポエトリーリーディングに近いスタイルのボーカルも特徴的でクセになる。

 今回紹介する楽曲は10月21日リリース予定の2ndアルバム『Stumpwork』からの先行曲だ。再生してすぐ、ボーカルがメロディをつけて歌っていることに新鮮な驚きがある。BPMもこれまでの楽曲と比べると高めで、ライブでの盛り上がりや大合唱が期待できそうな楽曲である。

 今年の海外フェスでのライブ動画を見てみると、演奏が凄まじくキレキレで盛り上げ上手なことと、意外にも表情豊かに歌うフローレンスの姿が印象的だ。

 彼らはアルバムリリースから約1カ月後の11月30日と12月1日に東京・大阪で来日公演を行う。ぜひステージの近くで観たくなるようなバンドである。

■The Comet Is Coming「CODE」

 ロックやダンスミュージック同様、近年活況を呈するUKジャズ界の重要人物であるサックス奏者、シャバカ・ハッチングス(本バンドでは「キング・シャバカ」と名乗っている)と、精力的にアルバムリリースを続けるUKエレクトロデュオ・Soccer96からなるトリオ、The Comet Is Comingの待望の3rdアルバム『Hyper-Dimensional Expansion Beam』の冒頭を飾る楽曲。Sons Of Kemetでもサックスを吹くシャバカの力強いプレイとSoccer96の2名による電子音楽が今作でも不思議な熱気に包まれた極上のグルーヴを生み出している。特に今回紹介する「CODE」はダンスミュージックのようでもあり、まさにアルバムの顔としてもふさわしい楽曲だ。

 「彗星がやってくる」という意味の名を持つ本バンドは、Soccer96のライブ中にシャバカが突如として参加したことで宇宙爆発的なエネルギーが生まれ、それをきっかけに結成された(※3)。フジロックでの来日経験もある彼らが12月1日から12月3日にかけて新作を携えて東京・大阪を巡る。そのエネルギーをライブ会場で浴びてみたい。

■Jamie xx「KILL DEM」

 The xxのメンバーであり、ソロではDJ/プロデューサーとしても大活躍のJamie xxの最新曲。本楽曲は彼が10代の頃に初めて参加した、ロンドンの夏の風物詩『Notting Hill Carnival』というカリブ諸国の文化を祝うストリートカーニバルからインスパイアされているという。カッティ・ランクスの「Limb By Limb」(1993年)をカットアップし、今年のポップシーンでも流行の兆しがみられるハウスミュージックに仕上げている。

 2015年の前作『In Colour』以降、2020年には巧みなビートチェンジが光る「Idontknow」、今年4月の「LET’S DO IT AGAIN」、バンドメンバーのオリヴァー・シムのソロ作でのプロデュースやリミックスという、音源のリリースは非常にゆったりとしたペースとなっている。しかしDJとしてのライブ活動は精力的に行っており、9月末からは年をまたいで世界中でツアーを行うことが決定している。アメリカを皮切りに、日本、イタリア、メキシコ、オーストラリアでのツアーが予定されており、日本では10月29日に今年初開催となる『Tonal Tokyo』でプレイしてくれる。本楽曲のコンセプト然り、世界中の言語のグラフィックが飛び交っている「LET’S DO IT AGAIN」のMV然り、彼の視線が世界に向いているのは明らかだ。日本ではどのように私たちを楽しませてくれるのか、しっかりと目に焼き付けたい。

■ロレイン・ジェイムズ「Maybe If I (Stay on It)」

 昨年ロンドンの名門レーベル<Hyperdub>から『Reflection』を発表し、高い評価を獲得したプロデューサーによる新作アルバム『Building Something Beautiful For Me』1曲目。今年のWhatever The Weather名義での新感覚なアンビエント作品も記憶に新しいが、10月7日に<Phantom Limb>からリリース予定のアルバムは、注目を浴びずに早逝したNYの作曲家ジュリアス・イーストマンの主要作品を再解釈、再創造した楽曲により構成されている。

 本楽曲はジュリアス・イーストマンの「Stay on It」が下敷きとなっており、BPM90程度のビートの上にリズミカルに編集されたボーカルとアンビエント的なシンセサイザーの音色が耳を包む。

 ロレイン・ジェイムズは初来日公演が11月2日から11月4日までの4日間予定されており、東京・大阪にて本名の「Loraine James」名義と「Whatever The Weather」名義で2回ずつプレイする。また、11月5日、6日に静岡で開催される『Festival de FRUE』にも「Whatever The Weather」名義での出演が決定している。

 今回紹介した楽曲は本名名義だが、ダンスフロアを一旦チルさせるのにはうってつけの、両名義が交差したような音楽性だ。あわよくばどちらの名義でも堪能したい。

(※1)https://www.elle.com/jp/culture/music-art-book/a41160787/rina-sawayama-interview-220920/
(※2)https://www.rollingstone.com/music/music-features/dry-cleaning-band-interview-london-1139020/
(※3)https://www.prsformusic.com/m-magazine/features/interview-comet-coming/

(もこみ)

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