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『太陽がいっぱい』『ローマの休日』…名作の「激レア地上波吹替版」の人気の秘密とは?スターチャンネル担当者を直撃!

MOVIE WALKER PRESS

日本初上陸の最新海外ドラマと厳選映画が楽しめる動画配信サービスとして人気の「スターチャンネルEX」。1980年代に日本初の洋画専門チャンネルとしてスタートした放送サービスの「スターチャンネル」を土台としており、放送作品と配信作品の連動企画も多い。早くから放送3チャンネルのうち1チャンネルを「吹替専門チャンネル」に充ててきただけあって、海外映画の日本語吹替版が充実しているが、なかでも近年、特に話題を集めているのが往年の「お宝バージョン」を含む“地上波吹替版”だ。民放各局の各「洋画劇場」や「ロードショー」放送枠にあわせて独自の声優キャスティングによるオリジナリティ、なにより再放送されない限りは観ることのできないレア度によって、いまや“地上波吹替版”はいちジャンルとして人気が定着している。

スターチャンネル(放送)では、2021年12月より複数月にわたって「激レア地上波吹替版」特集を展開し、ソフト版を含む複数のバージョン違いを集めた「聴き比べ吹替バトル」も大きな反響を呼んでいる。そんな“激レア”はどのように発掘され、放送・配信されるのか、仕掛け人であるスターチャンネルの上原行成に聞いた。

■「かつてテレビの吹替版を楽しんでいた方にも、懐かしく観ていただけるのではないかと考えました」

上原は日本語版制作の担当者で、「激レア地上波吹替版」特集のプロデューサー。素材の調達から放送できる状態(完パケ)に仕上げるまで一連の作業を手掛けている。「まずはメジャースタジオなど、ライセンサーの担当者にヒアリングして素材を確認。必要な素材を取り寄せたら、ポスプロ(ポストプロダクション)会社に制作を発注します。日本初公開となる作品については、新規翻訳からの制作となりますので、出来上がった字幕や吹替の翻訳データをチェック、校正して最終版まで仕上げます。吹替版はアフレコ現場に立ち会うこともあります。素材の取り寄せから完パケの納品までのスケジュール管理と、制作指示がおもな仕事ですね」。

スターチャンネルにおける人気コンテンツとなった「激レア地上波吹替版」だが、そのスタートは、「“映画は死なず”」と掲げた旧作や非ハリウッド作品の掘り起し企画の一つとして、2021年4月に『OK牧場の決斗』(56)をはじめとする名作の地上波吹替版を放送し好評を博したことにあった。つまり、地上波吹替版の放送に注力し始めたのは比較的最近のことだという。「地上波吹替版は2時間の放送枠に収めるため、90分くらいに短く編集されたカット版が多いんです。スターチャンネルは基本的に映画をノーカットで放送・配信するというスタンスなので、以前はソフトに収録されたノーカット版を使用することがほとんどでした」。

その方針が変わったのは新型コロナウイルス感染拡大の影響だった。「コロナ禍で、一時期ハリウッドの新作映画の放送作品数が減少してしまいました。スターチャンネルの主力商品はハリウッド映画の『新作』、それらをいち早く放送・配信することが強みですが、その『新作』の製作や劇場公開が滞ったためです。そこで、ハリウッド以外の世界各国の映画作品や、誰もが知っている旧作をひと味違う角度で楽しんでもらえる特集を考えようと苦心するなかで、地上波吹替版の特集企画案が出てきたという経緯です。ソフト版は広く流通していますが、地上波吹替版は再放送されない限り観る機会がありません。かつてテレビの吹替版を楽しんでいた方にも、懐かしく観ていただけるのではないかと考えました」。

■「ソフトに収録されていない吹替音源をいかに探し出せるかが肝」

カットされた地上波版を放映するには、取り寄せた最新マスター映像と吹替音声を合わせて編集するなど追加作業も必要となる。その手間は承知で企画を進めたという上原だが、「どうやってスターチャンネルならではの特色を出すのか?」が課題に挙がるなか、出した答えが“激レア”だった。「地上波の吹替版は以前からほかの映画専門チャンネルさんでも継続的に放送されていましたし、近年では吹替ファンのニーズに応えて地上波吹替版入りでDVDやBlu-rayなどのソフトが再発売されるケースも増えてきています。そんななかで、ソフトに収録されていない吹替音源をいかに探し出せるかが肝だと考えました。“ソフト未収録”をスターチャンネルの付加価値にする。これまで放送・配信してきたバージョンすべてがソフト未収録というわけではありませんが、ソフト未収録作品の優先度を高くしています」とのこと。よく知られた作品なのかより、どれだけレアか?を心掛けてセレクトしているという。

ただし、レアな地上波版の音源を見つけるのは簡単ではない。上原に発掘方法を聞くと、それは企業秘密だとしながらも、「まずは各所に聞いてまわること」だという。「基本的にまずライセンサーさんに話をしますが、会社によって保管状況はバラバラです」。とはいえ、運よく音源のテープが見つかっても、経年劣化によるダメージで修繕が必要なケースも少なくない。状態によっては音声を直し切れないこともあるという。「何十年も前のテープやフィルムの場合、どんなに頑張って修復しても音がこもってしまったりすることがあるんです。視聴者の方々にご理解いただけるとありがたいですね」。

■「機内上映ですから、一般の方が録画して持っている可能性はゼロ」

そんな発掘作業をしているうちに、偶然から思いがけない作品が掘り起こされるケースもある。9月に「聴き比べ吹替バトル第2弾」としてスターチャンネルで放送される、2本のオードリー・ヘプバーン主演作『パリの恋人』(57)と『マイ・フェア・レディ』(64) の「機内上映版」がそれだ。「機内上映版」とは、航空会社の旅客機の中での上映用に制作された吹替版で、上映中の期間に飛行機に乗り合わせた人しか観ていないトップクラスの激レア品。 これら2バージョンは1980年代に収録されたもので、どちらもオードリーの吹替声優として定評のある池田昌子が声を当てている。(『パリの恋人』と『マイ・フェア・レディ』 の「機内上映版」はスターチャンネル放送のみ)

「“機内上映”ですから、もちろん放送されたことはありませんし、一般の方が録画して持っている可能性はゼロ。ライセンサーに問い合わせても保管されていることはほどんどなくて、幻と諦めていたんですが…」。

■「アラン・ドロンの吹替えといえば野沢那智さんですが、初めて作られた地上波版では石立鉄男さんだった」

これまで数々の吹替版を手掛けてきた上原に、特に印象深い作品を尋ねると、アラン・ドロン主演の名作『太陽がいっぱい』(60)という答えが返ってきた。「珍しい音源に注力している私の胸が躍ったのはこの作品です。アラン・ドロンの吹替えといえば野沢那智さんが定番声優として広く支持されていますが、初めて作られた地上波版では石立鉄男さんだったんです。若い方はピンとこないかもしれませんが、この意外性はすごい(笑)。声優さんは一般的には顔が知られていないので、声だけが前面に出ますが、石立さんのような人気俳優の方は、風貌が世間に知られているので、どうしてもあのモジャモジャヘアの石立さんの顔が思い浮かんでしまうんですね(笑)。でも、石立さんのちょっと弱気な感じの声の雰囲気が『太陽がいっぱい』の劣等感を持つ繊細なドロンのイメージにフィットしていて、意外にいいんですよ」と太鼓判を押す。

これらはすべてカット版だが、それぞれカットされたシーンが違っていたり、吹替台本のセリフにも違いがある。同じ野沢版でも 1972年、1984年、2008年と収録時期が異なるため声質に違いがあったり、共演者も違うため雰囲気が異なるなど、聴き比べるのも楽しそう。この8月には『太陽がいっぱい』の初のノーカット吹替版として、スターチャンネルが2016年にオリジナルで制作した、中村悠一がアラン・ドロンの声を担当した「スターチャンネル『新録・完全吹替版』」を加えた全6バージョンをコンプリート放送している。(スターチャンネルEXでの配信は、石立鉄男がアラン・ドロンの声をあてた『TBS「金曜ロードショー」(1969年)版』のみ対象外)

■「機内上映版をもっと発掘できるといいですね。音源探しの最難関なので放送、配信につなげられれば達成感もあります」

最後に、今後の「激レア地上波吹替版」でどんな特集を計画しているのかを聞いた。「 “こんな作品を”という要望も届いていますが、まだ温めている段階なので秘密にさせていただきたいと思います(笑)。個人的には『機内上映版』をもっと発掘できるといいですね。オードリーの2本へのリアクションで手応えを感じましたし、音源探しの最難関なので放送、配信につなげられれば達成感もありますから」。

現在もスターチャンネルEXで視聴できる「『ローマの休日』(53)地上波吹替版全5バージョン一挙紹介」企画は、今年6月にスターチャンネルで特集放送も行い、特に反響が大きいという。しかし、地上波版を楽しみにしている視聴者は必ずしもオールドファンばかりではないそう。「1970年代、80年代に一生懸命映画を観ていらしたと考えると最低でも50~60代以上など年配の方が多いように思えますが、それだけかと言うと、SNSなどの反響を見るともっと若い方もいるようです。またマニアの方や特定の年齢層だけにお届けしているつもりもなく、映画が好きな人に対する新しい楽しみ方の提案になればと思っています。吹替映画には特別な魅力があると感じる映画ファンは、全世代にわたっていらっしゃるんじゃないでしょうか。ですから、私としては特定の年齢層を意識するのではなく、あらゆる世代の映画好きの方に届けたいと思っています」。今後もスターチャンネルがどんな激レア吹替えを発掘してくれるのか楽しみにしたい。


取材・文/神武団四郎
 
   

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