『人造人間キカイダー』VOL.1 Blu-ray (C)石森プロ・東映

【画像】「レインボーマン」の7つの変身様態をチェックする!(10枚)

敵の「笛の音」に悶え苦しむヒーローってアリなの?

「ウルトラ」シリーズに登場する「カラータイマー」は、特撮ヒーロー史上最も重要な発明だったといえるでしょう。敵と戦うクライマックスの戦闘シーンに3分という制限時間を設け、リミットが近づくと胸のカラータイマーが点滅することで、ピンチと、それを乗り越えて必殺技を繰り出す逆転劇への伏線が込められていました。

 その後「カラータイマーに続け」とばかりに、多くのヒーローに様々な弱点がつくられましたが、なかには、子供たちも首をかしげるありえない設定もあったようです。

 それはたとえば、1972年から放送された『人造人間キカイダー』が挙げられるでしょう。同作は、「仮面ライダー」の成功を受けて、同じ石ノ森章太郎先生原作で東映によって制作された特撮変身ヒーロー第2弾です。

 悪の組織「ダーク」の「ダークロボット」と下級戦闘用アンドロイド「アンドロイドマン」が暴れているところへ、伴大介さんが演じる主人公「ジロー」がギターをかき鳴らしながら現れ、アンドロイドマンをバッタバッタとなぎ倒します。彼は、ダークに協力させられながらダークの野望を阻止せんとする光明寺博士の作った、人造人間なのでした。

 しかし、そこに不穏な笛の響きが……ダークの首領、プロフェッサー・ギルの笛の音です。

 ダークのロボットは、笛の音に魅入られると凶暴化してしまうのです。「キカイダー」の人間態であるジローも、「不完全な良心回路(後述)」を持つがゆえに、笛の音により悶え苦しみます。

 実際に彼はギルの笛の音に取り込まれて、操られてしまったこともありました。「良心回路」とは、光明寺博士による、ロボットなどの機械が自ら善悪を判断し最善の行動をとるという思考ないし行動を司る「回路」のことで、ジローのそれは不完全なものだったのです。故にジローは「善と悪との葛藤」に苦しめられるという、逆説的に人間くさいキャラクターとなりました。これは、人形なのに人間になりたいと望む「ピノキオ」をモチーフにしているといい、身体は改造人間でも心は完全に正義の心を持つ「仮面ライダー」とはひと味違ったキャラクター像といえるでしょう。

 ジローが笛の音により完全に心を奪われる寸前、偶然にもほかの音によって笛の音がかき消され、そしてピンチから脱出したジローが瞬時にキカイダーへ変身する、というのがお約束でした。キカイダーに変身すれば、良心回路も完全なものとなり、笛の音に惑わされることはもうありません。

 上述のように、キカイダーは良心と欲のはざまで葛藤する、人間以上に人間らしい人造人間です。変身後のコスチュームは赤と青、そして左右非対称のデザインで、中のメカニカルな様子が見えるスケルトンの箇所もあり、彼の存在の危うさが見事に表現されています。作品の世界観とキカイダーのキャラクター設定がひと目見るだけで伝わり、原作者自ら最高傑作と評していたといいます。

 重大な欠陥を抱えながら戦うというヒーロー像には魅力があるものの、、ヒーローがいつ悪に転じるのか分からないという葛藤を抱えていることは、子どもたちにとっては複雑な要素です。悪への誘惑を断ち切ってキカイダーになったときの安心感と爽快感がある一方、ジローでさえ惑わせる悪の恐ろしさにモヤモヤが残ります。

 その後、ジローの不安定感を払拭するかのように登場した、ジローの兄イチローを主役とする続編『キカイダー01』は、安定感抜群の典型的なヒーローでした。ジローよりも前に製造された人造人間ということで、複雑な「良心回路」を持っていないため、正義と悪について悩むこともありませんでした。



『イナズマン』VOL.1 DVD (C)石森プロ・東映

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お世辞にもカッコいいとはいえないヒーロー…?

『キカイダー』でジローを演じた伴大介さんは、のちに再び石ノ森章太郎先生原作のヒーロー、『イナズマン』の主演を務めます(伴直弥名義)。

 このイナズマンのウリは、画期的ともいえる二段変身でした。蝶をモチーフにしたイナズマンに変身するために、まずサナギの状態であるサナギマンに変身しなければならないのです。当時、このサナギマンの造型が「いろいろな意味で凄い」と話題になりました。なぜなら本当のサナギをイメージしているため、お世辞にも格好いいとはいえなかったからです。

 サナギマンは金剛力士像をモチーフにしていて、変身時のかけ声「剛力招来」も金剛力士に由来しています。サナギマンのときには、力のレベルが戦闘員より上であるものの、各話ごとの敵ボス「ミュータンロボ(怪人)」と戦うときには防戦一方というレベルです。敵の攻撃に耐えに耐えてベルトのゲージが溜まると、「超力招来」のかけ声でサナギマンの身体が爆発、その中からイナズマンが登場します。

 イナズマンの圧倒的強さを強調するためか、サナギマンは上述のように弱く設定されていたため、当時の子どもたちは誰しも「早くイナズマンに変身しろ!」と思っていたそうです。そのせいか、続編『イナズマンF』では、サナギマンの時間は極力、短縮されています。

エネルギーが枯渇すると仮死状態になるヒーロー

 これまでのいわゆる「ヒーローもの」は、大きくふたつに分類されるといえるでしょう。すなわち、「普通の人が、何らかのきっかけで特殊能力を授かり、変身する」「宇宙人、未来人などのように最初から特殊能力を備えている」という類型です。

 1972年にTV放送が開始された『愛の戦士 レインボーマン』は、そのどちらでもありません。元々ごく普通の人間で、アマチュアレスリングの選手だった主人公のヤマトタケシは、なんとヨガの修行によって得た神通力で変身するのです。当時はもちろん、いまなお斬新といえる設定でしょう。

 レインボーマンは火の化身、水の化身、草木の化身、など全部で7様態に変身し、空を飛ぶ、ビームを出すなど、ほぼ万能で無敵の状態でした。

 ただ唯一かつ致命的な弱点だったのが「ヨガの眠り」です。エネルギーを使い切ると、レインボーマンはヤマトタケシの姿に戻り、座禅を組んだまま白く石のように固まってしまうのです。ヨガの眠りが解けるまでの5時間は、タケシは意識がない状態で、文字通り完全無防備になります。レインボーマンの時にエネルギーを消耗しないよう戦えばいいのですが、タケシは何事も全力で取り組む熱い男でした。

 この「ヨガの眠り」の設定は物語の随所に見られ、敵対する悪の組織「死ね死ね団」の作戦が進行して人々が犠牲になるだけでなく、タケシ自身が捕らえられて火あぶり寸前になるなど、数々のピンチを演出しました。

 もちろん、そうしたピンチに見舞われても必ずそれを脱し、最後は逆転し勝利をおさめます。とはいえ当時の子どもたちは「レインボーマンになれたらうれしいけど『ヨガの眠り』だけは勘弁してほしい」と思ったことでしょう。

 大ヒットを記録した『月光仮面』を手がけた川内康範先生の作品だけあって、レインボーマンも当時、大いに人気を博したそうです。

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 ヒーローの弱点はドラマを面白くする半面、設定を間違うと視聴者の離脱を招く恐れもあります。現在では「視聴者に引かれるくらいの弱点は設定しない方が無難」ということで、無敵のヒーローが多いのかもしれません。

※『人造人間キカイダー』『イナズマン』放映当時の石ノ森章太郎先生は「石森」名義