バンダイナムコアーツ「U.C.ガンダムBlu-rayライブラリーズ『機動戦士ガンダム』」 (C)創通・サンライズ

【画像】絶対やる気ないよね…増援のシャアが乗っていた「ルッグン」(4枚)

さまざまな設定が明かされる重要エピソード

『機動戦士ガンダム』は、TV放送された本編を元に3本の劇場作品が制作され、その際にいくつかのエピソードがカットされています。第11話「イセリナ、恋のあと」もその中のひとつではあるものの、「サイド3」や「ジオン公国」、「スペースコロニー」の設定などが明かされる、実は相応に重要なエピソードです。加えて一般人がジオン側に味方して戦闘に参加し、アムロに銃を向けるなど、見どころの多い回でもありました。

「イセリナ、恋のあと」の序盤で明らかになるのが、ここまで謎に包まれてきたジオン公国についての情報です。月の向こう、地球から最も離れた宇宙空間に浮かぶ数十の宇宙都市こそが宇宙都市国家ジオンであり、地球を独裁によって支配しようとしていることも明かされます。ここまではナレーションで、ジオンが地球側に独立戦争を仕掛けたとされてきましたが、実際には独立ではなく支配を目論んでいたのです。確かに国力に圧倒的な差があるため、緒戦の勝利を最大限に活用し、地球の要衝や経済、資源を支配しなければ必ず状況は覆されます。独立を望むならば相手を支配しなければならないのが現実とはいえ、皮肉ともいえるでしょう。

 また「スペースコロニー」についても「宇宙に浮かぶ円筒形の建造物の中に人々の生活空間がある」「円筒形の直径は6km余り」「長さ30km以上ある」「遠心力によって重力を発生させている」など、数字をともなう具体的な解説が行われています。この際、使われている単語の数々を見ても、『ガンダム』は従来ロボットアニメの視聴者として想定されていた年齢層よりも上の世代を対象としていたことは明白です。



左からガルマ、キシリア、デギン、ドズル、ギレン。バンダイ「機動戦士ガンダム アクリルスタンド ザビ家」 (C)創通・サンライズ

 登場人物の面でも、デギン、ギレン、ドズル、キシリアが登場し、この時点で生存しているザビ家のメンバーが勢ぞろいしています。従来のロボットアニメであればこれらのメンバーを、「ガンダム」をはじめとするホワイトベース隊が倒していく展開となるのでしょうが、この中で「ガンダム」と直接戦ったのはキシリアとドズルの2名だけで、倒されたのはドズルのみとなっているのも、『ガンダム』がいわゆる「従来のロボットアニメ」の枠組みで作られていなかったことを示しているといえるでしょう。



そのスケールや付属のモビルスーツなどから実物の巨大さがうかがえる、BANDAI SPIRITS「1/1200 ガウ攻撃空母」 (C)創通・サンライズ

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ガルマの婚約者イセリナが果たした重要な役割

 なお、戦闘に関してはかなりアグレッシブな描写が多い回でもあります。ガルマの婚約者だったイセリナ・エッシェンバッハは、戦死したガルマのかたきをその部下たちが討とうと試みていることを知り、強引に同行します。

 空でかたき討ち部隊を迎え撃つことになったホワイトベース隊は、アムロの「ガンダム」とリュウの「ガンキャノン」を出撃させ、なんとそのかたき討ち部隊が搭乗する大型輸送/爆撃機「ガウ」の上に飛び乗ります。左右でバランスを取りながら「ガウ」を破壊していく光景はなんともシュールな光景です。

 ジオン側の増援としてシャアも登場するものの、乗機はなんと偵察機の「ルッグン」で、まともにやり合う気は感じられません。それでも単騎で「ホワイトベース」に攻撃を仕掛け、爆弾を左舷エンジンに直撃させて不時着させたのは、流石シャアといえるでしょう。

 その後も「ガンダム」が新兵器「ビームジャベリン」で「ガウ」を真っ二つにする、イセリナが搭乗する「ガウ」が集中砲火で「ガンダム」のシールドを破壊するなど、この回でしか見られない戦闘描写が登場します。そもそもこの回はジオン側のモビルスーツが登場しない、極めてレアな回でもあるのです。

 最終的には、イセリナの乗る「ガウ」は「ガンダム」「ガンキャノン」「ガンタンク」の集中砲火を浴び墜落していきますが、なんとイセリナは「ガンダム」への体当たりを成功させます。大質量攻撃を受けた「ガンダム」は、ダメージを受けて故障し行動不能に陥りました。そう、イセリナは「ガンダム」を打ち倒す偉業を成し遂げたのです。

 しかしイセリナ自身は、墜落の際に大きなダメージを受けてしまいます。「ガンダム」から降りたアムロを見つけ、銃を向けたイセリナは、「ガルマさまの仇……」と呟いた直後に、苦しみながら「ガウ」から落下し若い命を散らしました。そもそもガルマの仇はシャアであり、ホワイトベース隊はシャアの道具に過ぎなかったことを考えれば、文字通り意味の無い戦いです。

 イセリナはアムロたちにより、名も知らぬ一般人として埋葬されましたが、仇と呼ばれたアムロはショックを隠しきれていませんでした。埋葬シーンの直後に始まる12話の予告では、アムロが戦場で新兵がかかる病気で白目になっているシーンが放送されており、イセリナとのやり取りがアムロの心に大きなダメージを与えたとも取れる描写となっています。

 本編中で語られ公開された情報からも、この第11話「イセリナ、恋のあと」は重要な回と思えるのですが、劇場化の際には「(作劇が)クサすぎる」という理由で外されてしまったのが残念ではあります。