「聖闘士聖衣神話 イーグル魔鈴」(BANDAI SPIRITS)

【画像】隠すのもったいない!魔鈴の美しい「素顔」を見る

十二宮は普通の場所ではない

「週刊少年ジャンプ」で連載されていた『聖闘士星矢」はギリシャ神話を題材とした壮大な世界観や、星座をモチーフとした鎧「聖衣(クロス)」、人間の内に眠る小宇宙(コスモ)を爆発させて奇蹟を起こす戦闘描写などが人気を博して、世界的に話題となった作品です。

 同作の「十二宮編」で、青銅聖闘士である星矢、紫龍、氷河、瞬の4人は、黄金の矢を受けて倒れた女神アテナの化身・城戸沙織を救うために、聖域(サンクチュアリ)の十二宮に挑みます。

 星矢たちが格上の黄金聖闘士たちと戦いつつ、十二宮を突破するというのが、この物語の目標でした。正面から十二宮を突破して、教皇の間を目指す星矢たちですが、不思議な描写も見られます。例えば星矢が獅子座のアイオリアと戦った際には、戦闘中に蛇遣い座のシャイナの弟子であるカシオスが現れて戦いに介入しました。

 また、乙女座のシャカが星矢たちをまとめて倒した際には、フェニックスの聖闘士・一輝が突然現れて、シャカに戦いを挑んでいます。

 その他、最後の双魚宮で瞬が魚座のアフロディーテに戦いを挑む間に、突破した星矢が教皇の間に向かう場面もありました。ここでも、デモンローズの香りで倒れた星矢を救うために、突然鷲星座の魔鈴が現れます。魔鈴の助けもあり、デモンローズを「ペガサス流星拳」で吹き飛ばした星矢ですが、その後でシャイナも現れました。

 時系列としては、魔鈴やシャイナが星矢の前に現れたのは、瞬がアフロディーテと戦闘している最中です。アフロディーテが素直に魔鈴やシャイナを通すとは思えませんが、ふたりが双魚宮を強行突破した描写はありません。カシオス、一輝、魔鈴、シャイナはどうやって十二宮を突破したのでしょうか。

 まず考えられるのは、「十二宮を通らなくても、教皇の間や各宮に行ける別ルートがある」ということでしょう。

 なお、教皇に成り代わったサガの正体を見た雑兵が、殺されている描写もあります。教皇の間に行くためにはデモンローズが植えられたルートしかないのであれば、ただの雑兵たちは教皇の間にたどり着けません。また、十二宮編の前に、獅子座のアイオリアが教皇の間でシャカと対決していますが、デモンローズが妨げになる描写はやはりないのです。

 ちなみに「十二宮はどんな超能力の持ち主でも、己の足で歩くことでしか突破できない」ともされています(氷河が、サガの「アナザーディメンション」で双児宮から天秤宮にワープしていますが……)。そのため、魔鈴たちがテレポートなどで、双魚宮に入り込んだ可能性も考えにくく、「抜け道」を通ってきたかのようにも思えます。

 ただ、抜け道があったとした場合「聖域で6年間修業していた星矢が、聖闘士になれなかったカシオスでも知っている抜け道の存在を全く知らない」というのが引っかかります。

 上記のような点を考え合わせるなら、「十二宮自身の意志による判断で、星矢や沙織に試練を課している」のではないでしょうか。十二宮は「神話の時代から、アテナの小宇宙が満ちている場所」と言われています。そして射手座の黄金聖衣を見ても、「物質にも意志が宿る」のは明らかです。

「十二宮編」では十二宮自身が「聖域への挑戦者」である星矢たちを、「真の聖闘士かどうか確かめる」という試練を課しているので、抜け道があっても星矢たちはそこを通れないのでしょう。

 実際、サガの正体が明らかになったときに、アイオリアは「全てがはっきりした以上、もはやここに留まってはおれぬ」と発言していました。彼には「星矢と戦った後、直接助力せず、留まっている理由」があるということです。その理由とは、「十二宮の意志を尊重する」ということなのではないでしょうか。長年十二宮を守護してきた黄金聖闘士なので、十二宮自身が星矢たちに試練を課していることが分かっていたということです。

 そして、牡羊座のムウも「動けるなら、老師もわたしも初めからそうしている。ただこれは天がアテナに与えた試練なのだ」と発言しています。この言葉で分かるのは、アテナの化身である沙織の意志とは別に「天」の意志があるということです。善のサガも十二宮を突破した星矢に、「本当によくここまで十二宮を突破してきた……。お前たちこそ、まさしく真の勇気と力を持ったアテナの聖闘士だ」と、「試練を突破した者を賞賛する」ような発言をしていました。

 星矢もまた、沙織ではなく「アテナ像の女神アテナ」に呼びかけて、アテナの盾を授かっています。沙織が星矢たちに意志を伝える時は、「沙織として」呼びかけていることは描写されているため、この場合の「天」とは「十二宮に宿る歴代アテナの小宇宙」ということなのでしょう。

 なお、「十二宮編」のなかで、雑兵たちが沙織を殺害しようとしたところを一角獣星座の邪武たちが護る場面があります。ここで雑兵たちは、沙織たちを「アテナを自称する小娘」「日本から挑戦してきた青銅聖闘士」と認識していました。沙織が教皇に会見を申し入れている場面が描かれていますから、サガは沙織の会見要請を受けて「日本からの青銅聖闘士に対応するため」に黄金聖闘士たちを招集し、聖域全体にお触れを出したということでしょう。

 その一連の流れを十二宮自身が感じとり、当代のアテナの化身である沙織のことを直接守護する星矢たちを「試そうとした」と考えるなら、「星矢たちはダメだが、魔鈴たちは抜け道を通れる」ことがすんなり理解できると思われます。

 結論として、カシオスや魔鈴やシャイナは「十二宮に試練を課されている対象」と見なされていないため、抜け道を通ってショートカットできたということです。

 一輝については、星矢たちと一緒に来たわけではなく、当初は「試練対象」と見なされていなかったので、処女宮まではショートカットできたのでしょう。一輝はシャカ戦の後で復活した際には、十二宮を順番に突破していますから、この時点では「試練対象」となっていて、抜け道を通れなくなったのだと思われます。

 ちなみに、聖闘士たちは音速から光速の動きが可能です。例えばマッハ1だとしても、「十二宮編」のタイムリミットである12時間分ずっと走ったら、約1万4700km移動できます。もちろん「十二宮編」でいちばん過酷なのは黄金聖闘士たちとの戦いですが、基本的には各宮で星矢たちは「誰かひとりが戦って、後のメンバーは先を急ぐ」という作戦をとっていました。そこまで青銅聖闘士たちの動きが完全に止められた時間はないはずですが、それでもアテナを救うまでに12時間ギリギリかかっています。

 そうなると、十二宮を移動する距離は「異様に長い」ということになります。地球の直径が1万2742kmですから、先述の「マッハ1×12時間=約1万4700km」の仮定で考えると、「聖域」は地球より広い可能性が出てきます。

 こんな場所が現実世界にあるとは考えづらいので、聖域はギリシャのどこかではなく、アテナの小宇宙で作られた「別次元」にあるということでしょう(ハーデスの作ったエリシオンのように、神は異世界を創造できるようですし)。半日もの時間がかかったのは、「星矢たちに課した試練として、十二宮が神秘的な力で伸縮して、各宮1時間消費するようになっていたから」と考えられるのではないでしょうか。

 ただ、一輝は星矢がサガと戦い始めてから、処女宮から教皇の間までを、長く見積もっても十数分ほどで抜けています。これは「十二宮の意志」で聖域の広さを縮め(それができるから、星矢たちが各宮にたどり着いた時に、約1時間が過ぎていたのでしょう)、一輝をすぐ教皇の間に行かせてサガと戦わせることで、聖闘士としての資質を図ろうとしたのではないでしょうか。このような「十二宮の思考」があると考えて読み直すと、また新たな発見があるかもしれません。