「デスピサロ」は憎い相手なのに、救いたくもある稀有な敵だった

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憎いはずの敵が、自分と同じ気持ちだったなんて……!

 一般的なRPGでは、目的を達するまでの道のりにさまざまな敵との戦いが待ち受けています。しかし時には、「倒したくない敵」と向き合うことも。戦う以外の道があれば……と願うものの避けられない場合が多く、その勝利も苦いものになりがちです。

 こうした忘れられない敵との戦いは、ゲームを遊んだ人の数だけあります。無論筆者にとっても、記憶に刻まれた戦いはいくつもありますが、今回はそこから3つの作品を厳選し、紹介します。

 この振り返りをきっかけに、あなたにとっての「倒したくない敵」を思い出してみてはいかがですか? ただし、各作品の要点に迫るため、一部ネタバレがあるのでご注意ください。

幼馴染の仇は、同じ苦しみを抱く最も近い相手に……

 ファミコン時代の「倒したくない敵」といえば、『ドラゴンクエストIV 導かれし者たち』に登場する「デスピサロ」が忘れられません。ピサロは魔族を率いるリーダー格で、人類を滅ぼさんと暗躍。その一端として、主人公である勇者を倒すべく、山奥の村を襲撃しました。

 この時、勇者の幼馴染であるシンシアが身代わりとなり、魔族の手にかかって命を落とします。彼女の献身的な行動のおかげで勇者は助かりましたが、その悲劇は勇者の胸に、そしてプレイヤーの記憶にも刻まれました。

 シンシアの仇をとる──そんな想いに駆られながら旅を続けていくと、デスピサロがなぜ人間を滅ぼしたいのか、その理由が浮き彫りになっていきます。

 彼が特に憎んだのは、人間の底知れぬ欲深さ。泣くと「ルビーの涙」を流すロザリーをつけ狙う人間たちの所業に怒り、その手が届かないようにロザリーを匿います。

 しかし、人間の強欲はとうとうロザリーを捕らえ、痛めつけられた挙句に死亡。その絶望と人間への怒りから、デスピサロは「進化の秘宝」を自身に用い、理性すら失う破壊の権化になり果ててしまいます。

 勇者にとってデスピサロは、シンシアを殺した憎い仇。ですがそのデスピサロも、愛する者を理不尽に奪い去られており、敵でありながら最も近しい場所にいる相手なのだと気づかされます。

 シンシアの仇で、同じ痛みを持つ相手で、破壊の権化と化した存在。そんなデスピサロを倒したくない……けれど、自分以外に倒させたくない。そんな複雑な感情と共に、最終決戦に挑んだあの日を今も忘れられません。

 なお余談ですが、後にリリースされた初代PlayStation版『ドラクエIV』では、ロザリーとデスピサロを救い、更なる真実に近づく追加ストーリーが用意されました。その内容は賛否が分かれましたが、個人的には「報われる可能性がある」という事実に救われています。



「そんな」と「まさか」が交錯する、『真・女神転生』でも指折りのトラウマシーン

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倒すことで認めてしまう苦悩! 知らなければ良かった裏側も……

何があっても倒したい! しかし、前に進みたくなかったあの戦い

 続いてスーパーファミコン時代にも、「倒したくない敵」の思い出があります。『ドラクエIV』の時は複雑な感情が入り混じる戦いでしたが、ここで取り上げる『真・女神転生』は少々趣が異なります。

『真・女神転生』の主人公は、現代の東京にいるごく普通の少年。母親に小言を言われながらも、頼まれたコーヒーの買い出しはしっかり終わらせるあたり、良好な関係性が窺えます。

 ですが、街中が悪魔に侵食されはじめ、平和な世界が音を立てて崩れていきました。その発端となるのが、帰宅後の母親との会話。さも愛情があるように話しかけてきますが、不自然さが否めず、違和感を覚えます。そんな主人公の態度に業を煮やしたのか、母親の姿をした悪魔は本性を現し、「お前の母親はいただいた」「腹の中で会わせてやる」と言い放ちました。

 ありふれた、しかし唯一無二の愛情を主人公に傾けてくれた母親は、その最後を看取ることもできずにこの世を去っていた。その悲劇をもたらした悪魔に怒りが滾る一方で、「こいつを戦うのは、母親の死を認めることになるのか……?」と、理不尽な現実から目を背けたくなる気持ちも湧き上がります。

 この悪魔自体に情けをかけるつもりは、微塵もありません。ですが、母親が死んだ場面を直接目撃していないので、嘘であって欲しいという思いも拭い切れません。いっそ、ここから前に進まなければ、この事実を受け入れなくてもいいのでは……という弱さを無理やり抑え込み、悪魔との戦いに挑んだことを今も覚えています。

後から事情を知るも、この手はすでに汚れていて……

 いくつかのハードな戦いを経験した結果、心が揺らぐことはあっても、大きく動揺するケースは少なくなりました。ですが、そんな慢心をしていた頃、『ニーア ゲシュタルト/レプリカント』というゲームにざっくりと胸を抉られてしまいます。

 主人公の設定や作品全体を語ると非常に長くなってしまうので、本記事のテーマである「倒したくない敵」だけに的を絞りますが、その対象となる相手は本作の至るところに存在します。

 マモノに脅かされるこの世界で、主人公は攫(さら)われた「ヨナ」(妹もしくは娘)を守るため、日々奔走します。その中で、ロボットとマモノのタッグや、人々を襲う狼の群れなど、さまざまな相手と戦いました。しかし、自分の想いだけで邁進できたのは、1周目のエンディングまで。本作は周回要素があり、プレイを続けると主人公サイド以外の事情が判明していきます。

 例えば、人間たちに襲われて天涯孤独となったマモノが、遺跡にいるロボットと出会い、互いにかけがえのない存在になりました。主人公らと戦うのは、憎しみや敵対ではなく、それぞれを守り合った結果に過ぎません。彼らの側にも、戦うべき理由、譲れない気持ちがあったのです。

 また人を襲った狼たちも、人間たちによる容赦のない狩りで仲間や子供を失っており、その喪失に苦しんでいました。確かに狼も、人を襲いました。そして、人間も狼を殺しています。どちらも加害者で、そして被害者でもある。そこに正義はなく、そして悪すらもありませんでした。

 本作のラスボスにあたる「魔王」も、単純な善悪では割り切れない複雑な事情の持ち主。前述のデスピサロ以上に、主人公と魔王の距離は近く、しかし決して相容れない立場が物語に大きな深みを与えました。

 ちなみに『ニーア ゲシュタルト/レプリカント』のパワーアップ版『ニーア レプリカント ver.1.22474487139…』が、PS4やSteam向けに発売中。現行機で遊べるので、興味が沸いた方はぜひ、「倒したくない敵」とその理由を体験してください。