ゲームの悪女といえば『バハムートラグーン』の「ヨヨ」と言われるほどインパクト満点だった。

【画像】涙が止まらない! 「賛否両論」巻き起こしたゲームヒロインたち(5枚)

感情移入していたら「号泣必至」の悪女たち

 ゲーム業界の「三大○○」と言えば、最も有名なのが「三大RPG」。人によって異論はありますが、一般的には『ドラゴンクエスト』と『ファイナルファンタジー』が鉄板で、そこに『ポケットモンスター』や『ペルソナ』など、さまざまな意見が飛び交っています。

 ですが「三大RPG」以外にも、一部のユーザーたちが語り継ぐ「三大○○」があります。そのひとつが、「スクウェア三大悪女」──その呼称からも分かる通り、スクウェアの作品に登場する「三人の悪女」を厳選したものです。

「悪女」という言葉は、容姿の悪さや男性を堕落させるといった意味も持ちますが、インタラクティブ性が強いゲームの場合だと、「自分の気持ちや感情のままに、相手(この場合、プレイヤーである自分)を振り回す身勝手な女性」を悪女として捉える傾向にあります。

 そうした視点から、長らく語り続けられている「スクウェア三大悪女」。果たしてどの作品に出た誰が、「悪女」としてプレイヤーに注視されてきたのでしょうか。その実体を分かりやすく紹介します。なお、企画の構成上シナリオのネタバレを含んでいるので、ご注意ください。

「幼馴染の王女」というポジションから、予想外の行動を見せた「ヨヨ」

「スクウェア三大悪女」のなかでも頭ひとつ抜きん出ているのが、スーパーファミコンソフト『バハムートラグーン』に登場する「ヨヨ」です。本作はシステムの詰めが甘い部分こそありますが、共に戦うドラゴンの自由な育成や、美しく描きこまれたグラフィックなど、ゲームとして確かな出来栄えを誇っています。

 ですが、ヒロイン的な存在であるヨヨのインパクトが強過ぎて、ゲーム面の評価も隠れてしまうほど。当時はRPG黄金期で、王道的な作品が主流だったこともあり、プレイヤーの想像を超えるヨヨの振る舞いが良くも悪くも記憶に刻まれました。

 プレイヤーの分身とも言える本作の主人公は、グランベロス帝国と戦うカーナ王国の隊長「ビュウ」。そして、彼と惹かれ合う幼馴染であり、カーナ王国の王女でもある彼女こそが、今回取り上げるヨヨなのです。

 幼い頃から関係を築き、成長した今は相思相愛となったビュウとヨヨ。しかし敵の猛攻により引き裂かれ、彼女は帝国に囚われてしまいました。また王国も壊滅しますが、ビュウは反乱軍を率いて力強く戦い続けます。

 そのひたむきな努力が実り、年単位の月日こそかかってしまいましたが、ヨヨの奪還に成功。彼女を取り戻す念願が叶う展開を迎えます。しかしこの時のヨヨは、ビュウを最も慕っていたかつての彼女ではありませんでした。

 帝国に囚われていた間、帝国の将軍「パルパレオス」がヨヨの面倒を見ていました。それをきっかけにふたりの距離が徐々に近づいていき、ヨヨの気持ちは完全にパルパレオスへと向いてしまい──その結果、ビュウへの恋心は消え失せ、パルパレオスの恋人となりました。

 この展開だけでもショックですが、その関係性の表現も非常に秀逸(=ショッキング)。例えば、かつてビュウのドラゴン「サラマンダー」に乗せてもらった時、ヨヨは「サラマンダー、とってもはやいね!」と嬉しそうにはしゃいだことがありました。

 ですが、後にパルパレオスのドラゴンに搭乗した時、「サラマンダーより、ずっとはやい!!」と賞賛するヨヨ。速いのは事実だとしても、それを表現するためにわざわざサラマンダーを引き合いに出すなんて……あまりに自分本位な物言いに、プレイヤーはダイレクトにダメージを受けました。

 このほかにも、ビュウとの思い出の場所にパルパレオスを連れていき、思い出を上書きするような行為をしたり、「私、子供の頃にはもう戻れないの……」「大人になるって悲しいことなの……」とビュウとの関係を一方的に過去のものにするなど、悪い意味で自由奔放な振る舞いを貫きます。

 パルパレオスに惹かれたり、愛情の表現を隠そうとしない様子を見ていると、わざとビュウを傷つけているのではなく、自分の感情にとても素直で、ある意味純粋なだけかもしれません。一般的な人付き合いが少ない王女という立場も、ヨヨの性質に拍車をかけた可能性があります。

 しかし、責任ある一国の王女という点はもちろん、ひとりの女性としても、その言動や振る舞いは身勝手が過ぎるというもの。長年の監禁生活など、考慮すべき点があるのも事実ですが、「それを踏まえても目に余る」と感じたプレイヤーが多く、三大悪女の代表的存在として今も語り継がれています。

 ちなみに、ゲームを進めるとパルパレオスも反乱軍に加わるため、彼とヨヨが仲良くする姿をたびたび見せつけられるのも罪深いポイントでしょう。



SFCソフト『ライブ・ア・ライブ』に登場した「アリシア」の行動が、大きな悲劇を生んだ

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「3人目」は意見が割れる?

典型的な「救われる王女」から脱した「アリシア」

 ふたり目の悪女は、こちらもスーパーファミコンソフトの『ライブ・ア・ライブ』に登場した「アリシア」。本作は複数の世界にそれぞれ主人公がいますが、その7つの世界をクリアすると物語の核心に迫る「中世編」の幕が開けます。アリシアは、この中世編のヒロインです。

 ヨヨと同じくアリシアも王女という立場にあり、ごく一部の限られた者以外は言葉を交わすことも叶いません。ですが、武闘大会に優勝すれば、求婚が許されると知り、中世編の主人公「オルステッド」がこの大会に参加しました。

 この大会に参加したオルステッドは、親友のストレイボウをも下して見事優勝。そしてオルステッドは彼女に求婚し、アリシアは快く応じました。ほかの誰よりもオルステッドを信じると誓うアリシア。それは、新たな愛が生まれた瞬間でした。

 しかし、突如現れた魔王により、アリシアがさらわれてしまいます。共に過ごした時間こそ短いものの、オルステッドにとっても彼女は大事な相手。ストレイボウや仲間たちと共に魔王の討伐と王女の救出に挑みます。

 その結果、彼女をさらった魔王を討伐するも、実は偽物だったと判明。その驚きが収まる間もなく大地が崩れ始め、アリシアを見つけるどころかストレイボウが崩落に巻き込まれる事態に。かろうじて生き延びたオルステッドですが、予期せぬ不幸に次々と襲われ、武闘大会に優勝した時の華々しい名誉や誇りは見る影もありません。

 しかし、オルステッドにはまだやるべきことがあります。助けを待ち続けているであろうアリシアを救う──仲間に背中を押され、オルステッドはもう一度、魔王がいる山へと挑みました。

 ですが彼を助けたのが仲間なら、残酷な事実を突きつける相手もまた、オルステッドの大事な仲間でした。崩落に巻き込まれたはずのストレイボウが姿を現し、すべては自分が行ったことだと告げたのです。

 オルステッドへの妬みから、ストレイボウは彼を絶望に叩き落そうと画策。その感情に支配された親友に、もはや言葉は届きません。ただ戦いだけがふたりの間にあり、勝利したのはやはりオルステッドでした。あの大会と同じように。

 空しい勝利を得た直後、探し求めたアリシアがそこに姿を見せました。魔王は倒れ、王女が救われる。御伽噺のような結末を迎えた……と思った瞬間、アリシアが口走ったのはオルステッドに対する糾弾でした。

 さらった後、ストレイボウがその心の内を彼女に明かしたのか、その劣等感や苦しさを本人以上の激しさで訴えるアリシア。「あなたには、この人の……負ける者の悲しみなどわからないのよッ!!」と、叩きつけるようにオルステッドをなじります。

 しかもアリシアの激情は、言葉だけでは収まりません。思いの丈をぶつけるだけぶつけると、「わたしがずっと一緒にいてあげる!」と告げ、短剣を自らの身に突き立てます。ストレイボウへの想いは、同情や憐憫に留まらず、その命すら投げ出すほどだったのです。

 ──魔王を討伐し、王女を助ける。単純至極と思われた物語が描いたものは、愛を誓ったはずのアリシアの豹変、そして命すら捨ててストレイボウに寄り添う激しい想いでした。

 アリシアにも事情や経緯があったのだとは思いますが、オルステッドからすれば、純粋に信じていた愛情や友情を一方的に裏切られ、ただひとり残されただけ。その怒りや悲しみをぶつける相手すらおらず、行き場のない感情が渦巻くのみです。彼の立場で中世編を遊んでいたプレイヤーも、ただただ戸惑うほかありません。

 前述のヨヨと共通する部分も多いものの、ヨヨは物語の全般にわたって登場し、悪女ぶりを積み重ねていきました。しかしアリシアの出番は少なく、冒頭とラストのみ。その短い機会で、特大のインパクトを残した点は、ある意味見事と言うほかありません。悪女として名を連ねるのも、無理のない話でしょう。

意見が分かれる3人目の「悪女」

「スクウェア三大悪女」ですが、実は3人目については意見が分かれる向きがあります。というのも、前述したふたりの悪女評価が高過ぎて、それに匹敵するほどの悪女が見当たらないためです。

 そのなかでも比較的多くの意見を集めているのが、PSソフト『ファイナルファンタジーVIII』の「リノア」。軍の重要人物を父に持ちながら、レジスタンス組織に身を置くなど、立ち位置もちょっと特別な本作のヒロインです。

 主人公の「スコール」は寡黙で人を避けがちですが、そんな彼すら巻き込むポジティブさを発揮するリノア。その前向きな行動力を「活発」と捉えるか、「わがままでウザイ」と見るかで、彼女への評価が大きく変わります。

 またセリフも独特で、「私のことが……好きにな〜る、好きにな〜る」「おハロー」「ハグハグ」など、記憶に残る言い回しが多数。こうした言葉のチョイスもまた、賛否両論の的となりました。

 感情豊かで、自分なりの芯を持ちながら、若さゆえの甘さや至らなさも持つリノア。それは等身大の若者らしさとも言えますが、スコールにとっては自分を翻弄する相手とも捉えられます。プレイヤーはスコール目線になりやすいので、そちらに気持ちを引っ張られてもおかしくはないでしょう。

 とはいえ、前のふたりと比べると悪女感という面では弱め。ちゃんとスコールとの関係を縮めていきますし、ヨヨたちと違って心を裏切ることもありません。彼女に惹かれるかどうかはプレイヤー次第ですが、「三大悪女」の数合わせの面が否めない人選とも言えます。

 人によっては、リノアではなく『魔界塔士Sa・Ga』の「ミレイユ」を三大悪女に加える場合もあります。レジスタンスの一員だったミレイユは、敵対する組織に捕まってしまい、姉の「ジャンヌ」が主人公たちに助けを求めました。ですがミレイユは、捕まったフリをして敵側に寝返っていたことが判明します。

「わたしはつよいものがすきなだけ。レジスタンスなんてまっぴらよ!」と言い放つミレイユ。この衝撃的なセリフに、主人公(=プレイヤー)は驚くばかりです。ですが、衝撃的な展開はまだ続きます。

 敵の組織に寝返ったミレイユは、しかし一方的に利用されていたに過ぎず、用済みになった途端殺されそうになりました。そんな彼女の代わりに、かばったジャンヌが死亡。全く想像していなかった悲劇を、ミレイユは目の当たりにします。

 激しい感情の行き場がなかったのか、敵を倒してくれた主人公に向かって「はやくきえて!」と、激情を浴びせるミレイユ。気持ちは分かりますが、彼女の行動がこの結末を迎えた一因でもあります。こうした身勝手さから、彼女を三大悪女のひとりに数える人もいます。

 ですがミレイユは、後に自分の行いを振り返り、反省する姿も見せました。寝返った行為は問題かもしれませんが、自分の身を守るひとつの手段として考えると少なからず理解はできます。こうした事情から、ミレイユを悪女とする決め手がやや弱く、「三大悪女」の3人目は意見の分かれるところです。

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 RPG黄金期には、王道的な作品が数多く作られました。そのため、一味違うものを目指す流れが生まれるのはごく自然な話ですし、制作の意図とプレイヤーの受け取り方に食い違うことも稀ではありません。

 プレイした当時に衝撃を受けたのも事実ですが、だからこそ忘れられない思い出になったのも事実。単純な良し悪しだけでは括れない「悪女」たちを、この機会に振り返ってみてはいかがですか?