ジャミラが表紙のMOOK『ウルトラ怪獣コレクション』13巻(講談社)

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ジャミラが「彗星怪獣」でなく「棲星怪獣」である理由

「宇宙忍者」と聞いて「バルタン星人」をぱっと思い浮かべられる人も多いでしょう。ウルトラ怪獣にはこのように秀逸な「別名」が与えられています。この「別名」は見事に子供心にぶっ刺さるものも多く、例えばバルタン星人の別名は「宇宙忍者」。設定的には避難民に近い彼らなのですが、闇に乗じて分身の術など多彩な技を使いこなして戦う姿は確かに「忍者」でした。他にもこうした初期ウルトラ怪獣の秀逸な別名をみていきましょう。

『ウルトラマン』の第23話「故郷は地球」に登場したジャミラの別名は“棲星”怪獣です。タイトルが示す通り、ジャミラはもともと地球人です。宇宙開発時代、事故でとある惑星に不時着し、生きながらえた結果、怪獣となってしまった背景を持ちます。この設定を踏まえた上で「棲星怪獣」という別名を眺めるとその悲劇性がより際立ちます。「星に棲む怪獣」となってしまったのは人間のせいなのに……。同じ音で「彗星怪獣」の別名をもつ怪獣ドラコが別エピソードに登場するのもまた良い対比です。

「宇宙忍者」のように「宇宙〇〇」という呼称には傑作が多いです。例えば『ウルトラセブン』の第11話「魔の山へ飛べ」で登場したナースの別名は「宇宙竜」。ワイルド星人が操る「竜型のロボット」であるのですが、ロボット要素を別名では省略してしまう潔さは気持ちが良いです。円盤型にも変形できる機能美がありながらも、山より出現しセブンを追い詰めていく姿は畏怖の念すら感じさせます。『ウルトラマントリガー NEW GENERATION TIGA』では「巨大戦闘艇 ナースデッセイ号」として防衛チームの基地へと設定をアレンジした上で大活躍しました。「宇宙竜」でもあり「巨大戦闘艇」にもなり得る。「ウルトラ怪獣」の多義性には驚かされます。



『ウルトラマン』で無類の強さを見せ、多くのファンに愛されるゼットン。画像は「S.H.フィギュアーツ ゼットン 可動フィギュア」(BANDAI SPIRITS)

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どうみても「恐竜」じゃない……最強のあいつ

 さて「宇宙〇〇」の別名をもつウルトラ怪獣のなかでもこの多義性、解釈の豊かさの最高峰といえるのが「宇宙恐竜ゼットン」ではないでしょうか。

 先日発表された「全ウルトラマン大投票」の怪獣編でも見事1位に輝いたこのゼットン……その姿はどう見ても「恐竜」ではありません。真っ黒な装甲に覆われた背面や胸部はカミキリムシを思わせますし、甲羅より伸びた手足は白く美しく、不気味な知性すら感じさせます。ある意味でできる限り恐竜(爬虫類)要素を抜き出してデザインされたように思えます。だからこそ「宇宙恐竜」と言われてしまうと、得体の知れなさが倍増。我々人類の想像とは全くかけ離れている姿をした「恐竜」が宇宙より飛来したのだという恐怖感を演出してくれました。

 なおデザインを担当された成田亨さん自身はゼットンをあくまで「宇宙人」のつもりで描いたとおっしゃっています。「人」としてデザインされ「恐竜」として発表されたのですから、そのギャップはたまらないものがあります。他にも「宇宙」を別名に冠する怪獣でいえば「宇宙怪獣エレキング」「宇宙ロボット キングジョー」「宇宙大怪獣ベムスター」と名作が連なります。

『ウルトラマン』第37話「小さな英雄」に登場したジェロニモンの別名もまた怪獣たちを蘇らせる呪術的能力、そしてその容貌から漂う老熟さなどを端的に言い表した素晴らしい別名でした。現在では多少、記載に配慮が必要なのが残念なところです。

 この「別名」文化は今もなお健在。最新作『ウルトラマンデッカー』の第1話に登場したスフィアザウルスは別名「精強融合獣」。一読して意味が掴めない字面ですが、まさに言い得て妙。「どうなっているの?」となる事請け合いのデザインを言い表していました。「別名」でどんな単語が使われていたのかで、その当時の時代感を探る手がかりにもなるのもまた楽しいところなのです。