ガンダムは「ガン」+「フリーダム」の造語。画像は「機動戦士ガンダムDVD-BOX 1」(バンダイビジュアル)

【画像】ドイツ語多いな…様々な言語由来のモビルスーツたち(5枚)

「ジーク・ジオン!」はドイツが由来だが…

『機動戦士ガンダム』は、作りこまれた設定と、数多く発表された作品群がお互いを補完する、大河ドラマ的な重厚さを持つ作品です。劇中描写を見ると「英語表記」が多く見られるため、地球連邦の公用語は英語のようにも思えます。

 地球連邦の兵器名も「ガンダム(元々はガンボイ+フリーダムの造語のようです)」「ガンキャノン」「ガンタンク」「ホワイトベース」「ボール」「コアファイター」など、英語由来のネーミングが多く見られます。

 一方、ジオン公国は「謎のネーミング」と「ドイツ語表記」が目立ちます。謎のネーミングとは「ザク」「グフ」「ドム」「ゲルググ」「ギャン」「ビグロ」「ムサイ」「グワジン」といった、何かの単語とは思えないネーミングです。

 また「ケンプファー」「ゲルググJ(イェーガー)」「リックドムII(ツヴァイ)」「ドム・トローペン」といったモビルスーツ名にもドイツ語が見られます。巡洋艦も「シュレスヴィヒ」「ケンプテン」「ノルトハウゼン」「ワルキューレ」「キール」「ニーベルング」「グラーフ・ツェッペリン」「ジークフリード」など、ドイツ由来のネーミングが多いようです。モビルアーマー「ノイエ・ジール(新しい目標という意味)」もドイツ語です。

 そもそも、ギレンの演説にある「ジーク・ジオン」の「ジーク」はドイツ語で「勝利」という意味ですから、ジオン軍人たちは「ジオンに勝利を」とドイツ語で叫んでいることになります。

 ジオンの軍艦には「レトヴィザン」(ロシア語)、「ペールギュント」(ノルウェー語)というネーミングも見られます。また「イオージマ」など、日本語由来のネーミングと思われる艦艇も存在します。とはいえ、ジオンでも首都名は「ズム・シティ」ですから、英語も使われているのは間違いありません。

 つまり、地球連邦は英語ですが、ジオンではドイツ語も広く使われているのでしょう。基本的な言語、あるいは文化圏がドイツ語なのであれば、デギン公王がギレン総帥を、ドイツの独裁者ヒトラーになぞらえ「ヒットラーの尻尾」と呼んだのも理解できます。

 こうなったのは、スペースコロニー国家の成立が人為的なものであるからだと思います。現実の地球では、人種や宗教などの違いで対立が起こっていますが、宇宙移民の際に「このサイドは◯◯系移民」「このコロニーは○○教徒用」などのように文化や宗教問題を整理することで、領土問題を含めた諸問題を解決したのでしょう。

 劇中に「テキサス・コロニー」というアメリカ・テキサス州に近い雰囲気のスペースコロニーが登場し、観光用とされています。「ロニデニオン・コロニー」もロンドンをモチーフとしているようです。ですから「東京コロニー」とか「パリコロニー」のような、その地域文化を再現したコロニーもあったのかもしれません。

 宇宙世紀で、初めての恒久月面都市を「フォン・ブラウン」と呼びます。これはロケット開発に貢献したドイツ人ヴェルナー・フォン・ブラウンにちなんだネーミングです。初めての月面都市名は、例えば初めて月面に降り立った、ニール・アームストロングなどでもよかったはずですが、それがフォン・ブラウンとなるのは「月面都市建設がドイツ主導で行われたから、都市名がドイツ人名となった」と考えることもできるでしょう。

 月面都市建設が可能な高度インフラ集団が、スペースコロニー建設に携わっていないとは思えません。その関係で、月の近くにあるサイド3はドイツ系移民(やロシア、北欧の移民)が多かったのでしょう。

 なお、宇宙世紀では、コロニーの位置関係を「バンチ」という(恐らく)日本語で表す通り、日系の技術者やスポンサーもここで関わっているようにも思えます。ソーラ・レイを開発したジオン軍技術者に「アサクラ」という人物がいますが、コロニー関係の技術者として、日系人が招聘されたのかもしれません。

 ちなみに冒頭で触れた「ザク」などの「謎のネーミング」ですが、『機動戦士ガンダム」の時点で宇宙世紀は79年も経過しています。国語辞典「広辞苑」は、10年で1万語の「新語」が追加されるそうですから、宇宙世紀には「ザク」「グフ」のような地名とか、用語があって、それを元に名づけられているのかもしれません。

 宇宙世紀には、現実世界では一見すると使われそうもない人名も見られますが、宇宙世紀の数十年でスペースノイドの文化が生まれ、それを元に育まれたのでしょう。