裏の顔は殺し屋<いばら姫>であるヨル TVアニメ『SPY×FAMILY』MISSION:2「妻役を確保せよ」より (C)遠藤達哉/集英社・SPY×FAMILY製作委員会

【画像】幸せそうなフォージャー家 ロイドとヨル、アーニャの姿(5枚)

超人的な能力を持つヨルに、疑いを持たないロイドの謎な部分

 1960~70年代の東西冷戦風の世界で、スパイの父と、超能力者の娘と、殺し屋の母が織りなす日常を描いた人気作『SPY×FAMILY(スパイファミリー)』(原作:遠藤達哉)。スパイのロイド・フォージャーこと、<黄昏>は任務遂行のために、ヨルと偽装結婚します。ヨルは<いばら姫>と呼ばれる殺し屋なのですが、ロイドはヨルの正体を知りません。ロイドは劇中で、ヨルの正体にあまり関心を持たないようです。

 ロイドは極めて優秀なスパイです。標的のエドガーを追い詰めた時に「エドガーの娘の犯罪行為や体中のホクロの数まで」調べたと言うほどの調査能力を持ちます。動物園の飼育員に偽装した時は、多数いるペンギンを個体識別できる洞察力もあります。

 一方、ヨルは非常に優れた殺し屋ですが、天然ボケなところがある性格で、ロイドの前でたびたび超人的能力を見せています。

 敏腕スパイであるロイドの背後を取ったり、ロイドを襲撃したギャングを撃退したり、暴走した牛を一撃で倒したり、テニスボールを音速で撃ち返したりと、とうてい普通の女性ではできないことをしているのです。

 さらに、ロイドはヨルの弟のユーリが、敵対する<東国>の秘密警察所属ということも調べています。しかし、劇中でロイドがヨルを疑ったのは、原作マンガ第14話、アニメ第9話でのエピソードだけです。ロイドは「直観や身辺調査ではシロ。独身を保安局に怪しまれないための偽装結婚という話だが、身内が秘密警察ならそんなことをする必要がない。だが、全てがスパイである自分に近づくための演技かもしれない」と考え、ヨルに盗聴器を付けます。

 その上で、ロイドはフランキーと秘密警察に偽装して、ヨルを詰問します。ヨルが弟のユーリのことを秘密警察所属だと知っているなら、助けを求めると考えたからです。ヨルはユーリが秘密警察だと知らなかったため、ロイドたちが扮した秘密警察に対し毅然と振る舞います。この場面でも、ヨルは裏社会の情報屋であるフランキーを組み伏せていますので、常人ではありません。

 にも関わらず、ロイドはヨルがユーリに助けを求めなかったことをもって「秘密警察とつながっていない」と判断し、以後ヨルを疑わなくなります。

 その後もロイドは、酔ったヨルに本気で蹴られて、ケガまでしていますが「なぜヨルが、自分でも対応できないような超人的な戦闘能力を持っているのか」疑問を持たないのです(ヨルは「弟に習った護身術」としか説明していません)。

※これ以降、アニメ第2クールに登場するキャラクターについての記載があります。



ロイドはヨルの性格を「天然」と認識しているようだが… TVアニメ『SPY×FAMILY』MISSION:12「ペンギンパーク」より (C)遠藤達哉/集英社・SPY×FAMILY製作委員会

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有能なスパイ・ロイドが唯一「理解していないこと」とは?

 実際、ロイドの仲間である女スパイ<夜帳>は日常のヨルを一目見て「隙のない身のこなし」と認めています。ロイドは有能なスパイですから、ヨルの動きがとうてい素人ではなく、訓練されていることに気付けるはずです。

 ロイドが本気でヨルを疑ったなら、彼女の<いばら姫>としての任務は、かなりの頻度で発生していますから、彼女を殺し屋だと特定することも可能でしょう。

 つまり「ロイドは(無意識で)ヨルを疑いたくない」ので、不審なことをスルーしているのだと思われます。その裏付けとなるのは「ロイドは自分の気持ちだけはよく理解していない」という描写です。

 ロイドが孤児院からアーニャを娘として引き取った直後、アーニャは誘拐されます。ロイドは「子供は他にいくらでもいる」と考えつつも、実際の行動としては「変装してアーニャを助けに行く」と真逆なのです。そして、アーニャがイーデン校に合格した時は本気で喜び、人前で気を抜いて寝ています。

 ロイドは第1話冒頭で「ロバート」に偽装して、標的の娘であるカレンに近づき、目的の写真を入手した後で「君の会話には知性を感じない」と、あっさり振っていますので、人を切り捨てられないわけではありません。気に入った人に甘いのだと思います。

 そんなロイドがヨルと出会い、身辺調査も不十分な出会った直後に、密輸組織に襲撃され、戦闘の最中に「(偽装)結婚しませんか」とヨルから提案されます。ふたりは、密輸組織を撃退した後で、そのまま役所(本当は組織)に婚姻届を提出するのです。

 つまりロイドは「素直で強くて美しい」ヨルを、ひと目で気に入ったのでしょう。そして「シロという直観」に従い、(偽装)妻として迎えたのです。その直観は「老婆からお金を奪ったひったくり」をヨルが追うなどの、人道的行動で裏付けられ、かけがえがない存在になっていったのでしょう。

 実際、ロイドはヨルに蹴られても「逆ハニートラップなのか!? ヨルさんもスパイだったのか」と思いつつ「落ち着け黄昏、それはない」と「即座に」自己否定しています。

 そして「オレとしたことが気持ちの精査を怠るとは……! ヨルさんといるとどうにも調子が……」とも考えています。要するに「自分がヨルに好意を持っている」ことに気付いていないということでしょう。

 ロイド(スパイ<黄昏>)に好意を持つ、女スパイ<夜帳>は、ロイドが偽りの家族に向ける笑顔を「よくできた作り物」と断定しようとして、そこに潜む「微細な感情」に気付いています。

 また、フランキーもロイドに「疑った罪悪感とか言うなよ? 前にも忠告したが、いらん情を抱くな」と言っていますので、周囲から見ると心の動きが分かるのでしょう。

 フォージャー家が、本当の家族に近づいていくのが『SPY×FAMILY』の魅力ではありますが、ロイドは<西国>のスパイで、ヨルはそれと敵対する<東国>の殺し屋。アーニャやボンドも、おそらく<東国>由来の研究機関出身ですから、今後何も起こらないとは思えません。ハラハラしつつ、フォージャー家のハッピーエンドを祈る次第です。