「食の原理主義者」を自認する稲田俊輔氏は、南インド料理とミールスブームの火付け役となった南インド料理店「エリックサウス」総料理長でもある
キャベツが主役の回鍋肉(ホイコーロー)、鮮魚のカルパッチョ、ベーコンのカルボナーラ(生クリームベース)、甘くてフカフカのナンと辛さを選べるバターチキンカレー。どれも日本人の口に合うようにローカライズされた”日式外国料理”だ。
「へえー初めて知った」という方、あなたは「普通の人」です。逆に「そんなの知ってるわい!」という人は、もしかしたら「食の原理主義者」(あるいはその素質がある人)かもしれません。
世界各国・各地の料理そのものを再現すること、あるいはそれを食べることを至福の喜びとする原理主義者たち。逆に、日本人の舌に合うように外国料理を”魔改造”して広めてきた挑戦者たちと、それを受け入れてきた大多数の普通の人々。
この両輪によって形づくられた日本独特の外国料理文化を描いたのが、南インド料理店「エリックサウス」総料理長を務める稲田俊輔(イナダシュンスケ)氏のエッセイ『異国の味』だ。
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――この本では「まえがき」で、「僕自身は完全なる原理主義者です」と、ご自身の立場をはっきり示しています。どちらにも与(くみ)さない第三者の立場から書く選択肢もあったと思うのですが、なぜこの形を選んだのでしょうか?
稲田 原理主義者って、数の上ではいわば”珍獣”なんです(笑)。僕の周りにはインド料理マニアといわれる人たちを中心に、珍獣がかなりの数生息していますが、その中では当たり前のことが、たぶん外から見ると不思議な生態なんだろうなと。
この本では客観的な資料ではなく物語を作りたかったので、珍獣の行動や考え方をある種の見世物にしたほうが、エンターテインメントとして面白くなるだろうと思いました。
多くの原理主義者たちには「自分たちは特殊である」という意識が間違いなくあると思いますし、それがいい意味でのプライドにもなっています。彼らはよく「普通の人々」という言葉を使うんですよ。しかもためらいなく(笑)。
その上で自分を「珍獣です」みたいにちょっと卑下するか、山岡史郎(@『美味しんぼ』)のように「われこそはエリートである」という自意識になるのかは人それぞれですが、いずれにせよ数の上では少数であっても、新しい異国の味の文化が広まっていくときには、間違いなく重要な役割を果たしてきたと思います。そのドキュメント的なものを描きたかったというのもありますね。