山の雪が溶け、麓から山の上へと新緑がどんどん進み、緑のグラデーションが美しいこの時期。

スキー場や山から雪がなくっても、残雪を求めてしつこくスキーを続ける人がいれば、ジャンプやジブの練習施設に通ったり、ブラシの上を滑るといったオフトレに精を出す人もいる。

一方で、スキーやスノーボードとは関連ない、まったく別のアクティビティを楽しむ人も多い。自転車、サーフィン、SUP、トレイルランニング、登山、スケートボード、インラインスケート……。
なかでも自転車、とくにマウンテンバイク(以下MTB)にハマる人が年々増えている。MTBもスキー・スノーボード同様にいくつかのカテゴリーに枝分かれしているが、なかでも注目度が高いのはダウンヒル。これは、文字通り山道を駆け下りることに特化したカテゴリーだ。

このアクティビティの面白さはなんだろう。魅力は? スキーやスノーボードとの共通点はあるのか? これは実際にやっている人の生の声を聞くのがてっとり早い。

ということで、MTBにどっぷりとハマっている白馬在住のスキーヤー古瀬和哉とスノーボーダー南浦高志の2人が、白馬岩岳を走りながらその楽しさを語り合った。

南浦高志 Takashi Minamiura
白馬村で宿「白馬シルクウッドホテル」を営みながら、プロスノーボーダーとして活動。MTBもEskercyclesのアンバサダーを務める。勾玉作りも職人レベル。
Instagram:takashi.minamiura
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古瀬和哉 Kazuya Furuse
冬は白馬エリアを拠点に活動するプロスキーヤー兼スキーガイド。滑ることを追求したバックカントリーガイド「LOCUS GUIDE SERVICE」を2019年に立ち上げる。Instagram:Kazuyafuruse
スポンサー:パタゴニア、マーカー、ダルベロ、フォルクル、スミス、他

MTBとスキー・スノーボードの共通点

南浦高志(以下、南浦):僕はもともとオートバイのトライアル(*オートバイに乗ったまま、高低差や傾斜が設定されたコースを走り抜ける競技)を、高校生ぐらいまでやってました。
その後、スノーボードが面白くて辞めちゃったんだけど、あるとき地元の先輩がMTBをやってて、それを見て楽しそうと思って始めたのがきっかけ。かれこれ20年近く、二輪に乗る楽しさに浸っています。

古瀬和哉(以下古瀬):僕は5年ほど前にパタゴニアのアンバサダーミーティングを白馬でやった時に、アクティビティ体験で岩岳を走ったのが最初です。あまりに面白くて、そのあと、コース整備をするディガーになったほど、笑。

南浦:そこまで惹き込まれた訳は?

古瀬:言葉でうまく説明できないけど、疾走感? MTBはスキーとすごく似ていて、R(ターン)だったり、G(重力)だったりの感覚はほぼ一緒の部分が多くて。だから、冬の遊びの延長って感じハマったのかもしれない。

南浦:スノーボードも似ているところはあるよ。重力と自分の力で山を下って遊ぶのは楽しいよね。

古瀬:スキーは前を向いているので、運動的にも腰のアンギュレーションをとったり、ローテションさせる感じなど、スキーの動きがそのままMTBにも当てはまる。

南浦:地形の使い方もほとんど一緒な感じ。

古瀬:乗り方にも個性が出るところが面白い。

南浦:スタイルは人によって違うよね。地形のどこでも遊べるっていうのが、スキー・スノーボード・MTB全部共通してるかな。

古瀬;滑り慣れたスキー場も違う人と滑ると、そこをそんなスピードで行くんだ、飛ぶんだ、っていう感覚があるけど、それはMTBでもまったく一緒。
MTBは前を走ってると後ろが向けないから、先行く人の後ろについて、初めて走りが見れる。距離感の近さから、セッションをしてる感覚はスキー以上にある。

南浦:それはあるね。自分ができなかったり、思いつかなかったりする走りや動きを後ろで見せてもらうと、「おお!」ってテンション上がるね。

古瀬:スケートボードやサーフィンもセッション感があって面白いけど、たとえば森の中を走っている感じやオープンの斜面にでる感覚などはスキーやスノーボードとより近いかも。山のコンディションに左右されて、走っても毎回違うのは冬と同じ。

南浦:一様じゃないっていうのが良いよね。スケートボードは路面コンディションはほぼ変わらないし。カーブの曲がり方ひとつをとっても、どんな曲がり方があって、その時々のコンディンションによって合わせないといけない難しさも面白味のひとつ。

古瀬:雪質によって踏み方を変えるのと同じだよね。MTBも状況にマッチした動きをしないと転んじゃうし。

こんなところが養われる!?  冬に活きるMTB 

古瀬:スキーとMTBはとにかく似てる。ポジション、バランス、ローテーションなど軸を使った動作がほぼ同じ感覚。そういった運動的なこともそうだし、コンディションをずっと狙うという点も近い。
天気をみて、路面の土が乾くタイミングを待つといった行為も雪のコンディションを見極める観点からしても一緒。

一番思うのは目の動かし方が、スキーとまったく一緒かな。

南浦:そうだね。動き続ける視界をずっと見ているもんね。僕の周りでは最近滑っていて目が追いつかないっていう声も聞くけど、僕はそれはまったくない。

古瀬:土の上を走りながら、目を動かし、情報を得て対応する動きを瞬時にするって行為は日常的にはない動作。クルマがスキーと同じくらいのスピードだと思うけど、全然違う。とくにシーズンはじめに、目の働きが顕著に感じる。

南浦:MTBのほうがいろいろなところを見るから目をよく使っていると思う。細かい根っこが滑りやすくて危ないから、笑。
スノーボードなら壁を見つけてポンと飛ぶのは簡単にできるけど、MTBではすごく難しい。
MTBはペダルから足が離れるから、一体感を得るのが難しさにつながっていると思う。重さもあるし、コントロールするのは大変。
それに急斜面でスノーボードはトラバースでできるけど、MTBはうまくできない。デカい斜面を走りきるしかない。行くしかない。

古瀬:確かに、そういうときはフォールラインに体と自転車を向けるしかないもんね。

南浦:でも、あの瞬間がたまらないよ。斜面を下っているときはスノーボードと一緒。ブレーキをしてもすぐに止まれないとわかっていても、行かなきゃいけない。面白いよね。

新しいアクティビティをはじめる効能。年間を通して得られる好影響

古瀬:冬とは違って新鮮さというか、上達する面白さを改めて感じる。できなかったことができるようになる。そのシンプルなことがめちゃくちゃ面白い。やったことがないことに挑戦し、それを乗り越えるという感覚をMTBをきっかけに思い出した。

南浦:そうだね。最初の頃って伸びしろがどんどんあって楽しい。でも、できることが増えていくと、冬と同じでケガのリスクも高まるよね。
僕は以前、肩の靭帯を切って手術したりもして、冬にも影響があったこともある。冬以上に一発のケガの代償はデカい。

古瀬:転ぶと最低でも血は出るよね。それでも、僕は冬のためにやっているオフトレという気持ちは一切ない。まぁ、結果的には、これ以上ないオフトレだとは思っているけど……。

南浦:僕もスノーボードのオフトレとしてMTBに乗るという意識はないね。面白すぎて生活の一部になってる。山に雪が降り積もったらスノーボードをするし、なくなったらMTBで走る。ただ、それだけ。

古瀬:山を滑るか、走るか、っていう感覚の違い。トレーニングって捉えると、なんか違うな〜と思っちゃう。

自分が置かれている状況で、どうやって冬と同じような気持ちになれるか、気持ちよさが得られるかを探したほうが人生面白いと思う。

南浦:1年中忙しいよね、遊びで、笑。とくに春は両方できるし。
整備されたトレイルに連れて行ってもらううちに、スノーボードと一緒で新しいところを見てみたいという気持ちがむくむくと芽生えて、バックカントリーと同じように、里山を下調べをして、自転車を担いで山を登って走ったり。道のないところや崩落地形を見て、ラインをイメージして走るのは、バックカントリースノーボーディングと変わらない。

古瀬:俺はまだそういった未舗装トレイルは連れて行ってもらうのが主で、自分では開拓できていない。岩岳や富士見を走るのは冬でいえばスキー場を滑っているのと同じ。一方で未舗装トレイルを走るのはバックカントリーだなって。MTBを乗り始めた時に言われたけど、そういういことが最近になってやっとわかってきた。

南浦高志によるスノーボードとMTBのリンクイメージ。重力や遠心力、自らの力を使って1年中自然のなかで遊ぶ楽しさを伝えている

2人が走った、白馬岩岳MTB PARK

ゴンドラにMTBを載せて、山頂から麓までを走り抜けるコースが整備されている白馬岩岳MTB PARK。最大の魅力は標高約1300mの山頂から標高差521mを誇る3672mのダウンヒルコース。夏の白馬の山々が堪能できるオープンコースや、木々の間を抜ける森のコースなどロケーションが多彩でプロレベルから初心者までが楽しめる。古瀬、南浦の2人にも岩岳の魅力を聞いてみよう。

古瀬「岩岳の面白いところは流れるようなトレイル(フロートレイル)があるところです。バーム(コーナリングをしやすいようなめらかな傾斜をつけた部分)やバンクがいたるところにあって、スキーやスノーボードをやっている人なら、コーナーでパンピングを入れた動きがイメージしやすいと思います。
丁寧に整備されたバームはスケートボードでも走れるんじゃないかって思うほどきれい。そこをパンピングして行く楽しみができるのは岩岳ならでは。初めての人でもすごくとっつきやすいと思います。」

南浦「上手い人にとっては技の練習ができたり、動きをより覚えるっていうスキルを磨くのにちょうどいい。コースも長いし、うまく作られていると思います。アイデア次第でいろんなことができると思いますよ。あとはなんといっても白馬の最高なロケーションですよね。」

ダウンヒル体験ができるレンタルMTBプランもあり、週末になると全国から多くの人が足を運ぶ。
「MTBの聖地」と呼ばれるコースを雪がない時期に楽しんでみては。雪のないスキー場のコースを走り抜けるのは想像以上に気持ちいい体験だ。

コースを管理するディガーは白馬エリアを滑るスキーヤーやスノーボーダーが多いのも特色

■白馬岩岳MTB PARK

Photo=Go Ito
取材協力=白馬岩岳マウンテンリゾート