海や湖、川の遺跡や遺構など、水中に眠る過去の歴史を今に伝える調査メンバーを神戸大学が募集中。募集期間は4月1日(月)〜4月30日(火)で、瀬戸内海沿岸の11の府県および神戸市在住の方が対象となる。水中考古学の第一線で活躍する専門家たちの知見を得ながら、研究者の一員として水中遺跡を調査する貴重なチャンスだ。

プロジェクト概要

神戸大学大学院准教授の中田達也氏が代表となり始まった「神戸大学海洋文化遺産プロジェクト」は、海や湖、河川などの水域に残る過去の歴史を今に伝える「海洋文化遺産」を「水中考古学」という分野を基本として、市民を中心に専門家の意見を交えながら学際的研究を行うというもの。まだまだ一部の人にしか知られていない水中遺跡の知識や知見を、より多くの人々に広めていこうという思いから始まった。

本プロジェクトでは、調査メンバー60名を一般公募し、5名1チームで自身の居住するエリアに残る遺跡や伝承などを選び、調査し、その成果を発表する。月1回のオンライン会議と、季節ごとの地域での対面中間発表会を経て調査を進め、2025年8月に予定されているシンポジウムにて最終発表となる。また、プロジェクトの一環として、帆船「みらいへ」に乗船し、遣唐使がたどった航路を体験し、寄港地では当時の乗員が属したと思われる食事の体験ができる。乗船中には水中考古学者、歴史家、ダイバーなど海に関わる専門家の講話を受講でき、他地域のメンバーとの交流や他エリアの遺跡について共有できる機会も。

本プロジェクトメンバーの佐々木准教授による本栖湖(山梨県)の水中遺跡の調査の様子。今回のプロジェクトも海だけではなく河川や湖なども対象。本栖湖では湖底から縄文や古代の土器片などが確認されている

近年では潜水が難しい場所でも水中ドローンの登場により、調査がしやすくなっており、今回のプロジェクトでも水中調査などの際には使用されそうだ

プロジェクトの内容や参加の様子はメディアでも公開され、過程に関与した全ての人々による成果(=総合知)として記録し、成果がどう創出されたかを明らかにしていく。また、本プロジェクトは文部科学省に採択された総合知手法創出事業で、刊行される成果物にはメンバーは研究者として氏名が掲載される。

(広告の後にも続きます)

プロジェクトメンバー

水中写真家・戸村裕行氏からコメント

今回このプロジェクトには水中考古学をはじめ、法学や環境などさまざまな分野のスペシャリスト総勢11名がメンバーとして名を連ねる。その一人であり、水中の戦争遺跡などの撮影を続ける水中写真家・戸村裕行氏よりコメントをいただいた。

オーシャナをご覧の皆さま、水中写真家の戸村です。

昨年より準備を重ねてきましたが、今回は、4月1日より国立大学法人神戸大学大学院、海事科学研究科附属国際海事研究センターに所属し、リサーチフェローとしての役職を与えられ活動をすることになり、写真家として「海洋文化遺産プロジェクト」に携わることになりました。

このプロジェクトですが、「海や遺跡に興味のある方を公募」している市民参加型のプロジェクトになります。

皆さんは、「水中遺跡」と言われてすぐに何か思いつきますか?

日本で有名なものが、鎌倉時代の元寇船(蒙古襲来)、長崎の「鷹島海底遺跡」や和歌山県串本町のオスマン帝国(トルコ)の船・エルトゥールル号などがあります。しかし、オーシャナをご覧になっている多くのダイバーの皆さんは、歴史や遺跡に興味はある!だけど、あまり縁はない…というのが現実なのではないでしょうか。

日本において、周知の埋蔵文化財包蔵地(主に遺跡と呼ばれている)場所は46万ヶ所あるそうですが、その中でも水中遺跡と呼ばれるものは何と「387ヶ所」しかないそうです。(水中遺跡ハンドブック/文化庁より)

私もまだまだ勉強中ですが、海に囲まれた日本でそれだけしか知られていないことに驚きました。ちなみに、このプロジェクトでご一緒する水中考古学者の佐々木先生によると、海岸線延長約12,400kmのイギリスの水中遺跡は約2万あるそうで、(日本の方が30,000kmと広いのに…)いかに日本が少ないかが分かるかと思います。

そういった状況下において、改めて日本の水中遺跡を市民参加型として調べ、専門家の意見を聞きながらまとめ、発表することで周知に繋げるというのが今回お伝えする「海洋文化遺産プロジェクト」の概要になります。

実は、今回のプロジェクトでは、海や遺跡に興味がある方であれば、ダイバーである必要もありません。また、参加をした場合、ただ調べるだけなく、帆船に乗船しながら「遣唐使航路」を巡るという体験型のプログラムなども考えられています。今回は瀬戸内に隣接する自治体からの募集となりますが、今後は全国展開も検討されています。ぜひ、一緒に「海のタイムカプセル」水中遺跡を巡る旅に出ませんか?