消防士を辞める覚悟で挑むヒマラヤ未踏峰|フォトコン2023優秀賞・平塚 雄大さん

消防士を辞める覚悟で挑むヒマラヤ未踏峰|フォトコン2023優秀賞・平塚 雄大さん
YAMAPフォトコンテスト2023優秀賞を受賞した、埼玉県在住の平塚雄大(ひらつかゆうだい)さん。受賞作は、八方山ケルンに朝日が差す瞬間を押さえた一枚。登山者を導くケルンが、まるで光の道標のように輝いています。

自転車で日本一周をした旅が山との出会いだったという平塚さん。今年目指すのは、なんとヒマラヤの未踏峰。山との出会いから、ヒマラヤへの挑戦まで、自分自身と向き合い努力を続ける平塚さんの山人生についてお聞きしました。

山に朝が来る、その瞬間を切り取るために

優秀賞を受賞した作品。振り返ると、八方山(2,005m)ケルンに光が差し込んでいた

──受賞作はケルンに日が差す、まるで登山者を光に導くような幻想的な写真です。友達のカメラを借りて撮影したそうですね。

平塚雄大さん(以下、平塚):八方池でモルゲンロート(山々や雲が赤く染まる朝焼け)を見て、登り始めて1時間くらいたった頃でした。一緒に行ったのが女の子だったんで、この日はどちらかといえば風景を撮るというよりも人を撮ろうと思っていたんです。

自分が前を歩いて、時々振り返りながらその子を撮っていたんですけど、振り返ったら景色がすごいことになっていました。

自分のカメラには、70〜200ミリの望遠か、35ミリの単焦点どちらかのレンズを付けていて、撮りたい画角に収まらなかったんです。友達のカメラが標準ズームだったんで、とっさに借りて撮らせてもらいました。

夏山では一応カメラは持っていても、冬と比べたら撮る枚数は少なくなります。

──送っていただいた写真もほぼ冬山でした。夏はどうして撮らないんですか?

平塚:自分はあまり写真が上手くないと思っていて、みんなと同じ場所を歩いても個性が出せないと感じていたんです。夏は登山道上しか歩けないけど、冬は一般道以外も歩けるし、それなりの山になれば、カメラを持って行かない人も増えます。

そうすると、自分の写真がそこそこ希少な感じになるので、冬の方が枚数を撮りますね。

──長く1か所に留まって撮ることはしないと聞きました。

平塚:冬に写真を撮ることが多いのもあって、山で止まるのがあまり好きじゃないんです。冬に一人で登るときは、夜の23時とか24時くらいに登り出します。日の出が折り返しになるように登ることが多いです。

ピーク付近で日の出時刻になるように登るんですけど、途中で薄明るくなってきて、「ここ、めっちゃかっこよく撮れそうだな」って思っても、日の出の時間じゃなければ、止まらずに進みます。

雪がゆるむのも好きじゃないので、なるべく昼前に下りてくるような行程にしています。

──受賞作は、日の出の時間に合わせる平塚さんの登山スタイルが現れた写真なのだと思いました。

平塚:日が昇る時が一番、山で好きな瞬間なんです。寂しかったり、気温以上に寒く感じたりする夜が明けて、太陽が上がった瞬間に、気温はたいして変わらないのに安心するというか、元気が出る感覚があります。

奥穂高岳(3,190m)から槍穂高連峰を望む。インターバルで撮りまくった一枚

──写真を撮る時に気をつけていることや、こだわりはありますか?

平塚:特にこだわりはありません。水平に撮るとか、白飛びや黒潰れがないようにするとか、基本的なことだけ気をつけます。あるものを押さえられたらっていう気持ちで登っているので、ミクロな視点とかは撮れないですね。

──登山中に写真を撮る楽しみや、動画との違いはどこにあると思いますか?

平塚:いろんな人が撮ったいろんな視点の写真を見ると、「この山にこんな一面があったのか!」とか、「こんな場所あったっけ?」という山のいろんな側面を発見できます。

動画だと、「ここは自分が登った山だなー」と思いながら流して見るだけになると思うんですけど、写真は切り取るので、他の人の価値観を見る楽しみがあって面白いと思います。

剣沢にて、かなりテイク数を重ねて撮った一枚。そのまま走り抜けて落っこちそうになった

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山と出会った、日本一周自転車の旅

自転車で日本一周をした際に撮った写真とルートを、自分の部屋の壁に貼ったもの。このときから少しずつ山に登るようになった

──一眼レフで写真を撮り始めてどのくらいですか?

平塚:大学2年の時に、自転車で日本一周をした時からです。その時にカメラが欲しくなって、旅の途中で手に入れました。北海道の景色が素晴らしくて写真を撮りたくなったんです。山に登り始めたのも、その旅がきっかけです。

──写真歴と登山歴が同じなんですね。日本一周をしようと思ったきっかけを教えてください。

平塚:大学時代にトライアスロンをやっていて、ずっと自転車を練習してたんです。その勢いでチャリで回ってみようということになって、その時に北海道の旭岳(2,291m)ほか大雪山系の山々とか、利尻山(1,721m)、羊蹄山(1,898m)とか、登れる山には登ってました。

──日本一周をしていて、どうして山に目がいったのでしょうか。

平塚:山というか、きれいな景色が見られる場所とか、楽しそうな場所を全部回ろうと思ってネットで調べていると、山がたくさん出てきたので登ったという感じです。

──旅の中で印象に残っている山はありますか?

平塚:やっぱり北海道は印象的でしたね。礼文島とかは、標高300〜400mくらいの場所で高山植物が見られたし、標高2,000m級の場所でも、本州での3,000m級の山にいる感じがしました。

山との出会いもですが、人との出会いも印象的でした。旅の途中で食事をご馳走してくれた方から、「この恩は返さなくていいから、ほかの人に何かをしてあげて。自分もそうされたから」と言われて、その言葉がずっと心に残っていました。

「自分に何かできることはないか」と考えていたときに思いついたのが、今の消防士の仕事です。

山にハマるきっかけになったパタゴニアでの写真。チリのトーレス・デル・パイネ国立公園にて

──消防士だったんですね。平塚さんにぴったりですね。学生時代にパタゴニアにも行かれたんですよね。

平塚:日本一周したくらいから、「どこに行ってもどうにかなる」という感覚が芽生えて、それからフラフラとヒッチハイクをしたり、バックパッカーをしたりみたいなことをやっていました。

パタゴニアは大学を卒業する前に、1ヶ月かけて行きました。パイネ国立公園を3泊4日で歩いたんです。

それまで山でのテント泊は1回くらいしかしたことがなくて、食べ物が足りなくて餓死しそうになりました。食パン一斤だけ持って行って、味気ない食事をしながら絶景を見ていましたね。

──景色をご飯にされてたんですね。しかし、初の山中でのテント泊が南米とは驚きです。

平塚:その前に一度だけ、テント泊で常念岳(2,857m)に行ったんですけど、風が強すぎて1時間くらいでテントをたたみ、山小屋に避難しました。

1,000円くらいしか持っていなくて、「あとで振り込みます」とお願いをして、泊めてもらいました。行くまでに使う現金しか持ってなかったんです。

日帰りで行ったフィッツロイ(3,405m)。いつかまた登りたい憧れの山