2023年の秋、多くのニュースや新聞で見かけたツキノワグマ(以下、クマ)。ニュースで目にする多くは市街地などに出没したクマでした。
しかし、クマの本来の生息場所は森の中。そのため、クマが暮らす場所にお邪魔する登山者のなかには、他人事ではないと感じた人も多かったかもしれません。
森の中でクマを目にする機会はほとんどありません。しかし、クマの存在を身近に感じられるモノがあります。それは彼らのウンチです。ウンチから分かる食べものをヒントに生態を理解することで、思わぬ遭遇のリスクを下げられます。
ウンチからわかるクマの姿の一端について、クマをはじめ森の生き物について研究している東京農工大学大学院の小池伸介教授に紹介いただきました。
※本記事内では実際のフンの画像が出てきます。食事中などの際にはお気をつけください
クマのウンチを探れば、彼らの生活が見えてくる
クマの生体捕獲の様子(左は筆者)
クマの生態を知ることで、クマと人との事故をなくそう
私は東京農工大学で教員をしながら、森に棲む生き物の生態や生き物同士のつながりを研究しています。なかでも、研究対象の一つであるクマとは25年以上にわたる付き合いです。
これまでに拾ったクマのウンチは3,000個以上。麻酔処置後に発信機などを装着し、その場で放獣する学術目的の捕獲(生体捕獲)を延べ300頭近く行ってきました。
しかし、クマの生態にはまだ不明な部分が多いです。
クマと人との軋轢を減らし、お互いにとって不幸な事故を無くすための一番の対策は、私たちがクマの正しい姿を知り、それをもとに出遭わないようにすることです。
そのためには、クマの生態を一つ一つ解き明かしていくことが必要となります。
クマのウンチとの出遭いと、登山者に知ってほしい魅力
クマのウンチ。体のサイズ同様、他の動物のものと比べても大きい
森では、クマのさまざまなフィールドサイン(生活の痕跡)から、その存在を感じることができます。フィールドサインのなかでも、特にウンチは直近までその場所にクマが居たことを示す確実な証拠です。
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クマとほか動物のウンチの区別の仕方
シカやカモシカのウンチの形は粒々。これはカモシカのもの
山で間違いやすい別の動物のウンチ
森の中でウンチを見つけた場合、どのようにその落とし主を推定すればいいでしょうか。
カギは形と臭いです。
本州や四国の森に生息する野生動物の中で、クマは最も体が大きいです(成獣で40~100㎏)。体が大きいということはウンチも大きいです。
体重が人間とほぼ同じぐらいですから、人間のウンチのような大きさを想像するといいです。他の大型の野生動物のうち、シカやカモシカのウンチは粒々の形なのでまったく違います。
また、よくクマと間違われるのがタヌキのウンチです。タヌキはタメフンといって、特定の場所に繰り返しウンチをする習性があります。人間のトイレみたいなものです。
タヌキのタメフン
そのように、何回も同じ場所が使われて、ウンチの分解に時間がかかる季節のタメフンには、タヌキのウンチが山盛りになります。そのため、その大きさからクマのウンチのようにも見えます。
でもよく見ると、一つ一つのウンチの直径は小さいです。さらに、匂いをかいでみましょう。クマのウンチはほぼ無臭です。ところが、タヌキのウンチは動物園で嗅いだことのあるような臭いがします。
形と臭いをもってすれば、簡単にクマのウンチを見分けることができます。
森で見つけたら気を付けたい新しいウンチ
ある程度分解が進んだウンチ
ウンチの鮮度はどのように判別すればよいでしょうか。
いくつかのポイントがあります。一つは糞虫(ウンチを食べる昆虫、フンコロガシが代表格)の飛来の有無と分解の程度です。糞虫はウンチが排泄されると早いと数分で、どこからともなくウンチに飛来します。その後、ウンチを食べるためにバラバラに分解します。
もう一つが、ウンチの表面のテカテカ度と硬さです。
ウンチは、排泄後は空気に触れるので表面が乾燥し、固くなります。表面がテカテカしていればまだ湿っていて、排泄されてからそれほど時間が経っていないと判断できます。
勇気を振り絞って、指で直接触って湿度や硬さを感じるのもアリです。ただし、それはできないという人は、周囲に落ちている枝でウンチをつついてみましょう。スッとウンチの中に枝が刺さるようでしたら、新鮮なウンチといえるでしょう。