“本州で”九州新幹線「つばめ」に乗れる!? 1日1本のレア列車を体験 需要はあるのか?

新幹線「つばめ」といえば九州新幹線の各駅停車タイプで、ほとんどの列車が博多~熊本間を走ります。ところが下り1本だけ、山陽新幹線を、それも関門海峡を越えて本州を走るのです。どんな列車なのでしょうか。

新関門トンネルを通過

 山陽新幹線には、「下り1本のみ」というレア列車が存在します。どのような列車かというと、九州新幹線の各駅停車タイプ「つばめ」で本州を走るのです。

 そもそも博多以東の山陽新幹線内を走る「つばめ」は、熊本発小倉行きの「つばめ302号」と、新下関発熊本行きの「つばめ321号」のみですが、うち「つばめ321号」は関門海峡を越えるわけです。

 これに乗車すべく筆者(安藤昌季:乗りものライター)は2023年7月、新下関駅にやってきました。同駅は1975(昭和50)年に建築された駅舎で、国鉄の雰囲気が色濃く残ります。ホームから延びる非電化の回送線は新幹線保線基地(新山口新幹線保線区新下関管理室)につながっており、メンテナンスにおいて拠点的な機能を持つ駅でもあります。

「つばめ321号」は800系ではなく、JR九州仕様のN700系で運行。午前11時10分に新下関駅を出発します。11時前には九州新幹線仕様のN700系新幹線が入線しているので、車内を散策してみました。せっかくの直通列車ですが、自由席に30人程度、指定席には4人、半室グリーン車はゼロと、かなり空いています。

 新下関駅のホームからは、新関門トンネルが見えます。それほど近いので、列車は出発すると、すぐにトンネルに入ります。関門海峡を抜ける海底トンネルですが、通っている時は普通のトンネルと変わりません。車内チャイムは九州新幹線と同じものです。

 11時18分、小倉駅に到着します。40人ほどの乗客が乗車してきたので、山陽新幹線区間で70人ほどが乗っている計算です。博多駅で降りる人もいると思いますが、直通需要はあるようです。

 小倉駅を出発した「つばめ321号」は、博多駅まで18分かけて走ります。この区間最速の「のぞみ64号」は16分で走るので、最高速度は300km/h。「つばめ321号」はといえば、筆者がスマートフォンのアプリで計測した限りでは最高271km/hでした。

 11時36分、博多駅に到着。「つばめ」でありながらも乗務員は26分だけ乗務して、ちゃんとJR西日本からJR九州へと交代します。数え切れませんでしたが、同駅で70人は乗ってきました。

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なんと終点まで追い抜かれない

 博多駅からは九州新幹線の区間です。アプリで計測すると、新鳥栖駅までは130km/hで走る時間が長く、在来線特急のようです。全長11.8km、35パーミルの勾配がある筑紫トンネルに入るとアプリが停止しましたが、200km/h程度で走っているようです。

 11時50分、新鳥栖駅に到着。3人が乗車します。新鳥栖~久留米間は距離が5.7kmと近いため、最高速度は150km/h程度。京成スカイライナーのような速度感です。

 久留米駅には11時55分着。10人が乗車します。次の築後船小屋駅までは15.9km。新幹線としては短い距離ですが、最高速度は251km/hを記録し、さすがは加速性能に優れた全電動車、新幹線で最高出力を誇る九州新幹線N700系は違うなと感じます。

 12時2分、筑後船小屋駅に到着。ホームは閑散としており、2人が乗車しました。追い抜き可能駅ですが、「つばめ321号」は一度も抜かれずに進みます。

 次の新大牟田駅までは、11.8kmの距離。最高速度210km/hで走ります。山陽新幹線で最も駅間距離が近い新尾道~三原間が10.5km、東海道新幹線では熱海~三島間が15.9kmですから、各駅停車の九州新幹線は、かなりこまめに停車する印象があります。

 新大牟田駅12時8分着。あと2駅で終点ですが、5人乗ってきます。先頭車両の窓からホームにいる人数を数えているため、下車客は見えにくいですが、少なくとも1人が下車していきました。

 田園風景の中を新幹線は進み、最後の途中停車駅である新玉名には12時16分着。3人が乗車しました。

 そして12時25分、終点の熊本駅に到着。列車からは100人以上が降りていきました。乗車していたのは160人程度なので、大半の乗客が熊本駅まで利用したということになります。

 各駅停車タイプながら「つばめ321号」は、結局最後まで追い抜かれることはなく、速達性は十分に高い列車なのでしょう。1時間15分の旅は終わり、方向幕は「回送」となりましたが、N700系はお昼寝でもするように、しばらくそこに留まっていました。