車種によって左右バラバラに配置されている印象があるプッシュ式エンジンスタートスイッチですが、近年は多くの場合左側にあることが多いようです。その理由について探ります。
基本は「ドライバーの自然な操作」を重視
クルマのプッシュ式スタート(エンジン始動)スイッチは、ハンドルの左右どちらかの裏側付近にあることが多いですが、なかにはナビ画面のすぐ横にあったりと、メーカーや車種によって位置がまちまちです。
スタートスイッチの位置が統一される動きはあるのでしょうか。
ハンドル右の裏側にあるキーシリンダーにキーを差し、右手でひねってエンジンをかけていたかつての頃とは違い、昨今のクルマの多くがスタートスイッチのボタンを押すことでクルマを始動させます。
これはスマートキーの普及によるもので、微弱電波を放つキーを持ってさえいればクルマを始動させることができるため、大変便利になりました。
カギをひねる必要もないことから、力の弱い人でも簡単にクルマを始動させることができます。
スタートスイッチの位置は、普及初期にはかつてのキーの位置に合わせ右に配置されることが多かったようですが、現在多くの新型車で「ハンドルに向かって左側」が主流となっています。
左側に配置している理由について、以前に取材した日産の内装設計エンジニアは、次のように話します。
「クルマに乗り込み、左手でスタートスイッチを押してエンジンをかけたあと、左手でシフトレバーを操作してドライブレンジに入れ、(必要ならば)サイドブレーキを解除します。
この全ての操作を、左手のみでスムーズにできるようにすることで、発進までの時間短縮とストレス軽減をするよう設計されています」
日産以外のメーカーについても同様のようで、スタートスイッチは現在、左側へレイアウトするのがトレンドのようです。
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明確なポリシーをもとにレイアウトを決めていたケースも
しかしながら冒頭で触れたように、ダッシュボードの真ん中にある大型ディスプレイの横という、かなり目立つ高い位置にスタートスイッチが配置されているクルマもあります。
トヨタのミドルクラスミニバン「ノア」と「ヴォクシー」がまさにその位置です。
目立つ場所に、目立つカラーでスイッチが配置されているのは、デザイン的にはイマイチな気もしますが、この理由についてトヨタのエンジニアに取材したところ、以下のように説明してくれました。
「万が一、走行中に何らかの要因でクルマが暴走した場合、助手席側からでもすぐにエンジンをストップできるよう、車両中心側の目立つ位置に、スタートスイッチを必ず置くようにしています」
これは過去に海外で起きた、レクサス車の暴走事故訴訟の教訓から、社内ルール化したそうです。
この暴走事故とは、2009年8月に北米でハイウェイを走行中のクルマが、突如速度制御が不能となり、時速190キロまで暴走した結果、乗っていた4人全員が死亡したという痛ましい事故に関する訴訟です。
原因は、本来の使い方とは異なる、2枚重ねで敷かれたフロアマットの上側がズレて、アクセルペダルに引っかかったことでしたが、トヨタは遺族に10ミリオンドル(当時価格で10億円)もの和解金を支払っています。
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クルマの内装のレイアウトは、運転中の使用頻度が高いものや重要な装備のスイッチ類を、優先度をつけながらレイアウトされていきます。
スタートスイッチについても重要ではあるものの、運転中に頻繁に使用するスイッチとはいえないため、クルマによって位置がバラバラになりやすい傾向にあります。
ただしトヨタは、前出の通りスタートスイッチの位置を優先させているといい、今後のトヨタ車では「助手席からも手が届く、車両中心側の目立つ位置」となっていくようです。