巡航ミサイル「トマホーク」導入が意味するものは? その性能に見る日本の守りかた

「トマホーク」導入が持つ重大な意味とは

 日本が導入を検討している「トマホーク」のバージョンなどは、2022年11月上旬の現時点では不明ですが、いずれにせよ「トマホークを導入すること」の意味するところのものは非常に重大です。

 まず、トマホークの射程は約1600km超と、これまで自衛隊が保有してきたいかなる装備よりも圧倒的に長い射程を有しています。たとえば、現在自衛隊が保有している中で最長の射程距離を誇る「12式地対艦誘導弾」でさえ射程は約200km程度と見られており、冒頭で触れた射程延伸型であっても、その開発において目標とする射程は約1500km程度と報じられています。

 こうした射程の長い装備を運用するためには、敵の位置情報などを把握するための高度な情報収集能力が求められ、「トマホーク」の場合さらに、前述した特殊な誘導方式を用いるため、衛星がとらえた地理的な情報などを収集しておく必要があります。

 しかしそうした情報の収集は、日本単独で実行するのは非常に難しく、アメリカの協力が必要不可欠となります。また、たとえば日本が「トマホーク」を用いて中国にある軍事施設を攻撃する場合、その実施は日本単独ではなく、日米+αという形で、複数の国々との協調が前提になると考えられます。そのため、「どの国が、どの目標を、いつ、どうやって攻撃する」という点を各国と調整する必要があり、従って日本はこれまで以上にアメリカを含めた各国との密接な連携が必要となってくるのです。

 もうひとつの重要な意味として、こうした敵基地に対する攻撃を念頭に置いて「トマホーク」のような長射程の装備を急いで導入するということは、それだけ日本政府が台湾有事や朝鮮半島有事の発生する危険性を強く警戒していることのあらわれであるともいえるであろうことが挙げられます。

 このように「日本が『トマホーク』を導入すること」には、非常に大きな意味が含まれているのです。

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最大の問題は「何のために使うのか」

 ところで、「トマホーク」であれ、あるいは12式地対艦誘導弾能力向上型であれ、長射程巡航ミサイルを保有することに関しては、「それを何のために使うのか」という点が最大の問題となります。

 たとえば、中国が日本に対して軍事攻撃を仕掛けてきた場合を想定すると、単に「撃たれたので撃ち返す」という理屈ではなく、「どのようにして中国側の目的達成をくじくか」ということを念頭に置き、その上で「敵の航空基地や港湾施設を巡航ミサイルで攻撃することにより一時的にその機能を喪失させ、その隙に自衛隊や米軍の航空機や艦船を活動させる」といったような、「日本側の目的(=勝利)を達成するための手段としていかに巡航ミサイルを用いるべきか」という視点が必要になると、筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は考えます。

 つまり、本来どのような装備を導入するべきかについては、「こういう場合にはこういう勝ち方を目指す。そのためにこれが必要」という形で、まず目標を設定して、次に必要な装備を選ぶというのが、適切なプロセスだろうということです。

 昨今話題の巡航ミサイルを含めた敵基地反撃能力に関しても、日本がどのような勝ち方を目指しているのかが注目されます。