LESSON 2  ピント合わせのコツ~どこに合わせたいかを考えよう~

上出氏の写真展で作品を見ていて、被写体の生物と視線が合うというか、なんだかこちらを見ているような不思議な感覚があった。そして、その目はどれも美しく、シャープにピントが合っている。10㎜以下の超マクロ生物たちの目にピントを合わせる…。これはとても難しいことのように感じたのだが、何かコツはあるのだろうか。

上出氏

当たり前のことではありますが、写真家としてピントが合っていない写真は使いたくありません。「ピントを合わせようという気持ち、合うまで撮る」ということが結構大事だったりします。フォトセミナーをやることも多いのですが、水中撮影中に参加者の方に「もう諦めちゃうのか。まだピント合ってないだろう!?」と思ってしまうことがあります。どれだけこだわれるか。これはけっこう大きいですよ。

ほほう…。気持ちや気合いは確かに大事だ。ではテクニックとしては、何か特別なものは?

上出氏

基本、僕はオートフォーカスで撮っています。ただSMC-1、SMC-2といったクローズアップレンズを使用する際は、マニュアルフォーカスを積極的に使っています。これらのクローズアップレンズは、ちょっと後ピン(※)になりやすいので、これを調整するためにマニュアルフォーカスを使っています。

ただクローズアップレンズを使う場合でも動きの速い魚などは、オートフォーカスで撮ります。この場合は、ちょっと手前にピントを合わせる必要があり、極端な言い方になりますが、口に合わせるくらいにすると、目に合わせられます。

※焦点が被写体より後方にずれてぼけていること

【作例2】

沖縄県 名護市 水深12m f20 1/250秒 ISO200 (SMC-2使用)

上出氏

【作例2】はSMC-2を使用しています。拡大率がより高いSMC-2を使用するときは、ピント合わせもシビアになるので、この写真はマニュアルフォーカスで撮影しています。

SMC-1、SMC-2はNauticam(ノーティカム)のスーパーマクロコンバージョンレンズで、上出氏が「超マクロ撮影の秘密兵器」と信頼を寄せる機材だ。どちらも水中撮影専用の設計がされていて、SMC-1の撮影倍率は最短距撮影時で2.3倍、SMC-2は4倍もの大きさに撮ることが可能だ。またSMC-2は高倍率撮影ならではの美しいボケ味が出ることから、上出氏の独特な表現に欠かせないものとなっている。

【作例3】

和歌山県 みなべ町 水深15m f11 1/250秒 ISO64 (SMC-1使用)

上出氏

【作例3】のようなエビやウミウシなどは、目以外のポイントがないので、マニュアルフォーカスで撮影するのが基本です。このエビも、後ピンにならないように手前にピントを合わせることを意識して撮影しました。

生物のどこにピントを合わせるのか。はっきりいって、そこまでしっかり考えて水中撮影をしているアマチュアダイバーはあまり多くないかもしれない。しかし上出氏の作品が力強く、こちらの目を引く大きな要因は「生物の目にピントが合っている」ことにほかならない。ぜひピントを目に合わせることを意識して、撮影してみよう。

ところで最近のデジタルカメラは、オートフォーカスをはじめさまざまな高性能な機能が搭載されている。

上出氏

「瞳AF機能」を搭載しているカメラの中には、人間だけでなく魚の目にピントをオートで合わせられる機種もあります。自分のカメラにどんな機能が搭載されているかを知ることで、よりピント合わせをはじめ撮影方法がちゃんとわかるはずです。自分のカメラにどんな機能があるかを、まずはしっかり理解することが撮影上達には欠かせません。

あとデジカメのいいところは、水中で撮影した直後にモニター画面を見て、どんな写真が撮れているのかを確認できること。確認しなかったら、僕は撮影を終わりにしていいかわかりません(笑)。それがわからない限り、動けない。確認しない人を見ていると「どうして確認しないのか」って思います。拡大してみて、自分が合わせたい場所にピントが合っていなかったら、合うように調整して撮り直す。妥協しないで何度もトライしているうちに、思ったような写真が撮れるようになってきます。

撮影のシチュエーションによっては、後ろに次のダイバーが待っていて、確認して撮り直すことができないこともある。しかし、撮り直しできる状況であれば、こだわりを持ってトライすることが大事だろう。

上出氏

あとこれも基本中の基本ですが、撮影時は自分の体勢とカメラの持ち方をしっかり決めて、身体を固定することが大事です。手をつくとしたら場所はそこでいいのか? 少し場所を変えたら、カメラを構える位置がより良くなるかもしれない。身体の使い方によって違ってくるので、なんとなく撮り始めるのではなくて、ひと呼吸置いてその位置でいいかを確認してから撮影するようにしましょう。

あとこれは覚えておいていただきたいのですが、たとえカメラが少し動いてしまっても、ストロボを使っている限り手ブレはしません。ただ自分がピントを合わせたいと思っているところがずれてしまう。だから位置をきちんと決めて撮ることが大事なんです。

水中写真の上達には「最終的に自分のカメラを、自らの手のように使いこなせるようになることが大事」と上出氏はいう。自分のカメラの機能を、マニュアルを読んで復習してみることから始めてみよう。なお海という自然の中で楽しむ水中写真では、撮影中に手をつく場合は岩場など、海の生き物に影響を与えない場所を選ぶことも忘れないようにしたい。

▼上出流 10㎜以下の被写体のピント合わせのコツ

基本的にはオートフォーカスを活用
クローズアップレンズを使う際は、マニュアルフォーカスも積極的に使用
自分の撮影機材の特性を知っておこう
どこにピントを合わせるかをよく考える
撮影したらすぐにモニター画面を拡大して確認
最終的には「合わせる」という気持ちと気合いが肝心

なお後編では「上出流・きれいでかわいいマクロ写真の秘訣」というテーマで、背景の選び方やかわいい表情を撮るコツなどをお届けするので、お楽しみに!

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上出俊作氏の撮影機材を紹介

それでは最後に、上出氏の撮影機材をお見せしよう。こだわりのポイントも伺ったので参考にしていただきたい。

☆マクロ撮影機材

カメラ:Nikon D850
レンズ:AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-ED
ハウジング:Nauticam NA D850
ストロボ:Z-330×2灯
ライト:RGBlue  SYSTEM01:re SUPER-NATURAL COLOR

撮影時の光源は、ストロボ2灯、ライトはターゲットライトとして、またはアクセントにバックライトとして使ったりしています。RGBlueのライトは演色性が高い(色の見え方が自然光で見たときに近い)ので、オートフォーカスでのピント合わせに力を発揮してくれます。あと先にも紹介していますが、クローズアップレンズのNauticam SMC-1とSMC-2は超マクロ撮影には必須アイテムです。

ハウジングのポート部分にSMC-2を装着したところ