「急に電気が消える電車」が関門トンネルに残るワケ 他で消えなくなった理由

山陽本線の「関門トンネル」区間では、電車の電気が突然消える現象が当たり前のように発生します。全国的に存在する交流電化と直流電化の転換ポイント「デッドセクション」を通過するためですが、電気が消える電車は、ここならではのものとなってきています。

電気が消えるデッドセクション

 本州の下関(山口県)と九州の門司(福岡県)を結ぶ海底トンネルとして有名な山陽本線の「関門トンネル」。この区間を電車で走行すると、突然、車内の電気が消え、また点灯します。この体験、実は“関門トンネルならでは”になりつつあるのです。

 関門トンネルは1942(昭和17)年に開通して以降、日本の物流のメインルートとして重用されてきました。かつては寝台特急「あさかぜ」や「さくら」「はやぶさ」「富士」など東京・大阪と九州方面を結ぶ長距離列車が数多く運行されており、客車に揺られて関門トンネルを通った経験がある人も多いのではないでしょうか。その中には、下関駅や門司駅で機関車の付け替えを眺めたという思い出を持っている方もいるかと思います。

 山陽本線の関門地区は、本州と九州の文字通りの境界というだけでなく、直流と交流、すなわち鉄道の電化方式の境目でもあります。JR西日本の下関駅構内とJR九州が管理する関門トンネルは直流区間(直流1500ボルト)、JR九州の門司駅構内からは交流区間(交流2万ボルト60ヘルツ)という形になっています。このため、交流と直流の機関車の付け替えが行われていたのです。

 今や関門トンネルを通る定期旅客列車は、下関発着の普通列車のみとなり、往時のような活気はなくなりましたが、国鉄型の415系電車に乗ったまま、“交直切り替え”を体験できる貴重な路線といえます。

 交直のエリアを分ける、架線に電気が流れない「デッドセクション」が門司駅構内の本州側(下関寄り)に設置されており、その区間を走る列車は電気の供給を受けず惰性で通り抜けます。そのため関門トンネルを通る列車に乗ると、門司駅付近で車内の照明がしばらく消え、交直セクションを通過していることがわかるわけです。なお、交直切り替えのテストのため、下関駅および門司駅でも車内の電気が消えることがあります。

(広告の後にも続きます)

他では見られなくなった「電気が消える」

 門司駅から関門トンネルの入り口の方を見ると「交直転換」と書かれた標識や、紅白の架線死区間標識を確認できます。駅の先端にも「直注意」「ここで転換」と乗務員への注意を促す表示が掲げられています。

 ところで「交流」と「直流」の切り替えが行われる路線は、常磐線の取手~藤代間や七尾線の中津幡~津幡など各地に存在しますが、それらはE531系や521系といったJR化後に製造された新しい車両が使われており、デッドセクションの通過時に電車が消灯することは基本的になくなっているのです。

 一方、関門区間で使用されている415系は、国鉄時代の1971(昭和46)年に製造が始まった交直両用の近郊型電車。古い設計ということもあって、デッドセクションを通って交直切り替えを行う時は編成全体が停電状態となります。筆者が2022年6月25日に乗車したFo111編成のように、1978(昭和53)年に製造された40年選手も活躍中です。

 415系は老朽化が進んでいることから、九州の交流区間では821系の導入に伴って、廃車も発生していますが、JR九州が保有する唯一の交直両用電車でもあるため、関門海峡においては両岸を結ぶ大事な役割を担っています。新型の交直両用電車の話も今のところはなく、すぐに全車が引退するという情勢ではありません。しばらくは走行中の電車の照明が消える日常を見ることができそうです。

 なお首都圏では、たとえばJR・東武の直通列車が両社の境となる栗橋駅で電気が消えますが、これは直流と直流のデッドセクションです。