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草彅剛、演技を“学ばない”ことの意味を語る 「そのときじゃなくて後に出るもの」

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草彅:マジでそんな感じなんです(笑)。でも、「馬子にも衣装」じゃないけど、衣装とかメイクで役に入れたのは本当で、京都まで来て、一流の職人さん、照明さん、技術さんがいる中、花粉とか痒いとか……そんなの言っていられないし、負けていられないじゃないですか。そういうことを思うちっぽけな自分が情けなくなってきたんです。顔を触るとメイクさんにも迷惑をかけちゃうから、“耐えてやる!”って。そういうのが、逆に役作りになって、だんだん格之進が自分に入ってきたんですよね。鏡を見ていると、“あー。なんか見たことない顔になっているな”と思いました。

ーー撮影に臨むにあたって、時代劇と現代劇では、心の持ちようは変わるものなのでしょうか?

草彅:僕はあまり変わらないかな。じつは、お庚役の小泉今日子さんを見て思ったことがあって。キョンキョンにも直接言ったんですけど、格之進としてお庚さんと初めて会話するときの演技が、いい意味で時代劇っぽくなかったんです。 さっき言ったことと矛盾しちゃうかもしれないんですけど、ああいう格好をしちゃうと、“時代劇”って感じでやろうとしちゃう自分がいて。「(声色を変えながら)○○でござる」みたいな(笑)。でも、キョンキョンを見てたら、そうじゃなくていいと思ったんです。長台詞を話すキョンキョンが、めちゃめちゃ魅力的に見えました。自然だし、“え? 小泉さんじゃん”みたいな。そこに時代劇っぽさがまったくなくて、むしろ超リアル。“キョンキョン、カッコいい!”と思ったんですよね。ちょっと(演技的に)時代劇っぽくなりそうだったけど、キョンキョンを見てからは、“時代劇に寄ろうとするのはやめよう”って。そんな感じでやりましたね。

ーー確かに当時は“時代劇っぽく生活しよう”なんて人はいなかったでしょうし。

草彅:まさしくね。だからキョンキョンがヒントをくれて、そのヒントに気づいた僕が偉い。僕って賢いんですよ。めっちゃ賢いの(笑)!

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ーー芝居をする相手から汲み取って、自分の演技に昇華する賢さですね(笑)。

草彅:そうそう。“キョンキョン、カッコいいな”とか、“斎藤工(柴田兵庫役)くんはこうやるんだ”とか、そうやって、一緒にやりながら役を作っていきました。

ーー綺麗に囲碁を打つシーンも印象的でした。練習はかなり積まれたんですか?

草彅:碁石を打つのが一番難しかったですね。先生がいて、すごく一生懸命教えてくれるのはいいんですけど、そんなに集中力が続かないんですよ。

ーー(笑)。

草彅:“本番でどうにかなるんじゃないかな”と思って、あまり練習はしなかったんですけど、現場に入ったら僕のスタンドインの子がいて、その子の碁石を打つ感じがめちゃめちゃ上手いの! それを見たときに、“やべえ。僕もちゃんと練習しないと!”と思って、何回も練習しました。そうやって練習をしていると、囲碁を打つときの格之進の想いが見えてきたんです。「静」で動かない世界なんですけど、“國村隼(萬屋源兵衛役)さんと碁をするシーンって、心理的にめちゃくちゃ戦っているんだな”とか、いろいろ考えられるようになったから、練習して良かったなと思います。

ーー白石和彌監督とは初めてでしたが、対峙してみていかがですか?

草彅:監督は現場を進めるのがすごく上手くて、穏やかで、頭が良くて……。 安心した気持ちで楽しみながらできましたね。『孤狼の血』とか、(香取)慎吾ちゃんとやった『凪待ち』とか他にもたくさん監督の作品を観ているし、ある意味ファンなんですよ。慎吾ちゃんから話も聞いていたし、年齢も同じだから、親近感もあって。初めてだったけど、初めてお会いしたような感じじゃなかった。役についてすごくディスカッションしたわけじゃないんですけど、それ以前に、もっと根底的な“心”が近い感じがあって、リラックスしてできましたね。

ーー年齢が同じだと通じるところもあるというか。

草彅:好きなものとか、着てる服のこととか、役のことよりも、そうした趣味の話で結構盛り上がりました。監督が着てるモールスキンのジャケットがめっちゃカッコよくて! 僕、アメリカのビンテージが好きなんですけど、それ以来、フレンチワーク(ジャケット)にもハマっちゃいました。

ーー年齢を重ねる中で、清原さんや中川大志(弥吉役)さんのような年下の俳優さんとご一緒する機会も増えたと思います。おふたりと演技してみて、何か感じることはありますか?

草彅:刺激をもらえますよね。若い方からもらうものがすごく多いんですよ。みんな吸収力が高くて、いつも感心させられる。今回、清原さんが娘役なんですけど、役的にも格之進のお母さんみたいなところもあるから、すごく母性に溢れていて……。年は離れていますけど、格之進として甘えてしまうというか。身を委ねてお芝居できたんですよね。中川くんにしても、言わずもがなすごくイケメンなんですけど、それだけじゃなくて、彼の心の中にある、溢れ出てくる情熱を感じました。映画の軸になるひとりだから、そこに懸けるパッションや、彼の魂みたいなものを感じて。自分で言うのもなんですけど、素敵に演じることができました。

ーー年齢を重ねると、どうしても自分がこれまでやってきたものを崩したくなくなるものです。草彅さんの中には、いつまでも学ぶ精神がおありなんですね。

草彅:いや、学ばないっすよ。何も学ぶことはなくて、ただ刺激があって「楽しい」で終わっちゃう。学ぶとか勉強っていう感覚もないんですよ。でも皆さん頭が良いから「今回勉強になりました」とか言ってくれるんですけど、“本当に勉強になったー?”って思う(笑)。今回も、桜が咲いていないころに京都入りして、桜が散ったころに終わって、めちゃめちゃいい思い出。若い子もそうだし、(先輩俳優の)國村さんからも、市村正親(長兵衛役)さんからも刺激をいただいたし、そこで自分の気持ちを最大限に燃やせたって感じ。でも、学ぶことって、そのときじゃなくて、後になって出てくるものじゃないのかなって思うんだよね……あれ、僕良いこと言うよね?

ーーちょうど感動していました(笑)。

草彅:自分で自分に感動しちゃった! これ、いいね。皆さんと真剣にぶつかり合ったことによって、自分の中で息づいたり、芽生えたりするものがあるから、今回の撮影も、もしかしたら“学ぶもの”がたくさんあったのかもしれない。多分、それが分かるのは次の作品なのかなと思います。

ーー格之進の囲碁のように、草彅さんも愛すべきものが多いと思います。例えば、ジーンズや古着は、囲碁のように掘っても掘っても魅力が増すものなんですか? 

草彅:これは、5時間ぐらい喋っちゃう! もう沼ですよね。知れば知るほど、興味が出てくるんですよ。同じ生地なのに日光を浴びた量が違うし、洗濯した回数も違うし、前のオーナーの履き方で全然答えが変わるから、本当に楽しい。この年になって、今がまた一番古着が好きかもしれない! 散々見てきて、今が一番好きって最高でしょ?

ーーまたさらに好きになるって素敵ですね。

草彅:今は、昔と違ってSNSで世界中のものが見られるようになっているじゃないですか。テクノロジーが発達している分、“これはチェックしておいた方がいいな”とか、“これはもう出てこないものだろう”とか考えられて、改めて深いなと思います。撮影中も格之進がいた時代と繋がっているな、と思っていたんですよ。僕の好きな古いものと、格之進が生きた時代のものとで、“どこか共通点があるんじゃないか”とか、“古いものの中にはやっぱり輝きがあるな”とか、そんなことも思いながら演じていましたね。
(文=浜瀬将樹)

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