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『裸のランチ』に『バカルー・バンザイ』まで数々の難解な役をこなしてきたレジェンド俳優ピーター・ウェラーが大阪コミコンのステージで演技の真髄を語る

TOKYO HEADLINE

 ポップ・カルチャーイベントの『大阪コミコン』が、2回目の開催となる今年、5月3日から5日の3日間で前回を上回る6万1828人を動員した。そんな盛況のイベントのなかで、一際異彩を放った存在がいる。それは2018年の東京コミコン参加から6年を経て来日を果たした俳優のピーター・ウェラーだ。御年76歳。

 大阪コミコン最終日。ほかの来日セレブと同様、ステージイベント(ファンからの質問に答えるトークイベント)に登壇したウェラー。姿を現すや否や「わたしは、茶!」と日本語で叫ぶと、MCの杉山すぴ豊から着席を促されても頑なに「座らん!」と貫く。そして届けられた緑茶をそのまま一気飲みすると、豪快にペットボトルを放り投げる。さらに杉山が持参していたロボコップの面を拝借し「Dead or alive, you’re coming with me!」と、ロボコップの名台詞のひとつを口にし「これは日本以外では言わないセリフだ!」と叫び、会場が大歓声に包まれる。その後、直立のまま「さあ、質問は?」と杉山へ促しはじめ……。こうして終始ウェラー節をひたすら炸裂させるステージになるのだが、キャリアでもっとも象徴的な役であるロボコップだけではない、カルト映画史を牽引しながら、超有名テレビドラマにも出演してきたリビング・レジェンドならではの、貴重なエピソードを紹介していきたい。

愛の映画なのか? あるいはどんな映画かを語ることは不可能なのか。カルト映画を紐解く

 まず参照される映画は『バカルー・バンザイの8次元ギャラクシー』だ。そのタイトルが出るや否や、ウェラーは「説明しようじゃないか! これが何の作品なのかは、さっぱり分からんのだ!(共演者の)クリストファー・ロイドも知らないし、ジョン・リスゴーも分からない。ジェフ・ゴールドブラムも分からないんだ。みんなこの映画が何なのかさっぱり分からない。いまだにみんなで“これは一体何なんだ?”というありさまでこの映画がどんなものなのかは全く分からない」。この身も蓋もない回答自体は、恐らくこの映画を見て知っている聴衆たちにとっては満足だったことだろう。そうして、ひと笑いをとって終わるかとも思われたが、ウェラーは周囲の映画人らの言葉を引用し、自分たちも分からないと称するものがいかに解釈されてきたかを、教えてくれる。

「(『メジャーリーグ』などで知られる)デニス・ヘイスバートという素晴らしい俳優がいるのだが、彼はこの映画が好きだと言う。だから10年前に一緒にゴルフを回ったときにデニスに“バカルーってのは、一体どういう映画なんだ?”と尋ねてみた。すると彼はこう言ったのだ。“ピーター、あなたたちは、愛についての映画を作ったのですよ”。それから、今から12年前のことだ。フィルム・アット・リンカーンセンターでの回顧上映にあたってジョン・リスゴーとともにタキシードで参加したんだ。タキシードは日本語で何と言うのだ? そうか、タキシードか。もちろん我々だけではなく、みんながそうやって正装してあの場に現れた。ところが、よりによってケヴィン・スミスという奴は……、みんなあの男を知っているかな? ケヴィンときたらいつものホッケー・ジャージ姿(*)でやってきた。そしてその姿で20分にわたって語った内容の要旨はこうだ。“これはアドベンチャーでありアドベンチャーでない。SFでありSFでない。コメディーでありコメディーでない。そのすべてをひっくるめた映画なのであり、これがどんな映画かを語ることはできない”とね」

(*)ケヴィン・スミス監督は“FAT MAN”と書かれたホッケー・ジャージを着ている姿で親しまれてきたが病に倒れて以降は激痩せしその印象は変わり「ジャージ卒業か」というニュースが出たほどだ。

バロウズの描いた主人公を演じることは、バロウズ自身を自分なりに解釈すること

 続いて話題は、ビートニクの最高傑作とされるウィリアム・バロウズの長編小説をデヴィッド・クローネンバーグが映画化した『裸のランチ』へ。この作品の主人公をいかに演じたかを尋ねられるとウェラーは「とてもいい質問だ」と答えると「この映画の原作小説は、20世紀に書かれた英米文学の中でもトップ10に入る革新的で創造的な小説、とされている。この小説は、何が正しくて、何が間違っているのか、そういう倫理や道徳についてのファンタジーだ。つまり社会とは、適切な温度感がなければいかに退廃し、どれほど狂っていってしまうのか。否定的な意味ではないのだが、マンガやアニメ、カートゥーンといった方法でしか映像化するのは本来的には不可能なものなのだ。つまり何百万、何千万ドルを必要とするほどのファンタジーだから。クローネンバーグが、そこでやってのけたことは、いかなる経緯でこの小説が書かれたかという、作家の歩みを描くことだ。この小説に至る旅路というものを。俺にとってウィリアム・バロウズは友人でもあり、ヒーローでもあって、よくつるんだもんだ。彼の人生のストーリーも読んでいる、基本的に自分自身が取り組んだアプローチであり、それをできたと自負していることでもあるのは、小説ではなくウィリアム・バロウズを解釈するということだ。執筆するプロセスであって、俳人だろうが、三島由紀夫だろうが、チャールズ・ディケンズであろうが、そしてウィリアム・バロウズであっても、ファンタジーを描く前にまず自分自身で、そこを通らなければいけない、自分で調べて。だから主人公のウィリアム・リーをどう演じたか、それは著者を理解するところにあった」。

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 さらに話は、テレビドラマ『24 -TWENTY FOUR-』の悪徳刑事役クリストファー・ヘンダーソンについて。この役はロボコップのような正義の警官とは対照的なヴィラン(悪役)だったが、どのような気持ちで演じたのかと問われると、俳優ならではの見解を聞くことができた。「ヴィランだと? 何を言っているんだ、彼は愛国者でヒーローじゃないか。これはどの役を演じるときも同様で、そもそも自分の演じる役に善悪の線を引いたりしない。それは見る側が判断することだ。なぜなら演じる自分はその人間になりきろうとしているのだから、その人間の行動原理としては“正しい”と思ってやっていることに寄り添うのだ。そしてこの役に関して言えば、愛国心で彼を表現することができるだろう。彼自身は、米国を防衛しているという正しい意識で行動している『スター・トレック イントゥ・ダークネス』で、マーカス提督は、カーンは悪者だから話してはいけないと言う。マーカス提督はその点で愛国者なのだ。自分はそういうふうに演じている。キャラクターがどのような立場をとっているのか、見ている側にとって正しいか間違っているかにかかわらず、自分の演じるキャラクター自身は正しいことをしているつもりで、正しい行いをしている。そういう人間を演じているのだ」。

 そして最後に『ロボコップ』の特殊メイクがいかに大変であったかという鉄板ネタのようなエピソードが披露されるのだが、このとき初めて彼はステージに用意されていた椅子に着席する。つまり、ウェラーは顔のメイクのために6時間40分もずっと座りっぱなしだったことが、アクションシーンよりもしんどかったというこのエピソードをトークのオチとして語るまでずっと立っていたわけだ。なんと見事なウェラー劇場だろう。そして最後にこんな撮影秘話を披露してステージを締めくくった。「朝から撮影をするために自分が深夜3時からずっとメイクをしてスタンバっている間に撮影クルーたちは酒を飲みに行って酔っ払って帰ってきて“よう、ピーター、調子はどうだ?”と声をかけてくる。それに対して“仕事してるよ”と答えると“そうか、頑張って! じゃあねまた明日!”と言って帰っていくんだ」。

 5日に閉幕した大阪コミコンの閉幕イベントであるグランドフィナーレで、今年も12月6日(金)〜8日(日)の3日間に渡り東京コミコンが開催されることが発表されている。

 
   

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