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【京都新聞杯回顧】“意外性の一族”ジューンテイクが手にしたダービー行きの切符 勝利を手繰り寄せた藤岡佑介騎手の姿勢

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【京都新聞杯回顧】“意外性の一族”ジューンテイクが手にしたダービー行きの切符 勝利を手繰り寄せた藤岡佑介騎手の姿勢(C)SPAIA

意外性を秘める一族

2024年5月4日に京都競馬場で開催された京都新聞杯はGⅠ4着があるジューンテイクが最内を突いて重賞初制覇。一族が内包する精神力の強さと意外性が引き寄せた勝利だった。

ダービー出走枠に滑り込めるラストチャンスをものにしたジューンテイクは父キズナ、母アドマイヤサブリナ、母の父シンボリクリスエスという血統構成。母は現役時代、芝の短距離で活躍し、JRA3勝をあげた。3勝目が中京の芝1200m(重馬場)で1分11秒8だったように速い時計より少しかかった方がよく、父シンボリクリスエスが内包するロベルトの力を感じる馬だった。

母の母ツィンクルヴェールの仔はJRAダート4勝アドマイヤビクター、エアカミュゼなどダートを主戦とする馬が多く、トーセンヴェールは2019年NARグランプリ3歳最優秀牝馬トーセンガーネットを出した。

ジューンテイクの兄は今年の中山グランドジャンプでイロゴトシの2着だったジューンベロシティ(障害重賞2勝)で、姉は昨年のフィリーズレビュー3着ジューンオレンジと、母と同じく短距離でもタフな流れに強い。スタミナ血統であり、障害やダートで強みとなる精神力の強さが目立つ。

この一族の起点となるのは、1994年桜花賞で12番人気ながら2着に粘ったツィンクルブライド。粘りと心の強さはこの影響が大きそうだ。その直系、ツィンクルヴェールの弟には2~3歳時に重賞2勝をあげ、5歳時には高松宮記念で13番人気2着に入ったペールギュントがいる。早期から走り、長く活躍できる馬主孝行な一族でもある。

キズナとアドマイヤサブリナの間に生まれたジューンテイクには、一族のタフさにキズナの堅実さが加わっている。また、なかなか2~3歳時にすんなり勝てず、最終トライアルでダービー出走にたどり着いたあたり、父キズナや母の父シンボリクリスエスを感じる。父はダービーを勝ち、祖父は青葉賞からダービー2着。最後の最後に辻褄をあわせるかのようにクラシックに行き着いたジューンテイクも、ダービーで意外性を秘める一頭だ。


鞍上と手が合った一発に賭ける姿勢

全体的に短距離やダートでの強さを秘める一族だけに、ジューンテイクが京都新聞杯を勝ったのは少々意外な気もする。8番人気だったので、その評価は外れてはいないだろう。そんな意外性もツィンクルブライドの一族ならでは。ペールギュントもアドマイヤサブリナも人気薄での激走が多く、穴党を歓喜させてくれる馬だった。

それにしても、高速決着が目立つ京都の中距離戦での激走には驚かされる。シンボリクリスエスやキズナといった血が重なった成果だろう。キズナは2013年、キャリア6戦目でこのレースを勝った。弥生賞5着後、皐月賞からダービーに目標を切りかえ、毎日杯から3連勝でダービー馬に輝いた。すみれS2着、若葉S5着のジューンテイクに通じるものがある。

このレースは前半1000m通過1分00秒3と馬場を考えるとスローだった。後半1000m58秒2で、後半800mは11秒8-11秒2-11秒3-11秒3の上がり勝負。軽さを求められるレースで勝利したことは、一族にとっても大きい。好位のインでじっとし、徹底的にインにこだわった藤岡佑介騎手の戦略が当たった。

見事に抜け出したので賞賛されるが、詰まっていたらアウト。一発に賭ける胆力が勝利を引き寄せたといえる。伏兵としての姿勢が鞍上にも馬にも備わっていた。父は1番人気での勝利だったが、ツィンクルブライド一族のジューンテイクは伏兵としてひと泡吹かせるかもしれない。


2着もキズナ産駒ウエストナウ

スローを演出したのは2着ウエストナウ。最初の直線でなにかに驚いたのかいきなり外へ逃避してしまい、先行勢に迷惑をかけてしまったが、その後は落ち着いてペース配分できた。

3コーナーの丘の手前で12秒7-12秒6と息を入れられたことが、最後の粘りにつながった。キャリア2戦目で逃げてレース上がり33秒8を演出し、自身も34秒0で残った。これだけ走れれば将来性は高い。

こちらも父キズナで、産駒の進化を感じる。管理するのはキズナを管理していた佐々木晶三調教師。ウエストナウとダービーに進みたかったことだろう。

3着ヴェローチェエラは流れに泣いた。スタートが合わず、後方から進めざるを得ないなか、前が先に仕掛ける勝負所で少し待った分、いいコースを通ることができた。

流れが遅いからと4コーナーで先に動き、外を回った馬たちは前に離されてしまったことを考えると、競馬のリズムは悪くなかった。重賞でも流れに乗れるようになれば前進はある。



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

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