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MVP受賞は「チームとして受け取ったもの」。キャプテン藤田譲瑠チマの言葉で読み解く大岩Jの成長【U-23アジア杯】

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MVP受賞は「チームとして受け取ったもの」。キャプテン藤田譲瑠チマの言葉で読み解く大岩Jの成長【U-23アジア杯】(C)SOCCER DIGEST Web
 トロフィーを掲げた背番号8は、とびっきりの笑顔で仲間たちと喜びを分かち合った。そこに緊張や重圧から解放された雰囲気は微塵もない。安堵感とも違う。ただただ最高の瞬間に酔いしれた。

 5月3日に行なわれたU-23アジアカップの決勝。日本はウズベキスタンを1-0でくだし、4大会ぶり2度目の優勝を飾った。

 誰かひとりのおかげでアジアの頂点に立ったわけではない。23人の選手だけでなく、スタッフも含めて全員の力で勝ち取った勲章だが、“キャプテン・藤田譲瑠チマ(シント=トロイデン)”の存在なくして、覇権奪回は成し得なかっただろう。

 2年前の2022年3月に立ち上がったパリ五輪世代のチームにおいて、発足当初からリーダー役に指名されていたのが藤田だった。大岩剛監督は明確にキャプテンを指名せず、試合毎に決めるスタイルを採用。それでも藤田は先発起用されれば、ほとんどのゲームで腕章を巻いていた。

 16強入りした2019年のU-17ワールドカップも経験しており、メンバーの中で国際舞台での経験値は高い。中止となった21年のU-20ワールドカップでも出場していればキャプテンを務めていたはずで、物事を冷静に見る視点や、誰に対しても意見を言える性格は、まさにリーダータイプだ。

 21年の東京五輪では事前合宿にトレーニングパートナーとして参加し、DF中山雄太(ハダースフィールド)やDF板倉滉(ボルシアMG)らが本音で議論しながらチームがまとまっていく様子を間近に見ていた。貴重な時間を共有できた点も含めて、パリ五輪世代で最もキャプテンに相応しい人材だったからこそリーダー役を任された。
 
「本気でサッカーの話をできる選手が少ない」と嘆いた時期もあったが、創意工夫をしながらチームをまとめ上げてきた。

 正式にキャプテンに指名された今回のU-23アジア杯では、先達の助言をしっかりと聞き入れた。開催地カタールでプレーする日本代表のCB谷口彰悟(アル・ラーヤン)が開幕前にチームの激励に訪れ、その際に選手間ミーティングの重要性を説き、藤田もこれを実施する。

 グループステージ(GS)最終節で韓国に0-1で敗れたタイミングで開催し、チームの心をひとつにさせた。要所でリーダーシップを発揮するなど、その振る舞いはまさに頼れるキャプテンだった。

 自身のパフォーマンスもずば抜けており、GS第2節のUAE戦を除く5試合でピッチに立ち、そのうち4試合にフル出場。準々決勝のカタール戦(4-2)は120分を戦ったが、以降も疲労を感じさせないプレーで攻守のリンクマンとして奮闘する。

 準決勝のイラク戦(2-0)では、鮮やかなフィードと正確なワンタッチパスで2アシストをマーク。決勝のウズベキスタン戦でも劣勢を強いられるなかで、中盤の底でピンチの芽を潰しながら、攻撃の起点となって勝利に貢献。山田楓喜の決勝点も、藤田の鋭い縦パスが起点となった。

 質の高いパフォーマンスを示し続けた男は、大会MVPに輝く。決勝後のセレモニーでその名が読み上げられると、チームメイトから手荒い祝福を受けた。

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 ただ、藤田は優勝もMVP受賞も、自分の力ではないと感じている。優勝という結果自体には「率直に嬉しいでいっぱい」と笑顔を見せたが、自身の話になると冷静に言葉を紡いだ。

「MVPなんですけど、これはチームとして受け取ったもの。自分だけが受賞したと思わずに、チームのみんなに感謝したい」

 確かにリーダーシップは発揮したかもしれない。だが、周りに支えられていたという想いが強いからこそ、仲間に対する想いが言葉になって表われた。それは次のコメントからも読み取れる。

「(キャプテンとして)本当に何もやっていなくて、選手ミーティングをやるというのも、谷口彰悟君からもらった案ですし、2回目の選手ミーティングも(内野)貴史がみんなでやろうって言ってくれてやっただけ。なので、自分からというのは本当になくて、自分はただプレーで見せたり、プレーで引っ張ることをしただけだと思います」

 逆に言えば、藤田が言わずとも周りがリーダーシップを持って戦ってくれたという証でもある。副キャプテンのひとりである内野は、出場機会が少ないなかでも腐らずにやり続け、ベンチで盛り上げ役を担いながら、意見を出し合う場を設けるためにも動いた。

 残る3人の副将であるMF山本理仁(シント=トロイデン)やMF松木玖生(FC東京)も積極的にチームに関与。GS初戦の中国戦(1-0)で退場となったDF西尾隆矢(C大阪)は、3試合の出場停止処分となったが、裏方の仕事を率先して行ない、ウェアなどの洗濯物をスタッフと一緒に畳むなど、自分ができることに懸命に取り組んだ。
 
 リーダーグループ以外の選手も自発的に行動した。最年少で口数が少ないDF高井幸大(川崎)も自ら声を出し、チームメイトに発破をかける姿が見られるようになった。そうした振る舞いがあったことで、藤田は動く必要がなくなり、どっしりと構えていることができたのだろう。

 大岩監督は常々、「全員がリーダーになってほしい」と言っていたが、まさに今大会中のチームは誰もがキャプテンという認識で行動をしていた。

 藤田はMVPを受賞したが、あくまでもチームで掴んだ栄誉。仲間たちの成長なくしてMVPは掴めなかった。

 2年の時を経て、強く逞しくなったチームは、最終目的地であるパリへ向かう。「自分自身もクラブで苦しい時期を過ごすなかでも呼んでもらった期間があったので感謝したいですし、本当にチームが良くなったなという気持ちがある。このままレベルアップをしてオリンピックに向かっていければいい」とは藤田の言葉。

 熾烈なメンバー争いに再び身を投じるが、藤田は最高の仲間たちとともに、さらに良いチームを作り上げ、本大会への準備を進めていく。

取材・文●松尾祐希(サッカーライター)

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