top_line

「エンタメウィーク」サービス終了のお知らせ

準備を怠らなかったからこそ掴んだベンチ入り。早坂勇希の姿に見た川崎GKとしての矜持と心温まるシーン

SOCCER DIGEST Web

準備を怠らなかったからこそ掴んだベンチ入り。早坂勇希の姿に見た川崎GKとしての矜持と心温まるシーン(C)SOCCER DIGEST Web
[J1第11節]川崎 3-1 浦和/5月3日/Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu

 トレーニングでの姿を知っているからこそグッとくるものがあった。

 J1の11節、川崎がホームで浦和を下し、6試合ぶりの勝利を掴んだ一戦、試合終了間際に家長昭博がダメ押しの3点目を決めた瞬間、喜びの輪とは別の場所で、そっとチームのために動く男がいた。

 この日、第2GKとしてベンチ入りを果たした早坂勇希である。

 川崎アカデミー出身で、桐蔭横浜大を経て、2022年に川崎に加入。ただGKは試合のメンバー入りへ基本的に2枠しかない特別なポジションである。プロ3年目、新型コロナウイルスの影響もあってベンチメンバーが揃わなかった2022年の23節の浦和戦で、フィールドメンバーとしても用意した場面を除き、早坂はリーグ戦ではなかなかベンチ入りを果たせずにいた。

 それでも前節の広島戦(△2-2)のウォーミングアップ中に腰を痛めたチョン・ソンリョンが今節も欠場。広島戦に続いて上福元直人がファインセーブを連発したなかで、第2GKに指名されたのが早坂であった。

「一回目は白いユニホーム(浦和戦のフィールドプレーヤーのセカンドユニホーム)でJリーグのベンチ入りでした。ただ、ACLで経験(ベンチ入り)していましたし、ホームでこれだけ多くの方が入ったのは初めてでしたし、独特な雰囲気ではありましたが、声援が本当に背中を押してくれました。だからこそ自分にできること、声がけだったり、終盤のできる限りのことを一つひとつやるだけだったので、そういう意味では今日はすごく良い一日だっと思います」

“自分にできること”。それが冒頭のシーンなどであり、3点目の直前からを足を気にしていた同期のDF佐々木旭(流通経済大出身)に声をかけ続け、ゴールが決まった瞬間にはそっと近づき、檄を飛ばしたのである。

「僕の立場からすれば、ベンチから声をかけることしかできないと言いますか、できる限りのことはそれしかないと思ったので、旭が足に違和感を感じたというか、足を攣っていたのかもしれないですが、そこは感じていたので、そこへのコーチングだったり、旭が水を取りに来た時に、もう(時間が)ないから気持ちで乗り越えろと。

 そのひと言で旭がどれだけ頑張れたか分かりませんが、そのひと言で変われれば良いなという気持ちで、得点の喜びもありつつ、もうちょっだから頑張れと。旭は最後まで闘う姿勢を見せてくれていたので、声をかけられて良かったなと思います」

【動画】川崎・佐々木旭の圧巻のミドル&家長昭博のダメ押し弾
 
 その姿はまさに彼の真骨頂である。トレーニングに真摯に取り組み、選手寮ではまとめ役として、仲間たちと会話をかわす。記者陣とのコミュニケーションも実に誠実で、まさに好青年である。

 もっとも、彼がこれほどチームのために働くことができ、準備を怠らずにいられるのは、チョン・ソンリョン、上福元直人、そしてアカデミーの先輩でもある安藤駿介の背中があってこそでもある。今回のベンチ入りに関してもこう胸を張った。

「常に100パーセントでトレーニングをしていますし、いつ、どんな、スクランブルが起きても準備はできているので、今回はソンリョンさんが前節、腰の痛みが出ていたので、ひとり(メンバーが)変わるだろうなと思っていましたし、カミくん(上福元)がああやって素晴らしいパフォーマンスを前節してくれたので、何があっても良いように準備をしていました。ここは安藤さんだろうが、自分だろうが、良い準備はできているので、そこはキーパーチームとして、トモさん(石野智顕GKコーチ)含め、全員が良い準備をできています」

 この日は3点目のシーンだけでなく、佐々木が勝ち越し弾を決めた際には、早坂のもとにいち早く抱き着きに走った姿も印象的で、試合後には、桐蔭横浜大出身の4人(早坂、山田新、橘田健人、山内日向汰)でサポーターの前に立てたことも、微笑ましい光景であった。

「近年、桐蔭の選手がフロンターレに多く入ってきているので、自分だけが(メンバーに)入れなかった悔しい想いは常にしていました。ミキさん(山根視来/現ロサンゼルスギャラクシー)がいた時に、揃いたかったという想いも正直ありますが、こうやって揃うことができたのは、桐蔭にも良いニュースだと思いますし、ここからは自分がどう変えるか。メンバー入りではなくスタメンで出場して90分間やれたら一番良いですし、満足せず、全員でピッチの上で勝利を掴めるようにやっていきたいです」

 改めてレギュラー枠がひとつしかないGKは特別なポジションである。それでもチームワークを大切にし、いつくるか分からないチャンスに備えて準備をし続ける。その大切さを早坂の姿から感じ取ることができたゲームであり、彼のさらなる成長に期待したくなる場面の連続でもあった。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

【記事】「また観たいかっていうと観たくない」小野伸二、“ファンタジスタが消えた”現代サッカーに本音。中村俊輔の「生きにくくなった」に同調

【PHOTO】ゲームを華やかに彩るJクラブ“チアリーダー”を一挙紹介!

【記事】「俺はもうサッカーは一切見ない」中田英寿が指摘する現代フットボールの問題点「分かっていない人が多い」
 
 
   

ランキング(スポーツ)

ジャンル