まず法改定。高齢女性の犯罪の圧倒的多数は万引きである。以前の法律では窃盗には懲役刑しかなかった。だから万引きで懲役にするには、かわいそうだからと始末書で終わることが多かった。
ところが法改定で罰金刑が導入され、起訴される人が増えた。罰金刑を受けると前科になる。2度目にやると必ず起訴され、懲役になる人も増える。
つまり、万引きする高齢女性は昔からいたが、法制度が変わったので刑務所に入る人が増えたのだ。73歳の女性が1984円の日用品を万引きして裁判を受け、次に95円のおにぎりを万引きして刑務所に入ったという実例が出てくる。「罪は罪。法律に書いてあるんだから従うしかない」という意見もあるだろう。
だが、パーティー券のキックバックを裏金にして警察からも税務署からもおとがめなしの政治家がいる一方、95円のおにぎりで刑務所に入れられるのは、なんか釈然としませんね。
《「腐敗する『法の番人』警察、検察、法務省、裁判所の正義を問う」鮎川潤・著/1078円(平凡社新書)》
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永江朗(ながえ・あきら):書評家・コラムニスト 58年、北海道生まれ。洋書輸入販売会社に勤務したのち、「宝島」などの編集者・ライターを経て93年よりライターに専念。「ダ・ヴィンチ」をはじめ、多くのメディアで連載中。