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多様性と不適切さの狭間で…観る者の感情を揺さぶる世界で“唯一無二”のプロレスWWE【清野茂樹アナ連載#14】

ABEMA TIMES

 昨年10月、SNSの総フォロワー数が世界で10億人を超えるアメリカが誇る世界最高峰のスポーツエンターテイメントであるWWEのメイン大会RAWとSMACKDOWNの放送が日本で開始された。さらに今年1月27日(日本時間28日)に行われたロイヤルランブル以降は、放送席の陣容を一新。自他ともに認める“WWEウォッチャー”の清野茂樹アナウンサーらが加わった。そんな清野アナが、自らの実況回ごとにWWEの魅力や楽しみ方を振り返る連載コラム。第13回目のキーワードは「多様性と不適切の狭間で」。やや前時代的な表現をコミカルにまとめ上げてファンの感情を揺さぶるエンターテイメントとして昇華させてしまうWWEの演出の凄さ。

【映像】まるで「昭和の体育会系」を思わせるまさかの出来事

■「体育会に居た嫌な顧問のようだ…」思わず呟いた。どこか感情を揺さぶる懐かしくも失われた風景

いきなりドラマの話から始めますが、今年の3月までTBSテレビで放送されていた『不適切にもほどがある!』を毎週楽しみに見ていました。脚本は宮藤官九郎さん。阿部サダヲさん演じる昭和の体育教師が令和にタイムスリップして、コンプライアンスやハラスメントの概念に戸惑う姿に共感した人は多かったのではないでしょうか。

誰もが尊重される多様性社会であるべき、というのがドラマに込められたメッセージですが、視聴者からのクレームを怖がって自主規制に走るテレビの姿も皮肉的に描かれていました。いわゆる昭和の価値観というものは今のテレビからは消えつつある中で、実は海の向こうのWWEにはヒール(悪玉)の言動や振る舞いとして残っていたりもします。

前回のRAWから具体的に3つの例を挙げましょう。まず、スーツ姿で登場したチャド・ゲーブルが同じアルファアカデミーのメンバー3人をリングに立たせたシーン。マイクで「哀れな野郎」「ノータリン」「一番の失敗作」などと罵ったうえで、自分に忠誠を強要する姿はまるで昭和の体育会そのもの。「わかったか?声が小さい!」と詰め寄るのを見て「ああ、こんな感じの嫌な顧問の先生いたよな…」と思わずにいられませんでした。

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次に、ドリュー・マッキンタイアがシェイマスに対してマイクで「赤髪野郎」「ブヨブヨ野郎」と言い放ったシーン。世界ヘビー級王者としてわずか5分天下におわった自らの失態を指摘されたのを受けての発言で、「オレじゃなくて裏でみんなが言っていることだ」と断りを入れてはいたものの、容姿を揶揄した挑発はけっこう昭和感あります。

そしてもうひとつが、突如起こったインペリムの仲間割れのシーン。役に立たない者は味方であっても、斬り捨てる。パートナーに制裁を加えた後のルドヴィック・カイザーが「言われた通りやってやりました」と親分であるグンターに報告する様子は、深作欣二監督の名作『仁義なき戦い』に重なりました。絶対的な主従関係から生まれるリンチ行為も前時代的。そもそも、今では「リンチ」自体が死語ですが。

まあ、こうした表現の是非はさておき、現地のファンを熱狂させている様子は画面からも伝わります。昭和的な価値観をヒールに背負わせ、ベビーフェイス(善玉)が倒す。時代にそぐわない表現を単に排除して解決ではなく、きちんとエンターテインメントとして成立させる。そこまでやるからこそ、WWEは世界最大のプロレス団体に成り上がったとも言えます。多様性に対する意識も高く、女子レスラーを「ディーヴァ」から男子と同じく「スーパースター」と呼ぶようになったのもその一環です。

もちろん、アメリカの放送にもコンプライアンスの考えはあって、WWEの番組も影響を受けています。日本よりも細かい表現規制がありながらも、ここ最近は再び過激さを取り戻す動きもあります。理由は明かされていませんが、親会社の取締役に就任したザ・ロック自らが放送禁止用語を連発しているのを見ると、会社の体制が変わったことも影響しているのかもしれません。

テレビは面白ければ何をやってもいい、という時代はとっくに終わりました。ルールの範疇でどこまで視聴者の目を惹きつけられるか。不適切な表現も混ぜながら、エンターテインメントに落とし込み、観る者の感情を揺さぶるWWEには、きっと宮藤官九郎さんみたいな有能な人材がたくさんいるのでしょう。世界で“唯一無二”のプロレス団体の力はテレビでまだまだ発揮されそうな気がします。 

文/清野茂樹
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