◆時代の荒波に揉まれる祭り
14世紀に「当然」だったものが、長い年月を経ると「差別」になってしまったりもする。そんな今、この祭りに対する風当たりはどんどん強くなっている。
第1の理由は先にも述べた「地元エリート」の閉鎖性だ。ツンフト構成員2人の紹介があれば新規入会も可能だと聞くが、基本的にはチューリヒのツンフトの子息たちに代々受け継がれ、外国人は稀だ。その「特権意識」を嫌って脱会を望む新世代も少なくない。
第2の理由は男女差別だ。男性しか構成員になれない規則を緩めたツンフトも昨年ようやく現れ、今年は2つ目のツンフトも歩みを合わせた(2月7日付ノイエ・ツルヒャー紙)。しかし、まだまだ男性と同じ権利を得るまでには時間がかかりそうだ。
第3の理由は人種差別的仮装だ。「黒人」や「アラブ人」が登場する歴史を持つツンフトは、濃い肌色にメイクするのだが、それが人種差別の歴史を肯定するものとして批判されている(2023年4月21日付スイス国営放送)。
© Zürich Tourismus
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そんな流れのなかで、史上初めて燃やされなかったベーグは、今年初めてゲスト州となったアッペンツェル・アウサーローデン準州に運ばれ、夏が来る前に燃やされる事が決まった(4月16日付ブリック誌)。チューリヒ観光局によると、6月22日という日程も決定したという。アッペンツェル・アウサーローデン準州は女性が参政権を獲得したのが1990年という驚きの場所であり、不思議な偶然だ。男性社会であるツンフト祭りの象徴的ベーグが、いまだに男性優位が残ると言われるアッペンツェルに逃げていくようで、皮肉な今年のセクセロイテンとなったのだった。
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在外ジャーナリスト協会会員 中東生取材
※本記事は在外ジャーナリスト協会の協力により作成しています。