学校という小さな世界でもがく少年たちの機微を描いた、淡色の青春群像劇。※本記事は、美山よしの氏の小説『ぼくらの風船』(幻冬舎ルネッサンス)より、一部抜粋・編集したものです。
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お父さんの手紙
おてがみありがとう。お父さんも、毎日大阪で仕事をがんばっています。
まことも、アンサンブルのれん習をがんばっているのですね。つづけて三つも合かくをもらえて、えらかったですね。「ウィーンのおどり」がどういう曲かお父さんは知りませんが、タイトルを見ても、なんだかすごくむずかしそうな曲ですね。
でも、むずかしいことにちょうせんしてがんばることは、とても大切なことだとお父さんは思います。何回も何回もまちがえて、そうして、上手になっていくものだと思います。
だからまこと、まちがえることは、はずかしいことではありません。人のしっぱいをわらうことのほうが、ずっとずっとはずかしいことです。
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だいちゃんにわらわれて、くやしかっただろうと、お父さんも、とてもくやしいです。どうしたらやめてもらえるのか、と、まことは聞いてきましたね。でもだいちゃんがどんな子なのか、お父さんは知らないので、お父さんにもわかりません。
だいちゃんだけじゃなく、他の子も、みんなそうです。人のこうどうを変えさせるということは、実は、とても大変なことなんです。だから、その思いを、自分に向けてほしいとお父さんは思っています。自分を変えることは、自分にしかできません。でも、人を変えさせることよりも、ずっといみのある大切なことだと思います。
まことがみんなの前に出てきんちょうするようになったのは、きっと、だいちゃんにわらわれて、少しだけじしんをなくしてしまったからなのかもしれないですね。
みんなの前に出て発表するとき、手に「人」という字をかいて、のみこんでみてください。そうすると、きんちょうしなくなる、おまじないです。
先生に発表するときはこのおまじないをしてから、ゆっくりといきをはいて、リラックスして発表してください。だいじょうぶ、そうしたら、きっとうまくふけます。
もしも、まちがえてしまっても、どうどうとしていてください。さいしょからなんでもできる人なんて、どこにもいません。だから、わらわれても、気にしてはいけません。