top_line

あなたの語彙力が試される!
無料ゲーム「ワードパズル」で遊ぼう

『グリム組曲』ダークな世界観と風刺が見事に融合 “観る童話”として蘇らせた意欲作に

Real Sound

Netflixシリーズ『グリム組曲』

 シンデレラは本当にいじめられていたのだろうか。もし狼が食べようとした赤ずきんが普通の少女ではなかったら? ヘンゼルとグレーテルが見つけたのが、お菓子の家ではなかったとしたら……。彼や彼女たちの運命は、どうなるのだろうか。

参考:『グリム組曲』制作秘話を鈴木達央&Pが語る 「今のWIT STUDIOがわかる」

 Netflixオリジナルアニメ『グリム組曲』は、こうした問いかけを通して、私たちが当たり前だと思っていた童話の世界を覆す。本作は、「シンデレラ」「赤ずきん」「ヘンゼルとグレーテル」「小人の靴屋」「ブレーメンの音楽隊」「ハーメルンの笛吹き」といった誰もが知る『グリム童話』を、大胆にダークな解釈を加えたアンソロジーだ。

 ここで、少し本家の『グリム童話』について触れておきたい。『グリム童話』というと、グリム兄弟が書いた童話だと思われがちだが、実はそうではない。ヤーコプ・グリムとヴィルヘルム・グリムの通称“グリム兄弟”は、民話や昔話に興味を持ち、口伝えで集めた童話を編纂した人物だ。彼らの編纂した童話集が後に『グリム童話』と呼ばれるようになる……つまり、グリム兄弟は童話の創作者ではなく、収集者だったのである。1812年に初版第1刊の『子どもと家庭のメルヒェン集』が刊行され、1815年に第2巻が刊行されている。

 アニメ『グリム組曲』では、まずプロローグでグリム兄弟の物語が描かれる。まさに「童話の入り口」を彷彿させるような優しいタッチで、国中からメルヘン(童話)を収集し、それを編纂して本にしている兄弟・ヤコブとヴィルヘルム、末っ子のシャルロッテが登場するのだ。ちなみに本家のグリム兄弟は9人兄妹だったが、当時は幼い頃に命を落とす子どももいたことから通例は6人とされており、女児は第8子シャルロッテのみだったという。こうした細かい設定も抜かりない。

広告の後にも続きます

 『グリム組曲』の興味深いところは、各話の監督が異なるという点だ。SF色の強い橋口淳一郎監督の「ヘンゼルとグレーテル」や、大正ロマンの雰囲気に溢れた金森陽子監督の「シンデレラ」など、舞台設定すらも監督によってそれぞれ異なる。これは、『グリム童話』をどう料理するかという監督の個性が反映された結果だと言えるだろう。まさに、元からある物語を集めて、新しい解釈で編集するというアプローチは、グリム兄弟がやってきたことと似ているようにすら思える。

 作中では、モーツァルトやグリーグなどのクラシック音楽がアレンジされて使用されており、その劇伴は一聴するとポップで楽しげな印象を与える。しかし、その曲の明るさこそが、登場人物が後に「痛い目に遭いそう」という不安を巧みに煽るのだ。この効果的な音楽の使い方は、音楽監督である宮川彬良のこだわりの賜物だ。収録時には本編映像に合わせて生演奏が行われ、1話の収録に、丸々1日かかったそうだ。(※)

 一方、ビジュアル面では、『カードキャプターさくら』や『×××HOLiC』などで知られる創作集団「CLAMP」がキャラクター原案を担当しており、その独特の美学が光る。中でも、「ブレーメンの音楽隊」に登場するロバや、「赤ずきん」のスカーレットのデザインには、CLAMPならではの洗練されたタッチが感じられる。また、CLAMPが得意とするメガネキャラ枠として、ヴィルヘルムの存在感も抜群だ。

 しかし、ダークな世界観とオムニバス形式という設定は、これだけこだわりの要素が詰め込まれているだけに、一見するとニッチで閉鎖的な印象を与えかねない(一方で、“刺さる”ファンもいることは間違いない)。だが、アニメーション制作を手がけるのは、『バブル』『SPY×FAMILY』『王様ランキング』など独自の表現技法で数多くのヒット作を生み出してきたWIT STUDIOである。彼らの手腕によって、『グリム組曲』のやや閉じてしまいがちなイメージにつながりかねない設定が、『ブラック・ミラー』や『世にも奇妙な物語』(フジテレビ系)を彷彿とさせる、絶妙な後味の悪さで昇華されている点も見事だ。

 監督陣の個性、音楽と画のこだわり、CLAMPとWIT STUDIOのコラボレーションが生み出す、ダークでスリリングな童話の世界。それは、私たちが知っているグリム童話とは一線を画す、新しい童話の体験を約束してくれる。『グリム組曲』はダークファンタジーやグリム童話ファンのみならず、意欲作を求める目の肥えたアニメファンにとっても、最高のコレクションになること間違いない。

 各話に散りばめられた象徴やメタファーが巧みに映し出しているのは、現代社会の問題や人間の普遍的な欲望、葛藤だ。残酷で後味の悪い物語の背後には、時に私たち自身の姿が透けて見える。そんなグリム兄弟が編纂した物語集が、現代に“観る童話”として蘇る瞬間を目撃できるかもしれない。

  • 1
  • 2
 
   

ランキング(映画)

ジャンル