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松たか子、長澤まさみらが原爆投下時の一家族を演じた、「ドラマ特別企画 広島・昭和20年8月6日」

HOMINIS

昭和20年8月6日。日本の歴史を語る時、この日は絶対に避けて通ることができない。広島に原爆が投下され、甚大な被害をもたらしたこの日を題材としたドラマが2005年に放送された「ドラマ特別企画 広島・昭和20年8月6日」である。TBS開局50周年記念企画「涙そうそうプロジェクト」として制作された。脚本は広島県育ちのヒットメーカー、遊川和彦が担当。演出は「半沢直樹」や「VIVANT」で知られる福澤克雄が手掛けている。

本作は、明日の平和を信じて懸命に生きた4人姉弟の7月16日から8月6日までの20日間を描いている。物語の冒頭、ひとりの老紳士(西田敏行)が、広島市の平和記念公園にて修学旅行生を相手に原爆を語っている。「それ、教科書で習ったよ」と気のない素振りの学生を見て、紳士は「では、教科書に載っていない話をしよう」と、ある平凡な家族の逸話を語り始めて…。という趣向で戦時中に戻って話が進んでいく。

昭和20年7月・広島。父が戦死し、母も病気で亡くした矢島家には4人の姉弟がいた。両親が遺した小さな旅館を守りながら、3人の姉弟を育てるのは長女・志のぶ(松たか子)。次女の信子(加藤あい)は、小学校の代用教員をしている。学徒動員の工場で懸命に働くのはセーラー服に身を包む三女・真希(長澤まさみ)。三姉妹はお互いの性格や考え方があまり好きになれず、ぶつかってばかりだ。そんな折、末弟の長男・年明(冨浦智嗣)に召集令状が届く。年明は学校で教師や級友にいじめられていたが、姉たちがけんかしたら必ず仲裁に入っていた。そんな心優しい少年は、姉たちに余計な心配をかけまいと、恐怖心を隠して笑顔で出征していくが…。

原爆投下を描いた作品は、文学作品や映画、漫画、アニメなど数多いが、本作は市井に生きる平凡な三姉妹を主人公に、戦争と原爆の恐ろしさを淡々と描き出す。松、加藤、長澤の3人が、それぞれ悩みを抱えながらも、戦時下の時代において懸命に生きる姿が健気で美しい。戦争の恐怖に怯えながらも、明日への希望を捨てず懸命に生きる彼女たちと、時々記録映像と共に、原爆投下への準備を着々と進める場面が恐怖をあおる。

撮影においては、緑山スタジオのオープンスペースに忠実に再現された、原爆が投下される前の原爆ドーム(産業奨励館)や広島の町並みのセットがリアリティ抜群だ。真希が勤労奉仕先の工場で教官から差別されている朝鮮人の美花と心を通わせる場面、信子が教え子たちを不憫に思い、無断で海岸へ連れ出して軍法違反の罪で逮捕されてしまうなど、戦時下ゆえの理不尽さを描き、涙を誘う場面が多い。

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何よりも、原爆が投下されることがわかっている視聴者には、姉妹たちが健気に明るく生きようとする姿がたまらない。物語の終盤は涙なしに見ることはできないだろう。

西田敏行演じる冒頭の老紳士は、クライマックスで再び現代に戻って再登場する。

「…この話の続きは、本当はしたくない。しかい、あの日のことを話さないわけにはいかないのだ…」と言って、再び場面は原爆投下の当時に戻るのだ。

ささやかな幸せをつかもうとしていた三姉妹の人生は、悲劇的な結末を迎えることになる。物語こそフィクションだが、数十万人の人々が突然人生を奪われたことは紛れもない事実だ。世界史の中で度々繰り返された戦争は、常に多くの人命を奪い、人々を不幸のどん底に陥れてきたが、原爆によって命を奪われたのは、広島と長崎の人々だけである。

世界唯一の被爆国の国民として見逃すことのできない歴史の真実を生き生きと描き出している秀作、「広島・昭和20年8月6日」は初回放送から20年近く経っているが、折しも原爆開発を主導した科学者の半生を描いた映画「オッペンハイマー」が公開されたばかり。同作には描かれていない広島の悲劇や、そんな時代の一家族を演じた、松、加藤、長澤の演技にも注目してもらいたい。

文=渡辺敏樹

放送情報【スカパー!】

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