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「ドイツは負けるべくして負けた」日本の急成長を実感する広島のスキッベ監督が、両国を冷静に客観視「世界トップに引けを取らない」とリスペクトも

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「ドイツは負けるべくして負けた」日本の急成長を実感する広島のスキッベ監督が、両国を冷静に客観視「世界トップに引けを取らない」とリスペクトも(C)SOCCER DIGEST Web
 サンフレッチェ広島を率いるミヒャエル・スキッベ監督が、選手育成に情熱を燃やしていることは前回も触れたが、その原点は指導者としての情熱に満ち溢れていた20~30代の経験が大きいのだろう。

 現役時代はシャルケで将来を嘱望されていたFWだった彼は、膝の怪我によって22歳という若さで選手生活に区切りをつけ、指導者に転身することになった。最初に指導したのはシャルケのユースカテゴリー。そこからドルトムントではユース、セカンドチーム、トップチームで指揮を執っている。

「私が初来日したのは95~96年。ドルトムントユースにいた頃でした。もう30年近く前になるんですね」と本人も懐かしさを覚えている様子だった。

 スキッベ監督の名を世界のサッカー界に広く知らしめたのが、2000~05年にかけてのドイツサッカー連盟(DFB)時代だろう。

 98年フランス・ワールドカップでベスト8、ユーロ2000でグループステージ敗退と当時のドイツは低迷期に差し掛かっており、育成改革が急務だった。そこで彼はフォルカー・フィンケ、ラルフ・ラングニックらとともにドイツ全土のブンデスリーガのユースの整備に着手。シュツットブンクト(トレセン)の改革、移民に対するサッカー解放にも乗り出し、新世代のタレントが出てくるように仕向けたのだ。

「一番大きかったのは、ブンデスリーガのユースカテゴリーのトレーニング時間を倍に確保できるようにしたこと。それまでドイツの若いエリートは週4回、夕方から練習するだけだったんですが、さらに午前中に2回の練習ができるようになり、補習(自主練)も可能にしたんです。

 さらに地方の競技レベルを引き上げるべく、強いチーム同士が対戦できる仕組みを作り、トレセン活動の際にも専任の指導者、医療スタッフ、学校のサポートスタッフなどを配置。グランド整備も進め、一つひとつ、環境を改善してきました」

 努力の甲斐あって、2000年代半ば以降はバスティアン・シュバインシュタイガーやフィリップ・ラームといった若手が台頭。さらにメスト・エジルやトーマス・ミュラーのような技巧派も出てきて、ドイツのサッカーが目覚ましい進化を遂げる。

 
 その集大成となったのが、2014年のブラジルW杯だろう。準決勝でブラジルを7-1と叩きのめした「ミネイロンの惨劇」は見る者に衝撃を与え、圧倒的な強さで優勝。大きな成果を残したが、その種まきをした1人であるスキッベ監督も充実感を覚えたに違いない。

「昔のドイツは走れて戦える選手が圧倒的に多かったのですが、育成改革以降は技術や戦術眼のある選手が増えていきました。今の代表を見ても、セルジュ・ニャブリやレロイ・ザネのようなテクニカルなタイプが何人もいる。それはポジティブな要素だと思います。

 けれども、逆にかつての象徴的存在だったオリバー・ビアホフやミロスラフ・クローゼ、ルーカス・ポドルスキのような力強くタフに戦える選手が減ってしまった。最前線でターゲットになれるのも、今の代表ではニクラス・フュルクルクくらいで、ユスファ・ムココも敵を背負って何とかするタイプではない。そういった現実を踏まえると、やはりチームとして技術と強さのバランスが一番取れていたのが2014年だったのかなとも感じます」

 あれから10年が経過し、ドイツは2022年カタールW杯と2023年の親善試合で、二度続けて日本に黒星を喫することになった。約30年間、日本とドイツのサッカーの変化を見続けてきたスキッベ監督は、少なからず複雑な感情を抱いたはずだ。

「まさにドイツは『負けるべくして負けた』と思いますし、日本の急成長を痛感しました。20年前の日本はそこまで伝統や確固たるスタイルを持たない国でしたが、逆にいろんなものを吸収し、大きく進化を遂げることができた。今では世界トップに引けを取らない戦いができる国になったと思います」と、スキッベ監督は日本へのリスペクトを口にする。

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 とはいえ、日本も世界トップ・オブ・トップのタレントがズラリと並んでいるわけではない。ドイツもタフに戦えるFW、世界超一流クラスのDFの不足が課題となっている。両国ともにやるべきことは数多くあると指揮官は見ているようだ。

「ドイツ代表の現状を簡単に言うと、攻撃陣にはザネ、ムシアラ、ニャブリ、イルカイ・ギュンドアンと良い選手が揃っていますが、マッツ・フンメルスのように全盛期を過ぎている選手、ニクラス・ジューレのように世界トップから少し距離のある選手が中心になっていて、やはり物足りなさは拭えません。前も後ろも珠玉のタレントが揃う状態というのは、なかなか作れない。今は本当に難しい時期なのかなと思います。

 日本の方は森保(一)監督がアクティブでオフェンシブなサッカーをしていますし、それをチーム全体が共有し、一体感を持って戦えるのが強みだと思います。2022年のワールドカップではドイツだけでなく、スペインやクロアチアにもオフェンシブに挑み、互角以上にやり合った。そこは大いに評価されるべきでしょう。

 タレント的な価値も上がっています。前日、アジアサッカー連盟のコーチング会議にオンラインで出席した際、トッテナムのアンジェ・ポステコグルー監督と話す機会があったのですが、『日本人の能力の高さを確信し、勝つためにセルティックに複数の選手を連れて行った』と言っていました。

 堂安(律)や浅野(拓磨)にしても、ドイツでコンスタントにプレーしていますし、遠藤航もリバプールで出場機会を得ている。ただ、全員が世界超一流というわけではありません。そういう意味では全体を底上げし、個々のさらなるレベルアップを図っていくことが今後の課題かなと私は考えます」

 冷静に両国を客観視するスキッベ監督。彼は日本という異国に身を投じ、広島を率いるなかで、改めて確固たる前進を実感しているに違いない。

「日本の素晴らしいところは、Jリーグユースからそのままトップに上がる選手、高校サッカーからプロ入りする選手、大学を経由する選手、J2・J3などのレンタル移籍を経験する選手と、多種多様な育成ルートがあること。様々な環境から育ってくる選手がしのぎを削るのはポジティブなことだと捉えています」としみじみと語る。
 
 広島というクラブを取ってみても、かつては同じ94年生まれの野津田岳人と浅野という育成過程の異なる2人が同期入団で競い合っていたし、満田誠と川村拓夢も同様だ。選手を大きく伸ばせる育成力とスカウト力には、スキッベ監督も太鼓判を押す。

「サンフレッチェは育成・スカウトの部分で日本のトップクラブだと思います。たとえば、中野就斗と山﨑大地という2023年に加入し大きく成長した2人を見ても、中野は(桐生第一)高校から(桐蔭横浜)大学を経由してウチにスカウトされた人材で、山﨑はユースから(順天堂)大学に行って戻ってきた選手。マコと同じルートを辿っています。

 それぞれが異なる道を歩みつつ、それぞれに努力を重ね、今は良い形で切磋琢磨できている。それは本当に素晴らしいことですし、成長の原動力になっている。広島はそういうクラブだから私のような育成に長く携わった指導者を呼んだのでしょうし、私自身もやりがいを感じている。初めて日本に来てから約30年後にここで働くことができて、本当に充実にしています」

 今ではドイツビールよりも日本のビールの方をより好むという指揮官は、心から日本サッカーをリスペクトし、持てる経験値を注ぎ込もうとしている。こうした献身的な姿勢は必ず選手・スタッフ・サポーターに伝わるはず。ここからの広島がより一層、楽しみになってきた。

※第2回終了(全3回)

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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